第二十四話〜悪夢
知ってはならぬ事を知ってしまったエミリオの夢に・・・〜
たたたたたんたたんたん・・・たたたたたんたんたん・・・何処かで見たような風景に何処かで聞いたような調べが流れる。単調な曲とぼんやりした風景、しかし彼はそれらに注意を払わない。ただぼんやり、彼は佇んでいる。彼の眼はまっすぐ、二人の影を捕らえていた。一人の少年を、もう一人が苛めている。
うずくまって泣いている彼に情け容赦無く殴り付ける彼。その光景を見ている彼は、別段止めようともせず、ただ成り行きを見守っていた。小さく、弱々しい方は殴られるに任せていた。泣き叫び、必死に止めるように求めてはいるが、口先だけの抗議が無力である事を自分で知っていた。むしろ知っていると彼は分かった。しかし彼にはそれ以外の抵抗は出来なかった。
彼の、あまりに受動的な振る舞いを、彼は歯がゆく思っていた。「そんなにボクが嫌いか!!」
もう一人が、容赦無く足で踏み付けた。鈍い音がして彼の体が妙に歪む。相手を殺しかねない勢いだ。破壊衝動に身を任せた彼の中にあるのは強力な憎悪。苦しみや悲しみを一心に背負った者の憤り。彼の中にある悲しみを彼は理解した。
「もうたくさんだ・・・」
諦めの声を彼は上げる。片や怒りをあらわにする。どっちもどっちだ、彼は思った。苛められて塞ぎ込むのと、相手を考えずに攻撃する事。どちらも自分が一番大事で、お互いに理解しようとしない。苛められる彼と同じ侮蔑を苛める方にも感じた。奇妙な事だが、彼は彼らを良く知っている気がした。
その時彼らの視線が彼と重なった。
苛められていたのは昔の自分、そして苛めていたのは今の自分。いや、禍々しく歪んだその瞳は真っ赤に染まり、色素の抜けた真っ白い髪がまるで白骨の様に感じられた。彼は自分の闇の部分だ。
「・・・夢・・・か。」エミリオは額の汗をぬぐった。掌も汗でにじんでいる。蒸した布団を引っ張って、空気を通した。清涼な風が気持ちよかった。
ふと見ると、すやすやと寝息を立てるせつなが籠の中にくるまっていた。せつなの無邪気な寝顔を見るとちょっと心が安らいだ。夢とは言っても不甲斐ない過去の自分と、どす黒い自分。両方とも直視したくない自分、振り返りたくない自分であった。
過去の自分を引きずっているのか?その反動が心に残っているのか?もしかして、今の自分は以前の自分の反動でしかないのか??自分の心が分からない・・・頭が痛くなってきた。
「困りましたねぇ。これは貴方の力が強力に成りかけている証拠ですよ。」
「げっ!“W”!! 何してるこんな所で!!!」
苦悩するエミリオの真上から声がかかった。いつのまにか、“W”がエミリオを見下ろしていた。
「貴方の寝顔が可愛くて拝見していたのですよ。どうやら悪夢にうなされたようですね。」
こいつには他人のプライバシーと言う概念は無いんだろうな、とエミリオは思った。寝てる間に何かしたのでは・・・と言う考えは恐いのでやめた。“W”はエミリオにくるりと背を向けるとせつなの方に歩み寄る。
「仕方ありません、こうなってはせつなの力を強制的に上げるしかありませんね。」
と、いいつつ、“W”は眠っているせつなの衣服を手際良く脱がしていく。せつなの背中には何か装置でもついているのだろうか?とエミリオは思ったが裸にされたせつなの体はしっぽ以外は普通の子供であった。
「どうするんだ?」
「タントラ密教、もしくは房中術の類です。性交によって私の気を注入するのですよ。」
ばっ、と自らの服を剥ぎ取り、一瞬で全裸になる“W”。性交?!せつなは男だぞ!!!
「おい、ちょっと、“W”!!!お前、おい、こら。」
「誘おう!私の世界へ!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!!!!」布団から飛び起きたエミリオはしばらく混乱していたが、すやすやと寝息を立てるせつなを見て、先ほどの出来事が夢である事を知った。また夢か・・・
夕方のせつなの話が妙な連想を持って夢になったのか、それとも・・・いや、絶対考えるのはよそう。しかし、次の瞬間エミリオの顔は青くなる。そして、十六歳と言う若さを呪った。
無論、翌日の彼の機嫌が激悪であった事は言うまでも無い。