第十五話〜駐在ゲイツ!
そしてエミリオとせつなをキースは助けられるのか?〜
「はっはっはっは!なかなか面白い見世物だったぞ!」さぁ家に帰ろうとしたその瞬間、高い所から呼び止められる声がする。いやーな予感を胸に振り返るエミリオが見た彼は、嗚呼、誰が過つ事があろうか!?生徒会総帥キース・エヴァンス!と言うか彼ぐらいしか居ない。彼は体育館の屋根から一部始終を見下ろしていたのだ。
「・・・だからなんだよ。」
「その少年、気に入ったぞ。生徒会会員として迎え入れたい。」
高貴さを持つポーズでせつなを指差す。ポーズを取らないと喋れない奴多いな・・・とエミリオは思った。せつなは同じくポーズを取ってそれを聴いている、が、キースの言葉の大半は彼には理解できていないようだ。
キキキキキキィー!!!
突然校庭に鳴り響く耳障りなブレーキ音、ガシャリと乗り捨てられる自転車の音。気が付くと一人の巨漢が腰のピストルをこちらに向けていた。
「フリーズ、手を上げろ。」
反射的に両手を挙げるエミリオとせつな、ピストルを構えたままじりじりと近寄って来る警察官、彼の名はゲイツ。先に破壊された“アルファ”と酷使したスキンヘッドでグラサンの似合う、どちらかと言うと捕まえる側より捕まえられる側のタイプである。
警察法第67条に『職務の遂行のため小型武器を所持することができる』とある。小型武器と言うのは一般に“持ち歩ける武器”と言う解釈であり、拳銃はどんなものと言うような定義はされていない。ルパン三世の銭型警部が未だにコルトガバメントを使用している事を考えれば、ゲイツがデザートイーグルを所有していても問題はないだろう、そう言う事にする。
ちなみに“デザートイーグル”とは通称ハンドキャノンと呼ばれるほどゴツイ拳銃である。コンクリートのブロックを粉砕するパワーを持っていると言えばどれぐらいの銃かお分かり頂けるだろう。当然、弾を撃った時の反動も尋常では無いので、ゲイツのように体格のよろしい方でなければ使いこなせません。
「先程、校庭にて爆発が起ったとの通報が有ったのだ。お前達か!?」
大破したフェンスに気が着いた彼は、拳銃をエミリオとせつなに向けたままじりじりとそちらへ歩み寄った。
「硝煙反応確認、爆発の発生が推測される。」
ってか、地面が黒焦げなので、誰が見ても分かるのは秘密だ。第一見ただけでは硝煙反応は分からない。
「はっはっは、きょだいせんとうろぼっととたたかっていたのだ。」びししっとポーズを決めるせつなを、エミリオは後ろからひょいと口を塞ぐ。
「化学の先生が実験してたんですよ。室内だと危ないからって。」
「以前もこの学校では爆発事件が起きている。十分注意して頂きたい。」
「何でもいいけど、拳銃向けるのやめてくれません?」
「高校生と言えども油断はならない。過激派の年齢は年々低下している。」
訳の分からない事を言い出すゲイツは頑として構えを解こうとしない。そしてひょいと体育館の屋上を顎で示す。キースは先と変らず微動だにせず佇んでいる
「あの怪しげな奴も気になる。」
「失敬な、私はキース・エヴァンス、この学校の生徒会総帥だ。国家権力が神聖なる学び舎に立ち入り、学童に武器を向けている事が私には気に入らない。」
怪しげなのを否定しないのが彼の良い所だ。しかし、銃口を向けられ続けられているエミリオには渡りに船、藁にもすがる思いでキースをちょっと見直した。
「・・・それもそうだな。先の化学の先生と言うのを当る事にしよう。」
キースの毅然とした態度にゲイツも納得したようだ。拳銃を下ろす。そして腰のフォルダーに収めようとした瞬間、いつのまにか彼の足元に移動したせつながそれを引っ手繰った。
「わーい、ぴすとるだぁ!」
嬉しそうにするせつなはずっしりと重いデザートイーグルにすっかりニコニコ顔だ。さすがに後ずさりするエミリオ!しかしその銃口はキースの方に向けられていた。しかし、さすがはキース、微動だにせずせつなを見下ろし続ける。彼の度胸なのか、びびって動けないのかは問わない事にしよう。
「うごくなぁ!」
せつなが拳銃を奪いかえそうとするゲイツに銃口を向ける。エミリオはさすがに動揺する。キースは体育館の上からでは何も出来ない!が!何を思ったかやはり飛び降りた。
ゲイツはせつながトリガーに指をかけるのも気にせず、それを引っ張ったのも意に介さない。エミリオの顔は真っ青になるが、彼はすっと銃を取り上げた。
「安全装置を解除しなければ、銃は撃てない。」
一言言うと、ゲイツはくるりと校舎の方を向き歩き始めた。彼を追いかけようとするせつなを引き止めつつエミリオは一歩も動けない状態だった。
一方その頃、体育館の屋根から飛び降りたキースは、たまたま通りかかった剣道顧問、鈴木正人(仮)の上に落下、奇跡的に怪我をせずに済んだと言う。