第十話〜燃え盛る嫉妬!
炎のナイスガイ、バーンVSひねくれエミリオ!!〜


 「よぉ、エミリオも一緒か。」

 男は親しげに声をかける。

 赤いジャンバー、黒いズボン、そして天を突く様な奇抜な髪型。
異彩を感じさせながら、その表情は優しい。

 「バーン、大丈夫なの?無理しないでよ。」

 ウェンディーが心配そうに声をかける。バーン・グリフィス、最近まで、後に触れる事になるが、箱船高校爆破事件に巻き込まれ、重傷を負っていたのだ。生死の境をさ迷った挙げ句、最近ようやく学校に出れるようになったのだ。お陰で現在二十歳。

 先に彼の服装について注訳しておこう。箱船高校ではとりあえず、制服が指定されている。男子はいわゆる学ラン、女子はセーラー服である。エミリオでさえ、少々カラーがデカイなどの相違点は有るが一応学生服を着ている。ちなみに先のマイト君の場合、赤いシャツ半袖の学ランを羽織り、なおかつ肩当てをつけ、ゴーグルを首から下げると言う訳の分からない格好をしている。まぁ、生徒会員は大体そんな連中が多い。

 しかしながら、全く学生服から離れて別の服装をしているのはバーンその人ぐらいである。当然、いろいろと悶着はあるが、彼の性格上、それは些細な事であり特筆すべき事ではない。自分の道理は通す、しかしそれ以外についてはかなり気さくな青年なのだ。もしも、もしも先程せつなを蹴飛ばしたのがエミリオと言う事が分かっていれば、そんな拗ねた、歪んだ事をするな!と烈火の如く怒っていただろう。しかし、せつなは既に復活し、バーンにじゃれている。本能的に彼の優しさを感じ取っているのだ。

 エミリオにとってウェンディーが『優しいお姉さん』であるように、ウェンディーにとってバーンは『優しいお兄さん』であった。唯一、そして決定的に違うのは、エミリオがあくまで片思いなのに対してバーンとウェンディーは両想いになりかかっている事である。

 「がっ、羽根ーっつ!!エミリオ・・・何か辺なもの食ったのか?」

 「こらっ、何馬鹿なコト言ってるのよ!」

 他愛も無い会話が始まった。二人が話し始めると、なぜか入っていく事が出来ない。独りぼっちなんだ、ボクはのけ者なんだ。虐められっ子の頃を思い出す。いつも庇ってくれていたウェンディーでさえ、コイツのせいで遠くに離れてしまう。エミリオの心に、いつもの、自分でもいやになる想念が思い浮かんだ。

 僕のウェンディーを返せ。

 憎い、嫌いだ、どっかいけ!

 オマエナンカ、シンジャエ

 一瞬の事だった。エミリオの身体が耀きを帯び、一陣の光の束がバーンへ、彼の方向へと発射された!ただの光線ではない。それは光でありながらも流動的で、実体を、質量を持っていた。そして見ただけで、常人がそれに当れば只では済まないだろうチカラを持つ事を感じさせた。

 バーンの先には・・・ウェンディーが居た。バーンが避ければ彼女に当るだろう。バーンは、向かって来る正体不明のプレッシャーに対し、我が身を以ってウェンディーをかばう。エミリオはそれにようやく気が付いた。顔が真っ青になる

 ばしゅっ!

 バーンには当たらなかった。
せつなだった。彼が光の前に立ちはだかり、そして打ち消したのだ。

 「なんだ・・・今の・・・」

 沈黙、幸い廊下には他に誰も居なかった。しかし、あの光が散じた後の焦げ臭さと、壁や床に飛び散った焼け跡は隠せなかった。震えるウェンディーと、優しく彼女を抱きしめるバーン。

 エミリオは、震えながらも、笑っていた。笑いながら立ちすくんでいた。
その表情は、恐怖。自分の忌々しい力と、それを発動させてしまった自分。
愛する者さえ消し去ろうと、澱んだ感情に身を任せてしまった自分。
その為に、愛する者を危険に曝してしまった、自分。

 くるりと振り向くと、廊下を走り去った。




 「やっぱりここか。」

 箱船高校屋上、エミリオは落下防止のフェンスの前で、膝を抱えて座っていた。街が一望できる景観であるが、彼の目に何が映ってるのか後ろ姿からでは分からない。

 「話はコイツから大体聞かせてもらったぜ。」

 せつなを押しやりながら、バーンはエミリオの背中に話し掛ける。微動だにしない彼の背中であるが、羽根が、まるで病気の小鳥のようにちじこまっていて、彼の今の寂しさを告げていた。

 「お前は、独りじゃないんだぜ。俺も居るし、ウェンディーも居るんだ。」

 構わないでくれ、背中が告げていた。己の力に、そして暗い衝動に突き動かされた自分を呪っていた。自己嫌悪と軽々しく言えない程に彼の心は塞いでいた。そう、今ここから飛び降りる勇気も無いほどに。じっと、座り込む以外に無いくらい、全てが萎えていた。

 「コイツだって居るんだぜ。・・・力の暴走を防ぐにはコイツがいないとだめなんだろ?ほら、俺はもう帰るけど、コイツとは仲良くするんだぞ!」

 力の暴走・・・そうじゃ無いんだ、僕の心が、濁って、腐りきった僕の心が・・・エミリオは更に更に、悪循環を辿っていた。バーンの視線を感じる。そんな目で見ないでくれ、哀れむほどの人間じゃないんだ。居たたまれない、どうしようもない自分。

 バーンは、そんな彼に、とうとう肩を震わせ始めた彼にそれ以上告げず、屋上から去っていった。せつなと、エミリオが残された。せつなは、今まで黙ってバーンの言う事を聴いていたが、彼が去ってしまうと、エミリオにちょこちょと近づくと、彼に飛びついた。

 「はっはっは、このおれさまがいるかぎり、きさまがふあんがることはないのだ!」

 せつなはエミリオの背中にしがみつくと、ぺたぺたと頭を撫でた。

 エミリオは、体中で鳴咽しながら、
 せつなをさせるままにしていた。


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