第十七話〜初めてのお使い
そして二人目の覚醒者出現!?〜
「おう!やっと帰ったか、遅かったな!」エミリオ&せつなの帰宅にガデス親父は完璧な風呂上がりスタイル、酒屋の粗品のタオルを腰に巻き、コーヒー牛乳を片手に出迎える。こだわり派の彼はコンビニの紙パックではなく、毎朝牛乳と共に届けられる瓶の物でなければ満足しない。
エミリオはいつもの事なので気にしていない。“風呂上がりポーズ”をラーニング中の、せつなを指差す。「コイツのせいだよ。」
「くっくっく、おれさまのせいだ!」
人に罪を擦り付けようとするエミリオと無邪気さ故に肯定するせつな。
「そーか、おめーのせいか、ならちょっと頼まれごとしてもらおうかな。」
そして冗談の通じるガデス。せつながタオルを引っ張ろうとするのを牛乳を持ってない方の手で押える。露骨に面倒臭そうなエミリオ。運命共同体であるせつなが言いつけられたなら彼もついかざる得ないのだ。
せつなはと言えば、初めてのお使いに興奮気味である。しきりにポーズを取り喜びを表現している。エミリオは一人部屋に戻り、どうでもいいもので一杯のカバンをベッドに叩き付けた後、さっさと着替えた。
「はっはっはっは、おつかいなどこのおれさまにかかればたやすいのだ!」買い物かごを頭に乗せて、せつなは歩きつつポーズを取る。エミリオはそれを不信そうに見ていた。そりゃまぁ、お使いぐらい出来ずにどうする。クールな彼に幼児のはしゃぎはうざいだけである。むらむらと巻き起こる嗜虐の衝動に耐えながら歩を進める。
住宅地の一角に煙草屋がある。そこまで煙草、もとい葉巻を買いにやらされたのである。この禁煙時代、低タールシガレット時代に葉巻(シガー)しか吸わないのはガデスぐらいだろう。しかもハバマ産の良い奴しか吸わない。家計を十分圧迫してるのは秘密である。当然、近場の自販機には売ってない。著者も千円以上のタバコを売ってる自販機は見たことがない。
余談ながら著者はPeace、いわゆるショートピースを愛好している。タバコは大人の嗜みです、他人の迷惑にならないよう吸いましょう。ってか、飲み会で当然の如く吸い始める奴、嫌いさ。
何はともあれ、どうしてこんなもんに金使うんだ、それだったらオレの服買ってくれよとエミリオが念を送りながらも五千円札でお釣が千円ちょっとと言う嗜好品をせつなは間違えず買う事が出来た。いきなり高額のお使いを言い渡されたせつなが、まごついている図は初々しい。
未成年へのタバコの販売は禁止なのだが、「えらいねぇー」を連発する店番のお婆さんはそう言う堅い事は言わない。と言うか、これを買って行くのはガデスしか居ない。ってか、最近の若い者だと吸う事すら出来ない代物である。
不良少年の割に彼が煙草も酒もやらないのは多分にガデスを見てきているからであろう。お分かりだと思うが、ガデスは酒も良い奴しか飲まない。つつがなく買物は終了したので、つつがなく帰路に就く。交番の前を差し掛かった時にやたらと人だかりが出来ていたので別の道を行く事にした。ゲイツが鈴木正人(仮)を尋問していたのは彼らは知らない。
と、横からいつもの木刀が襲ってきた!エミリオは例によってせつなを盾にする。ごちりと鈍い音がしてきゅうとせつなが声を上げた。エミリオが彼を放すとぽとりと道路に落ちる。
「煙草を買うような奴は全て斬る!」
「“斬る”って言わないと登場できないのかよ・・・」
多分そうだろう、とマイトは心の中で自答した。彼は自分自身で分からない所が多々ある。それが彼自身の秘密に迫るものなのか思春期の心の葛藤なのかはまだ触れないでおこう。
「貴様らのお陰で、剣道部顧問の鈴木正人(仮)先生がしょっ引かれたんだぞ!」
成り行きを全部見てなかった二人はどうしてそうなるのか謎であった。が、しかしエミリオの思考はカルロがうまく逃げた事を考えると身代わりにされたんだろうと瞬時に正しい推論を納めた。せつなはゲイツがカッコ良かったと思っていた。何でもいいけど、奴(鈴木正人(仮))の事をフルネームで呼ぶ必要なないとエミリオは思った。
「貴様らは許さない!食らえぇ!!!」
怒りに任せてマイトが振り下ろす木刀は、青白い光を纏っている!エミリオは異変に気づき慌てて避けるが、服をかすめていった時、バチバチと火花が飛び散った。電気だ!
「剣道部主将の奥義!『イナズマ斬り』だ!!」
啖呵を切るマイト、ネーミングが古い事に気がついているのだろうか。その時、エミリオの脳裏には疑問と不安が横切っていた。
『・・・まさかコイツも能力を?』
エミリオの羽根が疼いていた。あの思い出したくも無い謎のホンコン人の台詞が思い出された。自分の力が強力だから他人にも影響を及ぼす、そんな事を言っていた。ああ、しかし、奴の事は思い出したくない。
そんなエミリオを余所に、電撃を含んだ木刀をマイトは振り回す。
「俺の孤独な、修行と鍛練の結果だ!」
振り回しながら叫ぶマイト。・・・そう思っているならそれに越した事は無いな。多分、刀の摩擦と静電気がどうこうとか、そー言う風に奴は考えているのだろう。エミリオは瞬時に判断を下す。
彼の剣が稲光を発しつつ横になぎ払われた時、エミリオの身体は空を舞った。そしてマイトの顔を踏みつける。「隙がでかいんだよ。」
「むぎゅ。」
同時にボキッと鈍い音がしたのは聞かない方が良いのだろう。崩れるマイトを余所に、今の跳躍が驚異的だった事にエミリオは我ながら驚いた。自分の力も強力になりつつあるのだろうか・・・
「・・・やっぱり、コイツはもっと大事にしたが良いのかなぁ。」
マイトの一撃で今だ失神しているせつなを掴むと、エミリオは何事も無かったように帰路に就いた。しかし、覚醒し始めたのはマイトだけではなかったのである・・・