第十四話〜放課後の対決!
カルロお手製メカ“アルファ”にどう立ち向かう?!〜
「エミリオ!せつな!!起きるのです!」昨日よりも更に包帯だらけのカルロが二人を叩き起こす。既にホームルームの時間が始まっていた。いつのまにかキースのポエムの時間、パティの歌も終っていた。
カルロの傷の増えた分は実はレジーナの焼餅である。カルロは、先日から貼られていたキースのポスターを事前に入手し、そして自分の部屋に飾っていたのだった。それを見つけたレジーナが荒れ狂ったのだった。話せば長くなるので後の回に廻すが、カルロはキースの熱狂的な支持者である。教師なのに。
「昨日逃げた分、本日じっくりとお話があります。後で生徒指導室に来るように。」
びしし、と上段から指差されるのは何故かエミリオではなくせつなの方だった。エミリオは怪訝そうな顔をする。せつなはカルロと同じポーズで指差し返すが彼がやるとクールさが無くなってしまうのが不思議だ。それを見て、カルロは不敵に微笑んだ。
その日一日、ブラド先生の実習授業を除けばつつがなく過ぎていった。前日前々日が濃すぎたと言う話もあるが。クラスの生徒もエミリオの羽根にもせつなにも慣れてしまった。エミリオが適当に授業を聞いているのに対し、せつなはお絵描きモードに入っている。箱船高校に“生徒”として認められたと言うより“エミリオのペット持ち込み可”扱いである。ノートと鉛筆は一応持ってきているが落書きでいっぱいで、そのうち疲れてしまったのか、午後になるとゆだれを垂らしながら眠ついてしまった。
「さて、今日は暇だから、カルロでも冷やかそうかな。」
授業終了後、帰りのホームルームを済ましたカルロを見送った後、エミリオはせつなを引っ張って生徒指導室へ赴いた。ここでカルロを怒らせて帰らせた後、おかしとお茶を食べるのが彼の日課だったのだ。
しかし、カルロの姿はなく、『グラウンドで待つ』との置き手紙が残されていた。
「果たし合いかな?行ってみるか?」
職員用のクッキーを齧りながら、せつなとエミリオは窓から校庭を覗く。カルロが独り、仁王立ちに成っているのを見て、このまますっぽかしてかえるのも面白いと考えた。しかし、一応義理なので場所を移動する。
「待っていましたよ、せつな君。」
せつな?俺じゃないのか??カルロの第一声にエミリオは目をぱちくりさせる。せつなは名前を呼ばれて、元気良く手を上げた。
「貴方は科学のため、この私の知識の為にその身を提供して頂きます!」
カルロの台詞とともに、突然地面が揺れ始める。
ずずずずずずず・・・・グラウンドの一角が割れ、二メートルは越すだろう大男。いや、ロボットが姿を現した。「カバラの聖典『ゾハール』に記されたゴーレム制作法、日本古来より伝わる傀儡術、そして最近のロボット工学の粋を集めた我がしもべ、“アルファ”です!」
学校の先生が何をしてるのだ・・・とエミリオはかなり引いたが、せつなは嬉しそうだ。小さな男の子がロボットに惹かれるのはこの世の摂理の一つだろう。
「余談ですが、アルファのフォルムは警察官のゲイツ氏をモデルにしました。」
ゲイツ=オルトマンはこの町の駐在さんである。こわもてであるが、気が優しくて力持ちで愛妻家で有名。ちなみに彼の娘のシェリーはエミリオと同じクラスである。
「でもさ、栞からお前にも話は行ってんだろ?せつなを取られちゃうと、俺、地球を破壊するかもしれないんだぞ。」
「その心配はありません。何故なら私が全知全能と成るからです!」
駄目だ、目がイッてる。とりあえず聴いてみたエミリオは、これ以上カルロに話し掛ける事が無意味である事を悟った。仕方が無いので、成り行きを見守る事にした。どうせ暇である。
「ターゲット補足、直ちに攻撃に移る。」
一昔前の合成音声と共にアルファが起動した。グラサンの下から赤い光が漏れる。ずしん、ずしいん。重い足取りでせつなに向かう。せつなは尻尾をパタつかせて、近寄って来るのを待っている。
突如、アルファの胸が割れた!開閉式になったその中から青い光の球が放出される!それはせつなに直撃し、焦げた臭いと電光が輝く!
「プラズマ発生装置ィィィィ!!」
アルファが黙っている分、雄叫びを上げるカルロ!こんなもん造るか!?とエミリオは思った。アルファは痺れて動けないせつなを軽々と掴み、膝で蹴飛ばす。ちっぽけなせつなはこれまた軽々と野球部のフェンスまで飛ばされてしまった。
距離を置いたのを確認して、アルファは背中のミサイルパットから、多数のミサイルを発射する!フェンスが粉々に砕け、地面も黒く焼けこげる。せつなも、痛々しく横たわっている。
「おいおい・・・これって銃刀法違反なんじゃないか?」
「ふっ、大丈夫です。何せ私は科学者ですから。」
銃刀法どころじゃないと思うが、訳の分からない説明で返すカルロもカルロだった。
そうして二人が目を離している間に、ピクリ、せつなの息が吹きかえった!「これいじょう・・・すきにさせるかぁ!」
びしし、倒れていたせつながポーズを決める!至って元気だ!でもちょっと髪の毛にアフロ入ってる!
「まっ、まだ倒れて無かったのですか!アルファ!殺っておしまい!」
アルファは今度はロケットパンチを繰り出した!何でもアリだ。しかし、せつなはそれを落ち着いて避ける。アルファの弱点は動きが鈍い事だ!ちょこまかとしたせつなに、あっさりと背中を取られる。
「しになぁ!くずが!!」
ぐさっ、アルファの胴に深々とせつなの拳が突き刺さった。そして、軽々とカルロの方に投げ捨てられた。
「おわりだ!」
慌てるカルロを尻目に、間髪置かずせつなの“ブラックサン”が炸裂する。ちゅどーんと特撮物の敵キャラのようにアルファは爆発する。
「きぃぃ!覚えてらっしゃい!」
アルファの破片を抱えると、一目散にカルロは逃げ出した。彼がどうして悪役女言葉になっているのか不思議であったが、これだけの物が造れるなら、わざわざせつなを実験台にする必要無いとエミリオは思った。