第二十三話〜激白?
せつなの過去に慄然とするエミリオ&ガデス!〜


 「さて、どうする?」

 悪夢のラーメン屋からの帰り、ガデスはエミリオとアイコンタクトを取っていた。謎の中国人“W”がマイトの事に何か関わっている事は二人とも分かった。それから深入りするつもりかどうかをガデスはエミリオに訊いているのだ。“W”のあの様子だと、彼に直接聞いてもはぐらかされるだろうし、マイトの側を調べても、それには多分妨害が入る。

 ガデスは暗にせつなから情報を引き出す事を提案していた。今の今までせつなにの事を知らないのも奇妙だった。この際全部聞き出してやろうという魂胆である。

「でも、“W”から妨害が入らないかな?」

 ガデスに困惑の表情を向けるエミリオ、しかしガデスはにやりと笑う。

「いや、やっこさんマイトの事で頭がいっぱいだぜ。チャンスは今しかない。」

 ガデスの傭兵らしい思考回路にエミリオは感心した。感心というリアクションが取れるのも、ガデスの教育の賜物であるかもしれない。と言うか、こんな悪巧みが出来る時点で普通の高校生ではないのだが。

「はっはっは、おうちにかえったらてをあらってうがいをするのだ!」

 家につくと、せつなはじゃぶじゃぶと手を洗う。頭のナルトが落ちるぐらいの勢いで洗っているため、彼自身びしょぬれである。手を拭きながら、頭も拭いてるせつな。
 そんな彼をガデスとエミリオは待ち構えている。

「なぁ、“W”ってどんなやつなんだ?」

 何気なくエミリオは話し掛ける。ガデスは何食わぬ顔で様子を見ていた。余り“訊きたい”という雰囲気を出すと警戒される。せつなは嬉々として答える。難しい言葉を使うので、舌が廻ってないのだが。

「やつのことなどしらぬ!なにせやつのぷらいばしーはなんじゅうにもせきゅりてぃーがかかっているからな!!」

 これは二人をがっかりさせたが、ある程度は予測できた。やっぱりな、と心で思っていても外には現さない。いつものようにポーズを取るせつなに、エミリオは心を読まれないよう、いつものように見下すように話を進める。

「ってか、魔法の国ってそもそもなんだんだよ。」

「まほうのくにとは、このせかいをまほうによってささえているひみつのせかいだ。まほうがつかえるこのおれさまはやつにすかうとされたのだがな!」

 ここまで言って、せつなは思い出したように自分の口を両手で押さえた。言っちゃいけない事だったのか?それは好都合。にやりとしたエミリオにせつなは慌てて言葉を続けた。

「ここからさきはきぎょうきみつだ!しゃべるわけにはいかない。」

「なぁ、ほんとに企業機密なのか?」

 びししとポーズを決めるせつなにタイミング良くガデスが口を挟む。せつなはきょとんとした。エミリオはガデスがどんな風に聞き出すか興味しんしんである。

「まほうのくにのおきてだ。おれさまじしんのことにかんしてはやつからさんざんくちどめされているのだ。」

「信用デキねーなぁ。お前が勝手に勘違いしてるんじゃないか?」

 ぐ、せつなは返答に詰まる。ガデスはせつなのおつむを散々にいじめるつもりらしい。エミリオはガデスの尋問に感心する。

「ばかにするな!このおれさまのあたまのよさをしらないな!!」

「どうだかなぁ。ガキのおつむなんぞ知れてるからなぁ。」

 信用できないぜ、という表情のガデスに、せつなは苛つき始める。プライドの高いせつなには小馬鹿にされることは耐えられない。もちろん、勘違いはなはだしいプライドではあるけど。

「ああ、いいだろう。このおれさまにもんだいをだしてみな。ちゃんとこたえてやるぞ!こたえられなかったらおれさまのことをはなしてやろう!」

「64から58ひ引くと、幾つだ?」

 間髪を入れずガデスは問題を出す。せつなは両手を使って計算しはじめた。手と指を目の前に、それを睨み付けるようにせっせと指折り計算する。そして、三分ほど経って、にやりとせつなは笑った。

「はっはっは!6だぁ!!」

「惜しいな、7だよ。」

 完璧なまでのせつなの自信は、ガデスの答えに打ち砕かれる。大笑いしている動きがぴたりと止まった。

「なぜだー!!!」

 絶叫しつつ反り返り、全身で悔しがるせつな。エミリオはガデスの話術に慄然とした。賢明なる読者諸君は理解されたと思うが、“64引く58”は6である。ガデスは嘘をついた。が、確認もせずそれを信じたせつなの負けである。
 エミリオはガデスに育てられたことに、今更ながらブルーになった。

「しかたない、やくそくだ。おれさまのむかしばなしをしてやろう。」

 おもむろに遠い目(見やる方向におもむろに腕を伸ばす)をして、せつなはその限りある言語能力を駆使して自分の生い立ちを話しはじめた。




「はっはっは!今日も俺様のポーズがっ(びしっ!びしっ!びしししししっ!)冴えてるぜ!」

 白昼往来、道端でけばけばしいコスチュームに身を包み、恥ずかしげも無くむしろ誇らしげに怪しげなポーズを取る男、彼が“マジカル☆せつな”の前身である。ある意味今のキースに近いものがあるが、残念ながら彼には気品と言うものが存在しなかった。

 それもそのはず、彼は何の変哲もない中流階級に生まれ育った。家族を養うと言う名目で家族を省みない自己中心的な父親、夫に従順にみえて実は愚鈍なだけの母親、それが普通だと思ってしまった卑劣な兄弟。多感で純粋な彼は家族の中で浮いていた。形式だけの平等主義のにおいて自己主張は我が侭であり、優れた考えは異端だった。

 ただ、彼は自分が子供である事を考慮に入れていなかった。親に対する憎悪と蔑視は社会全てに向けられた。それが彼のミスでありそれからの成長過程の汚点となる。どんな時も横柄な態度を崩さないため良く苛められた。

 彼は積もる不満をコスチュームとポージングで解消する事になり、それがまた、彼と社会とを隔絶する事になった・・・そんなある日の事である。

「ハッハッハ、貴方は私と同じ力を感じますねぇ。」

 彼が振り向くと、どうだろう自分のコスチュームの数倍は金がかかっている中華系コスチュームの中年男が立っている。その東洋風の顔立ちと眼鏡の謎の男に彼は戦慄を覚えた。

「ぐっ・・・なんてマニアックなコスチューム・・・しかぁし!この俺様のポーズには敵うまい!」

 謎の東洋人にポーズを決める彼、と言うか、意味が見えない。東洋人は困惑の様を呈するが、気後れすることなく彼を見据えた。

「貴方の流れるような腕、深く入った腰、そしてその目・・・良いですねぇ。しかし貴方には強力な“闇”の力を感じます。放っておくと取り返しのつかない事になりますよ。」

「強力な力(びしし)?秘密にしていた力を何故貴様が知る!!(びししっし)」

 力・・・そう、彼の歪んだ感情は彼に強力な“力”を与えていた。そして、謎の東洋人の出現に同調するように力は強大なものとして発現した。その力の強大さに、彼自身翻弄される。

「うがぁ!!何故だぁ!!!!!!」

 暴走するその姿に、東洋風の男は顔を顰める。
まずいですねぇ、このままでは私がわざわざ赴いた意味が、なくなってしまうではありませんか。

「仕方がありません、『強硬手段』を取らせて頂きます!」

 謎の中国人“W”が何をしたかは今となっては分からない。“彼”が気がついたとき初めて見たのは微笑みを湛えた“W”の姿であり、その時にはすっかり“せつな”になっていたのだから。




「・・・そうして、まほうのくにでちからのこんとろーるやらいろいろしゅぎょうして、いまのおれさまになったのだ!わるいちからでこのすがたになったから、いいことをいっぱいしないとにんげんにもどれないのだ!」

 ガデスもエミリオも彼の話を理解するので手いっぱいであったが、せつなの物語に聞き入っていた。「“W”はやっぱりヤバイ奴だ」と言うのが率直な感想であったが。

「一つ訊いていいか?人間からその格好に成る前って何歳だったんだ?」

 道端でポーズを取るその男の年齢がエミリオは妙に気になった。ガデスも口には出さないが同じ事を考えていた。こいつ、本当は何歳なんだ?
 せつなは大威張りでポーズを取る。

「はっはっは!おれさまはいまもむかしもにじゅうななさいだ!!」

「さて、飯の支度しないとな。」

「あ、オレ、宿題する。」

 せつなを無視して、ガデスもエミリオもさっさとその場を後にした。考えたくない、これ以上話を聞いてしまうと、頭がどうにかなりそうだった。二人とも“彼”の事が頭に上らないように日常に没頭する事にした。
 せつなだけは、例によって事情が飲み込めてなかったが、そのポーズは揺るぐ事はなかった。


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