第十八話〜覚醒ラッシュ!
サイキッカーとして目覚めた彼らに待つものは一体!?〜
「マイトぉ・・・起きてよぉ・・・」はっと気がついたマイトの目の前にパティが居た。驚いて辺りを見渡すと体育館の裏のようだ。エミリオの足の裏が目に焼き付いていたが、その前後の記憶が無い。
「パティ・・・どうしたんだ?」
パティの両の手が自分の肩に触れていること気づき、マイトの頬は朱に染まる。彼の心臓が高鳴るのをお構い無しにパティの輝く瞳は次第に近付いた。
「歌を・・・聞いて欲しいの、私の心の歌・・・」
彼女の柔らかげな唇が開く。マイトも思わず、口を開けた。
しかし、そこからこぼれてきたのは甘い囁きではなく、とてつもない“音”であった。マイトは思わず耳を塞ぐ!しかし脳に直接響いて来る彼女の叫び声は彼の頭に抉り込むように響く。その音が遠のくのと同時に意識も遠のき、マイトは泡を吹いて倒れ込んだ。
「この力・・・使えるわ。」
立ち上がる彼女の表情はあどけなさが残る分、却って凄惨だった。
「おう、帰ったか!客が上でまってるぜ。」「客ぅ?」
せつなから葉巻を受取りつつ、ガデスは親指で二階を示す。そういえば玄関に見なれた靴と見なれない靴が有った気がした。見慣れているのはバーンの靴である。彼は靴もいつも同じである。
「上がらせてもらったぞ、しかし、ここは狭いな。」
何故本棚の上にいる・・・キースの奇行を何度も見せられて来たが、いくら見ても分からない。もう一足は彼のだったようだ。彼は窮屈さに耐え切れなかったようで、ようやく床に降りてきた。せつなが彼を迎える。
「まぁ、コイツは置いておいてだ・・・見てくれた方が良いだろうな。」
キースとはホントは一緒に来たくなかった、そういう顔を一瞬見せたが、部屋の真ん中であぐらを組んでいるバーンは真顔でエミリオに切り出した。
「見て・・・って何をだよ?」
バーンは右手を差し出した。その掌に突如、真っ赤な炎が揺れた。エミリオはそれを当然のように見つめてしまった。せつなは思わずその炎を触ろうとして、熱くて手を引っ込める。
「危うく、自分でボヤ起す所だったぜ。」
バーンはマッチの火でも消すかのように炎を振り消した。
「先程気がついたのだ、まぁ、私も自分の異変に気がついたのでこうして君の所を尋ねたわけだが。」
キースはバーンの隣りに立って、ポーズを決める。
せつなは足元で彼と同じポーズを取っている。キースのかざす手には、みるみる霜が降りていった。そこでエミリオは始めて、これが異能の力であることに気がついた。しかし、“先程”のキースとバーンが何をしていたのかのほうが気になった。「考えたんだけど、お前には伝えといた方が良いと思ってさ。」
「いや、エミリオ君、何を言いたいかは分かる。我々が君にこんな事を言った所でどうとも成るわけでもなく、君に要らない不安を与えるだけだろう。しかしだ・・・」
キースに君付けで呼ばれてエミリオ眉をひそませる。分かっているなら言うなよ。エミリオは睨み付けることで不満を表した。キースの演説が長いことはバーンは知っていたので、口を挟もうとするが彼はそれを制した。
「同じ秘密を持つ者としてお互い知っておくべきだと思ったのだ。我々の能力の発現が致命的に危険では無いことは、そこのせつな・・・とか言ったな、こういう奴が我々にはサポートしに来ていない。その点では我々の能力の発現など君の力に比べると取るに足らないということになる。
しかし、だからと言って我々も油断は出来ない。私の経験上、優れた能力、若しくは言動は一般人に取っては驚異なのだ。私も何度もあらぬ疑いを掛けられて不愉快な思いをしたものだよ。」それはアンタが変だから・・・と思ったが、望む望まないに関わらず他人から見ると自分等は十分“変”の域に達している事に改めて気づいた。背中の羽根を産まれた時から有った様に思い始めていた自分に、エミリオは愕然とする。
「まぁ、簡単に言えば信用できる誰かに話したかったわけだ。俺らしくもねーけど、さすがにビビっちゃってよ。・・・ウェンディーには心配かけたくないし・・・」
「何を言うんだバーン。僕がついているじゃないか。」
バーンにしなだれかかるキース、その上にのっかるせつな。用が済んだら帰ってくれとエミリオが思ったその瞬間、窓から音がした。ふと振り返るとウェンディーが居る。
「見て見てー!お空を飛べるようになったの!」
青空でとんぼ返りをうつウェンディーに、三人はずっこけた。
「栞様、諸処にて奇妙な、それで居て強力な気が発せられております。」「彼奴等の・・・エミリオ=ミハイロフと異形の者の気に似ておりますな。」
「分かっています、それも全て運命。」
箱船高校“奥の間”の灯火は、玄真、玄信、栞の姿を映し出していた。彼らは事態を把握しているかのようだった。影高野の秘術であろうか?
「このままではこの世は混乱に陥りますぞ!!」
大きな眉を釣り上げる玄真、同じくらい大きな眉を寄せる玄信。栞は暫く黙考したあと、凛とした表情で言い放った。
「仕方ありません、“術”の使用を許可します。人々に禍が降りかからぬよう阻止するのです!」