第十九話〜荒れ狂う狂気!
覚醒サイキッカーに影高野の追求が!!〜
「見てくれレジーナ!遂に僕は神に選ばれたんだ!」ベルフロンド兄妹は同じマンションの別の部屋に住んでいる。年頃の兄妹ゆえさすがに同じ部屋だと有らぬ噂が立てられてしまうからだ。と言うか、カルロの部屋は実験道具で、レジーナの部屋はぬいぐるみ各種と服で埋め尽くされているのが実状だが。
何はともあれ、早朝午前五時、無神論者の兄が神を語る時は何かの実験が一区切り付いた時だと相場が決まっている。低血圧気味の彼女はおぼろげに今までの失敗作を思い出していた。ちなみに、お互い部屋の合鍵を持っているのは極秘である。
「レジーナ!僕が君の兄である事を誇りに思ってくれ!とうとう僕は人間を超越した!!」
カルロはそう言うと、空中を凝視した。次第に何かが湧き出る様に空間を占めていった・・・水だ!これこそ有り得ない事だが、コップ一杯分ぐらいの水が、空中を漂っていた。フワフワと漂うそれを、寝ぼけ眼で漂っている瞳でレジーナは眺めていた。
「多分、今まで弄った試薬や放射線や魔術により、僕にいわゆる“超能力”が供わったようだ!これから研究と訓練を重ねていけば、僕は世界を支配出来る!」
論理にかなりの飛躍が有るが、レジーナは“世界を支配”の所で目が醒めた。
「兄さんやったね!これでカルロ・ベルフロンドの名前は永久に残るよ!今夜はビフテキだよ!!ホームランだよ!!!」
「そうです、偉大な指導者にして天才科学者、そして超能力者の第一歩です!」
喜び合う兄妹、しかし、それがエミリオの力の余波という事は未だに気が付いてない。いや、一生気が付かないだろう。二人はとりあえず、箱船高校から手中に収めるべく計画を練り始めた。
「さて、今朝のポエムは・・・何だねキミは!!」バーン、キース、そしてウェンディーまでが覚醒した翌日の箱船高校、先日、お互い能力のことは秘密にし、暫く大人しくしていようと話し合ったいたのだ。しかし、“朝のポエム”の時点で問題は起った。放送室からもみ合う声が聞こえる。が、紳士であるキースはとりあえず席を譲ってやったらしい。全校生徒に聞き覚えのある声が学校中に響いた。
「ギャーハッハッハッハ!ようようテメーラ!しけたツラして今日もまたお勉強かぁ?この優しいブラド先生が、これから勉強なんかしなくて良いようにみんなマトめてブチ殺してやるぜ!!」
ヤバい、悪ブラドだ。全校生徒が戦慄する。だが、放送室に居るのはキース。多分彼が最初に毒牙にかかるんだろうと大体の生徒が思った。そして彼が時間稼ぎをしている間に他の先生達が取り押さえるんだろうな、と三年生達は思っていた。過去も何度か、こういう事が起きていたのである。
「誰から殺されたか知らねーで死ぬのは嫌だろ?だからこうして、俺様ってだ名乗ってやってるんだぜ。さーてオメーら。ミンチになりてーか?それとも岩にでも砕かれて見るかぁ?」
ハッと、バーンとウェンディーは顔を見合わせた。もしかしたらブラドも超能力に目覚めたのでは・・・若干の不安が彼らを過ぎった。彼は生物の先生、“ミンチ”は兎も角“岩”が気になる。
ちなみにエミリオとせつなは、先日遅くまで居座っていた客人達(特にキース)の後片付けの疲労で、ぐっすりと就寝中であった。「待つのじゃ!お主、悪しき気に取り憑かれておる!!」
「大人しく従うならば手荒な真似はせぬ。ささ、我らと共に“奥の間”へ来なされ。」
スピーカから新たな声が響いた。ブラドの行く手を玄真と玄信が阻んだのである。
ここは巻き込まれない方が良いな・・・キースはこっそり、放送室の窓から脱出した。いつもならば無条件で強打する彼であるが、超能力のお陰で無事に着地できる。彼にとってこの事が最も嬉しかった。
どんな高い所からでも出現できる・・・いやしかし、今までどうやって屋根の上などに登れたのか、謎である。
「ああん?オメーらが俺様を止めてくれるのか?」
ブラド、そして玄真と玄信が睨み合っていた。数では一対二。数から言っても術との付き合いも玄真玄信の方が長じている。しかし、ブラドの能力が分からない以上、安易に手を出すべきではない。
「オラァ!これでも食らいやがれぇ!!!」
ブラドが何かを放つ。黒い力場が放送室の壁と窓を突き破った。強力なそれに、玄玄ブラザーズも少々ひるむ。スピーカーを通して、破壊音が各教室にも届いた。ガシャン!何人かは身を竦め、女子生徒の甲高い悲鳴が大きくこだました。
「くたばれぇ!!」
放送室がずたずたになるほどの力場が生じた。玄真がそれに呑みこまれ、彼の身体にマイクやデッキ等、放送器材がぶち当たっていった。既に放送は不可能である。各教室のスピーカからはノイズしか聞こえない。ようやく生徒に不安が広まっていった。しかし彼らのは唯の憶測でしかなかった。バーンとウェンディーは真実が分かった。自分らの不安が的中した事、しかしかといってどうしようもない事歯がゆく思っていた。エミリオとせつなはまだ寝ている。
玄信は何とか、力場から逃れる事が出来た。隙を見て、ブラドに飛び掛かる。放送器具が破壊された以上。生徒達に自分らの力が知られる事はない。安心して全力を出せる。
「滅!」
玄信はブラドに呪符を貼り付け、吹き飛ばした!
その衝撃でブラドは壁に弾き飛ばされた。ブラド自身が変形させ、でこぼこに歪んだ壁に叩き付けられ、ブラドは意識を失った。「むぅ!お主!やるのぉ!!」
玄真が目を覚ました時には既に終っていた。彼は玄信の冷たい視線を感じつつ、ブラドを背負っていった。
「ふぅ、私も危うく彼と同じ過ちをする所でした。」カルロは職員室で、今朝のレジーナとの会議が無駄であった事を知った。すっかり、影高野の存在を忘れていたのだ。力に突然目覚めたので思考がオーバーヒートしていたようだった。やはり、高校の一つなどケチな事は言わず、世界を手中に収めるべく努力をするべきだろう。もう少し周到な準備に取り掛かろう。彼の胸は熱かった。
「・・・チッ・・・奴らは邪魔ね・・・」そしてもう1人、玄信達の活躍の一部始終を見届けてたパティはそっと呟いた。彼女の能力は音・・・放送室を占拠すればどうとでも成ると思っていたのだ。
作戦変更を余儀なくされ、一時退却を決めたパティ。しかし、彼女の脅威はこれから始まるのだった。