第二十五話〜立ち込める暗雲?
人知れず進展する箱船計画の謎!?〜
「駄目だ・・・これでは駄目だ!地球を侵略することなど不可能だ!」翌日、エミリオが昨日の悪夢の腹いせにマイトを虐めていた頃、カルロは秘密の実験室で綿密なる計画を練っていた。羊皮紙に書き記された、常人には判別不能な記号を書き足しながらカルロはつぶやく。何でもいいが、いつの間に地球侵略になったのか謎だ。
ぶつぶつと怪しげなセリフを重ねつつ、怪しげな図面を引き続ける。その中には月を地球にぶつけるとか、地球を太陽に打ち落とすとか既に当初の目的を失ったものすらある。実用性の無い物を追い求める、それはまっどさいえんちすとの“性(サガ)”なのかもしれない。
座礁してしまった計画を幾つも却下して、机に突っ伏す。が、気を取り直したのだろう。毅然とした態度で立ち上がる。立ち直りが速くなければ、まっどさいえんちすとはやってられない。
「仕方ありません、今日は能力の訓練に移りましょう。」
怪しげな小箱を取り出した。20センチ立方の木製のそれには銀色に輝く円柱状の小さなボタンが付いていた。下の方に長細く開いた部分がある。カルロはそれに向かって精神を集中する。目を閉じて一心にひたすら何かを念じる。そして、深呼吸を一つ。
「行きます!」
彼が勢い良く小箱のボタンを押すと、中でウィーン、がしゃん、と一昔前の機械が動く音がして一枚の紙が中から送り出されてきた。カルロはそれを引っ張り出して乾かすようにしばらくひらひらと振る。
「・・・よし、良く撮れているぞ。さすがは私の能力です!」
そこには着替え中の栞が写っていた。恐るべし、カルロの念写能力!栞の恥ずかしい写真を撮って、それをネタに強請ろうという魂胆である。箱船高校を手中に収めておくのも悪くないと思っているらしいが、ここらへんが彼の器の限界であるのかもしれない。
「先生・・・お話があるんですが・・・」
必要以上に写真に見入っていたカルロは突然声をかけられて焦った。振り向くとパティが1人、憂いに満ちた表情で佇んでいる。沈痛な面持ちのパティに、進路指導当たりとは思いながらももしかして先生と生徒の危ない関係になったりして、等とカルロはあらぬ期待をかけていた。
そんなカルロの心を知ってか知らぬか、パティは懐から一枚の写真を取り出した。
「この写真、幾らで買います?」
彼女が取り出した写真にカルロは血の色を失った。三日前に女子更衣室を覗いている現場がしっかりと写真に収められている!一瞬、誰かに見られた感じがしたと思ったが、まさか・・・。カルロの頭の中でさまざまな憶測が駆け巡った。
「教育委員会にばれたら、大変でしょうね。」
くすくすと、無邪気な微笑を浮かべるパティ。現実を叩き付けることでカルロに考慮の余地を与えない。彼女の企みに二の句を継げないカルロはただ頷くばかり。結局、パティの言うなりに成ってしまった。どんな盟約が結ばれたのか、それは後のお話のお楽しみである。
にこにこ顔のパティはさっさと、それでいてカルロの撮った栞の写真をこっそりポケットに入れて帰っていった。カルロだけが取り残される。どっと疲労を感じ、机に突っ伏した。そんな彼を追い討ちするように、部屋の扉がノックされる。
「今度は誰です!」
「私だ。」
怒鳴ったカルロは、相手がキースと知って態度が変わる。そそくさと扉まで出向き、自らそれを開いた。キースはそれが当然の様に、へつらうカルロに声をかける。
「今日も研究か、熱心だな。」
「それはもう、じぶ・・・もとい、生徒の為には自分の能力を高めなければいけませんから。」
生徒会総帥であるキースは、“生徒の為”と言う言葉に弱い。カルロは甘言を弄してキースの心を掴もうとする。 そんなカルロの心を知ってか知らぬか、キースはにこりと微笑んで、懐から一枚の写真を取り出す。
「実はこのような写真を入手したのだが・・・」
彼が取り出した写真にカルロは血の色を失った。二日前に男子更衣室を覗いている現場がしっかりと写真に収められている!
「生徒達の治安を守る生徒会総帥としては、上層部に連絡するのが筋だろうな。」
愕然とするカルロにキースは悠然と話し掛ける。
「しかし、君には君なりの事情というものもあろう。君には我が同士として、我が計画の一端を担ってもらうことにしよう。」
キースの言葉に、カルロは冷や汗をかきつつもほっとした。キースの元で働けるなら、それもまた、良し。そう思ってしまった。
どうせやるなら、私の力の全てを掛けさせて頂きます。
カルロの瞳に、まっどさいえんちすとの怪しい光がともった。