第二十二話〜動揺する“W”!
今明かされるマイトの秘密!?〜
一日の授業が終り、放課後。エミリオはいつものようにせつなと一緒に帰路に就いていた。家に帰っても特に何もやらないのだが学校に居続けるとカルロから絞られたりマイトが喧嘩売ってきたり、キースとバーンが夫婦漫才し始めるのでウザったいのだ。青春を謳歌するなんてアナクロ熱血思想は彼には無い。もちろん、ウェンディーがどこぞのマネージャーでもやっているならまた話しは別なんだろうが。まぁ、エミリオの場合は何もしなくても不運が舞い込んでくるので、結構忙しいのかもしれない。
「今日は変な一日だったな・・・」
「はっはっはっは、ひさびさに“W”のばかづらがみれたからたのしかったのだ。」
びししとポーズを取るせつなの言葉に、エミリオは一瞬引く。馬鹿面・・・せつなの意外な一面を垣間見た気がした。
「もしかして、お前ってあいつ、嫌いか?」
「とうぜんだ、あのおやじのどこをすきになるというのだ。やつははやめにしまつして、このおれさまがまほうのくにのおうさまになるのだ。」
お前が言うかよ、エミリオは苦笑いする。ふと、魔法の国が如何なる世界なのか疑問が湧いた。あんな奴(ウォン)が長で、コイツがその実動部隊。ほのぼのした世界が思い浮かんだ。
しかし、よくよく考えればせつなには凄まじい攻撃力がある。あの“W”は?更に強力な力を持つのではないだろうか。如何なる能力かまだ想像出来ないが、長を名乗るだけの力は持っているのだろう。そして彼らから心配されている自分は・・・。
「あ、らーめんやさんはっけんなのだっ。」
せつなの素っ頓狂な声がエミリオを現実に戻させる。物珍しさからか空腹さからだろうか、せつなが道端の屋台に近寄っていくのをエミリオはやれやれといった表情で追う。
「あれ?親父?」
「おう、エミリオ。せつなも一緒か。」
暖簾をくぐると、そこには焼酎のグラスを手にしたガデスが座っていた。幾ら葉巻や酒に高級さを求めても、ガデスには庶民的な泥臭さが似合っている。
「ここのラーメンは結構いけるぜ。おう、オヤジ、ラーメン二つ追加な。」
「はい、かしこまりました。」
背中しか見えない店のオヤジの声が誰かに似ていた。背丈もいましがた見てきたばかりのような気がする。いやな予感は良く当る。
「はっはっはっは!エミリオ君、今日は縁がありますねぇ。」
「”W”!!!!!!」
振り向いたオヤジの顔はまさに“W”!
ガタン、と屋台のカウンターが揺れた。エミリオは両手を付いてのけぞっている。せつなといえば、先ほど自分が悪口言っていたことをすっかり忘れてなついている。「失礼ですね、この姿の時は“素敵な”リチャード・ウォンです。」
「おう、そう言えば。」
ウォンの、眼鏡の奥のラーメンより細い瞳がキラリと光る。ガデスは今初めて気が付いたようだ。
「何でラーメン屋やってんだよ!学校はどうした!?」
「同じ時空に複数人存在するぐらい、魔法の国の長として容易いことです。」
するな、気持ち悪い。それ以前に必然性が無い。
そう思ったエミリオの心を読んだのか、ウォンは弁解に入る。「魔法の国と言えども不景気でしてね。長だからと言って十分な収入があるわけではないのです。ですからこうして俗世に出て働かないと食べていけないのですよ。ラーメン屋以外にも、貿易会社等も営んでいますよ。」
だから忙しいって言ってたのか。エミリオは納得した。しかし、自分のバイトと世界の破滅を天秤にかける彼の思考についていけなかった。が、ウォンが常に自分に引っ付いている事を考えればそれは良かったのかもしれない。
「ええ、私としては貴方と寝食を共にしたいと思っていますがね。」
エミリオは咳き込んだ。ガデスが下卑た笑いを浮かべるが、一瞬で真剣な顔になる。エミリオの顔が恐かったのではなく、殺気を感じたからだ。
さすが元傭兵と言うべきだろう。瞬時の反射神経と判断力、行動力は鈍っていない。エミリオより疾くせつなを掴み、盾にする。電撃をまとった木刀はせつなにクリーンヒットした。いつもより余計、せつなのたんこぶは膨れ上がる。そこには例によってマイトが立ちふさがっている。と言うか、背中を向けたエミリオに斬り掛かっているんだから卑怯この上ない。
何をする!とエミリオが叫ぶ前にマイトがいつもの啖呵を切る。「買い食いするような奴は全て斬る!」
ぐぅ〜
同時に彼の腹が鳴った。どうやら自分が空腹なんで苛ついてたらしい。余りのタイミングの良さに、エミリオは戦意が削がれ、失笑する。「なんでい坊主、腹減ってんのかい。俺が奢ってやるぜ。」
一見してマイトとエミリオの因縁を悟ったくせに、変な所で気前のいい所を見せるガデス。若干の戸惑いを見せるマイト。そして、
「マイト?・・・こんな所に・・・」
そして麺を茹でつつぼそりと呟くウォン。気に入らない奴が割り込んできたのでさっさと帰るつもりだったエミリオだが、彼の地獄耳はそれを聞き逃さなかった。居座る事にする。
「何だ?お前家が無いのか??」
ガデスは自分の隣りにマイトを座らせ、あれこれ訊いている。気さくな話術も、傭兵術の一環である。情報を引きだすつもりはないのだが現役の時の癖があるらしい。エミリオはウォンが耳をそばだてているのを見逃さない。
「いやある!・・・土管だが・・・」
ぶっ、マイトの言葉にエミリオは吹き出す。怒りを顕わにするマイトであるが、ガデスに説き伏せられ、自分のことを語りだした。
自分は記憶喪失らしい。気が付いたときにはこの街の空き地の真ん中にいた。それを介抱していたのがパティ、その頃から彼女に頭が上がらなくなっていた。後から知ったが、その土地は自分のものらしい。そして箱船高校への入学手続きも済んでいた。一通りの金はあるので、それを倹約しながら生活している。土地を売ってもいいのだが、それは何故か気が引けて、土管を家代わりにしているのだと。それと、何故か人を攻撃するのが習慣になっている。これは自分でもどうしようもないのだと。
ラーメンを啜りながらのマイトの話に、皆は聞き入っていた。せつなだけはラーメンと格闘中、麺が頭に飛び散り、汁でベタベタになっている。エミリオはずっとウォンの様子を見ていた。やはりおかしい。その常人では分からないほど細い瞳が、やや浮ついているのだった。
マイトと別れ、ラーメン屋を後にしたガデスとエミリオ、そしてナルトを頭に載せたせつな。
「ありゃ、素人が深入りしちゃ駄目だぜ。」
ガデスはエミリオだけに分かるように、そっと呟いた。