第二十六話〜嵐の前の静けさ?
キースの甘い誘惑にエミリオの判断は?〜
さわやかな朝、エミリオとせつなは登校中。すっかり板についた光景である。 エミリオは羽根の事はすっかり気にしておらず、尻尾と犬耳のせつなも見慣れてしまった。 当然、ポーズを取りすぎて遅れてしまうせつなを足蹴にして急かすのは依然として変わってはないが。せつながちょこちょこと先に行き、ポーズを取り、エミリオが追いついたところで又ちょこちょこと前に進む。 そしてポーズを取り・・・と言うのを繰り替えしている。余りにポーズが決まりすぎると、 せつなは前に行くのを忘れてしまう。それをエミリオが蹴飛ばして急かす。
そしてまた、ちょこちょこと前に出たとき、せつなはポーズを取らず固まってしまった。 曲がり道の向こう側を凝視したまま、硬直している。エミリオも気になったが、 大したことはないだろうと思っていた、が、それは間違いだった。
「エミリオかーぁ、あーぁ。」
そこには肩を落とし、真っ青な顔のバーンがふらふらと歩いていた。 目が点になっている。やけに落ち込んでいるバーンの周囲はどーんと暗雲がたれているようだ。 能力の発現で、余計そう見える。周りの人間も、かなり引いている。
「や、バーン。そんなツラしてどうした?」
いつも陽気なはずのバーンが、機嫌が悪い事はそう無い。 落ち込んでいるところなどそう見られるものではない。 エミリオはもしかしてウェンディーと喧嘩したのではと予想した。 と言う事は、エミリオにとっては吉報である。
「キースの奴だよ・・・」
予想外の答えが返ってきたので、エミリオはちょっとびっくりした。 バーンは声を低くして、エミリオだけ分かるように囁く。
「念写って、分かるよな?」
「やってみたのか?・・・ふーん・・・で?」
超能力の基本だね、と思ったのと同時に、エミリオ君がイケナイ事を想像してしまったのは秘密である。 出歯亀はある意味、男のロマンかもしれない。
「・・・で、キースが写ってやがったんだよ。」
「・・・?」
「奴の部屋、俺の写真でいっぱいだった・・・」
バーンはこめかみを押さえるように目を被う。そしてまた、どーんと暗くなった。 部屋に写真があったぐらいで、これほどまでに落ち込むまい。 他にも何か理由があるのだろうが、聞かない方が無難だろうとエミリオは思った。
「はっはっは!それはきさまがにんきものだからだ!」
「ありがとよ。」
バーンの周りに、更に暗雲立ち込める。好かれるのは良いが、相手によりけりで在る事を幼いせつなはまだ知らない。 エミリオはこれ以上彼と一緒に歩くのは嫌だったので、よろけながら下駄箱へと向うバーンを見送った。
その時である。
屋上で、何かが輝いた。とう!
何者かが屋上から飛び降りる!落下するその不適な表情と雰囲気、当然彼だ!と言うかキースの芸風以外に無い。 エミリオは上空からの異様な気配に打たれて、動けない。 地表に落下する寸前!
びょーん。
地表ぎりぎりまで粘り、再び天空へとキースは誘われる。そしてまた落下。
びよーん、びよーん、びよーん。
三度ばかり上下した後、キースはエミリオの顔の真正面でようやく静止した。 今日のキースはゴムひもを装備していた。昨夜から徹夜で作業していたのは企業機密である。
「エミリオ君、折り入って話があるのだが。時間を取らせてくれないかな?」
意表を突かれてエミリオは思わず頷いた。有無を言わせぬ迫力がキースにはあった。 驚かせただけだが。
「結構。・・・おいこら、この私にぶら下がるな。」
と、油断したキースの首にせつながぶら下がる。 かなり痛かったが、増した重みでゴムが切れた事よりはまだましだった。
「共同戦線を張らないか?」「共同戦線?」
校舎の裏手、頭に包帯を巻いたキースはそれでも優雅で上品に エミリオに語り掛けた。せつなは側で真似しているが、なかなか上手く行かない。
「君はウェンディーと付き合いたい、私はバーンが欲しい。 つまりあのカップルが別れれば君と私、両者も幸せになれる訳だ。」
「で?」
「私と手を組まないか?」
「・・・断る。僕は人に頼りたくない。」
エミリオは即答した。他人に頼りたくないと言うのは嘘ではない。 だが、キースの片棒は特に担ぎたくなかった。彼とは同類になりたくなかったし、 何より、バーンに悪い。それに、喩えバーンとウェンディーが別れたとしても ウェンディーが自分の方を見てくれるかどうかは別の話だと思ったからだ。
「そうか、仕方あるまい。ならば私は私で独自の路線を歩ませてもらおう。」
エミリオの答えを聞くと、くるりとキースは翻り、すぐに彼の視界から消えた。
「・・・何か宛てでもあるのかな・・・」
エミリオは悪い予感がした。 自分に片棒を担がせようとしながら、あっさりと引いた。 その引き際が奇妙に引っかかる。まさか、自分の能力を使う気じゃないだろうか。 かなり不安になった。
「はっはっは!なにかあったらやつをぶちのめせばいいのだ!」
せつなは取りあえず、ポーズを決めて思った事を述べた。 それもそうだ、とは思ったが何かやりきれないものを感じていた。
その頃キースは、カルロの元へと歩いていた。 早速、シナリオを完成させなければならない。
「ウェンディーを亡き者にし、悲しみに暮れるバーンを私が慰め、心を開かせる。 エミリオ君には悪いが、僕が欲しいのはバーンだけだからな。」
にやりと、キースは笑った。