第二十一話〜荒れ狂う愛憎!
キースをつけ狙う影がまた一つ!!〜


 私のキース様と・・・私のキース様とあんなに馴れ馴れしく話すなんて!!
箱船高校事務員、ソニアは談笑するキースとウォンの様子を影から窺いつつ、深い悩みに陥っていた。ちなみに反対側にカルロがハンカチ噛みつつ悔しがっている。

 ソニア、本名クリス=ライアン、ウェンディーの実の姉である。ウェンディーは彼女(ソニア)が自分の姉であることは知らない。クリスは大学での実験事故の為、帯電体質となってしまった“電気人間”である。

 とはいえど、そんなに酷いものじゃない。実際冬場の静電気が辛いぐらいであるし、大学からも多少の見舞金は出た。それでも彼女は持ち前の薄幸さを発揮して、曰く

「私がこんな身体になって・・・あの子(ウェンディー)は何と言うかしら・・・あの子は良い子ですもの、ただ黙って受け入れてくれることでしょう。でも、他の人はどうなるの?あの子虐められるんじゃないかしら。

『やーい、怪奇電気女の妹〜!』とか

『ウェンディーの姉さんは一万ボルト!!』とか

 散々嫌がらせをされるのよ。泣きながら帰ってくるあの子に私はなんて声をかければいいのかしら・・・ああ、ごめんなさい!全て私が悪いのよ!!謝る私にあの子はこういうの、『ううん、いいの、おねぇちゃんが元気ならそれで。』

 なんて健気なの・・・涙がこぼれてきちゃう。思わず抱きしめて・・・ああ!駄目よ!!帯電してる電気があの子を直撃してしまう!あのこの心臓は衝撃に耐えられなくて、それでも今際の際に・・・『おねぇちゃんはわるくないよぉ・・・』って微笑んで・・・

 ああっ!可哀相なウェンディー!!泣いても泣いてもあの子は帰ってこない・・・途方にくれながら、あのこのお葬式をするの・・・ああ、ウェンディー、微風の様に優しい子。あの子が好きだったお花やアクセサリーにいっぱい包まれて、それで、あの丘の上に・・・いっぱいいっぱい、お花を植えるね。そして毎日私はお墓参りするの。朝夕、朝は私の見た夢を、夕方は一日起きたことをあの子に伝えるのよ・・・」

 切りが無いので以下略、彼女は強力な妄想癖をもっているのだ。と言うか、彼女の帯電体質なんぞたかが知れているので人が死ぬことはない。とにかく、自分はもう人として駄目だと、ウェンディーにも合せる顔が無いと、さまざまな理由で大学を後にしたのだった。

 教授の一人は彼女のこの猛烈な妄想癖が生活の差し支えになることを当然の事ながら見切った。彼は箱船高校が慈善事業をしていることをたまたま知っていて、それで事務員として彼女を転がり込ましてもらったのである。

 クリスは名をソニアと変え、そこで事務員に徹した。変名で学校の仕事が出来る、そんな芸当が許されるのは箱船高校ならではである。
 当然、ウェンディーには連絡はしていない。彼女は姉が突然行方不明になったのに半狂乱になったが、

「君のお姉さんの妄想癖を知っているだろう?それを治すためなんだよ。」

 と、箱船高校の使いから説明されて納得した。しかし、姉に逢いたいという念が昂じて箱船高校に入学。それから彼女を探し続けるが、影高野の巧妙な撹乱作戦により未だ果たしていない。

 そんな彼女は恋してしまった。生徒会総帥、キース・エヴァンスに・・・しかし、彼は自分を一介の職員としか見ていない。それがソニアには辛い。いっそ全てを投げ出して彼の胸に飛び込みたい。

 しかし、彼は人気が高い。そのうえ彼には想い人がいる。それがバーンであることをソニアはいつも苦にしていた。強力な妄想癖の彼女には相手が男性ということは彼女の考慮には入ってない。

「ああ、キース様キース様キース様。どうして貴方はそんなにキース様なんでしょう。貴方のその白銀になびく髪の毛、その優雅な身のこなし、乙女の心を狂わせるその冷たい視線。ええ、その一見冷たい瞳の中に温かな情愛が含まれていることを私は知ってますわ。いつの日かその心の氷が氷解する時をソニアは待っております。

 そう、ある日の夕方、気持ちの良い木漏れ日に私がふと顔を上げているとあの人が優しく微笑んでくれるの。

『ああ、ソニア・・・だったかな。』

『あ、キース様こんにちは。事務をやっておりますソニアと申します。』

『ソニア、か。いい名前だ。』

『えっとあの・・・キース様?』

『なんだい?』

『・・・私・・・以前から貴方の事をお慕い申し上げて・・・』

『分かっているよ、ソニア。』

『えっ・・・キース様そんな・・・』

『どうしたんだい?嫌だったかな?』

『いえ・・・余りに急だったもので・・・』

『可愛い唇だ』

『そんな・・・キース様ぁ・・・』」

「はっはっは!どうしてひとりなのにふたりぶんはなしているのだ!?」

 ヒィ!!瞳を閉じ、恍惚とした表情で唇を受けようとしていたソニアは思わずのけぞる。
そこには、暫く前から、エミリオとせつなが彼女の独り言に耳を傾けていたのだ。声もかけなかったエミリオもエミリオだが、やはり若気の至り、妙齢の女性の艶めかしいシーンに見とれないわけが無かった。と言うか、むしろもう少し見てたら服を脱ぐのではと思っていた矢先、せつなが声をかけてかなりむかついている。

 ソニアはエミリオとせつなを振り切って走り出した。

「知られてしまった!私の秘密を・・・キース様のことも私がウェンディーの姉であることも・・・あの子・・・知られたからには・・・只では済まないわ・・・」

 以下、略。と言うか、ウェンディーの部分はエミリオは聴いていない。知らぬ間にソニアからも狙われるようになったエミリオ、彼の行く手に幸せは来るのだろうか?


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