第二十七話〜宣戦布告?
レジーナの魔手とウェンディーの攻防!?〜


 放課後の保健室、からからと良く済んだ音とともにその扉が開かれる。 入ってきたのはウェンディー、レジーナは椅子に座ったまま、くるりと 彼女を出迎えた。

「レジーナ先生、呼び出して何ですか?」

「ちょっと用があってね。」

 怪訝そうな表情のウェンディー、健康優良児で通っているので 保険の先生から呼び出される覚えが全く無いのだ。 それもそのはず、キースの命は直ちにカルロを通じ、レジーナに下されていた。

「貴女、バーン=グリフィスと付き合ってるわよね?」

 レジーナは髪を掻き揚げながらウェンディーの瞳を見つめた。 突然恋愛の話に持っていかれて、焦るウェンディー。 ちょっとむっとしつつ答える。

「そっ、それがどうかしましたか?」

「悪いことは言わない。別れなさい。」

 唐突な発言に、ウェンディーは真っ赤になって反論する。

「ちょっ!ちょっと待って下さい!」

「絶対駄目よ、別れた方が良いわ。」

「せっ、先生はバーンのことを知らないじゃないですか!」

「知ってるわよ。」

 ぴたり、勝ち誇る表情のレジーナに、ウェンディーは思わず息を呑む。 思わず、室内で風をそよがせてしまった。感情の高ぶりが 無意識に能力を顕在化させてしまう。
 レジーナは風には気が付かず、一枚の健康診断表をひらひらと遊ばせる。

「保険の先生やってると、色々と・・・ね。」

 ウェンディーの心に、嫉妬の感情が芽生えた。 実際、何か有った訳ではないだろうが、自分の彼の事を 他人が知っている、それだけで許せなかった。 お陰でレジーナの論に飛躍があることに気が付かない。

「それに、彼は男にも手を出してるって。」

「それはあの、変態色物やおい男が勝手に!」

 ウェンディーは彼が居ない所ではキースのことをこう呼んでいる。 レジーナはちょっと目を丸くしたが、ふとまた大人の微笑で彼女をけしかける。
 しばしの膠着状態、が、ウェンディーの真摯なまなざしに耐えられなくなり、 椅子から立ち上がった。急に緩和される雰囲気は、嵐の前の序章。

「そう、残念だわ。とても。」

「レジーナ先生!一体どういう事ですか!」

「兄さんのため・・・」

 ぼそり、レジーナは一言呟くと、彼女に強力な敵意をむき出しにした。

「大人しく別れないと、痛い目に合わせるよ!」

 ただのプレッシャーではなかった。 レジーナの全身から普通の人間の体温では到底不可能な熱気が溢れてくる。

 まさかっ!この人も能力を!?ウェンディーは間合を広めた。

 ウェンディーは、自分の力を大体見極めていた。 まともに戦って、勝てないことはないだろう。 が、屋内では不利だ。ただでさえ狭い保健室では彼女の機動力は発揮出来ない。 それに、彼女としては相手を傷つけたくはない。レジーナを傷つけなくても、 派手に教室を壊してしまったら、後で何と言い訳すればいいだろう。

 レジーナの方もそれは同じだろう。しかし、教師である分彼女の方が有利だ。 多少教室が傷ついても、薬物などのせいに出来るだろう。 何せあのカルロの妹なのだから。

 じりじりと、レジーナが近づく。間合を詰められるとウェンディーはますます不利になる。 彼女は徐々に後ずさり・・・そして壁に背中が当たった。冷たいコンクリートが背筋を寒くする。

 その時だった。

「お辞めなさい、レジーナ!」

 バシバシバシ!!青白い光がレジーナに向かって放たれた。 ソニアが電撃を放ったのだ。彼女は不意を付かれて、しゃがみこんだ。 ウェンディーも驚いて、ソニアの方を振り向いた。

 レジーナへのダメージは大した物ではなかったが、 彼女は窓を開けて、屋外へ逃げ出した。

「くっ、今日の所は一旦引くよ!」

 ウェンディーはソニアに、反射的に声を掛けようとした。 が、すぐに彼女も走り去ってしまった。ソニアも、能力が発動していたのだ。 レジーナに教われかけたことよりも、何か複雑な気持ちだけが残った。

 見られてしまった!と、ソニアの頭の中に言葉が響いていた。
 そう、貴女のお姉さんは電気人間、もう二度と普通の生活は出来ないの。 私は人知れず、謎の超能力集団と戦い続ける孤独な戦士。 明日も明後日も、こうして誰かを傷つけ続けるのね・・・ ああ、キース様っ、こんなソニアの心を分かって下さい・・・

 妄想が横に逸るソニアの腕を、現実の世界から掴み戻す者が居た。

「一部始終、拝見させて頂きましたよ。」

 ウォンの細い細い瞳が、にやりとソニアに向けられた。

 その頃、奥の間では栞と玄真、玄信がいつものように 眉をひそめて密談を交わしていた。秘密裏に一般の生徒達を守ろうとおもっていた矢先、 これほどまでに能力の発動が活性化してるとは思っても無かったのだ。

「何と!これほどまでの力を蓄えているとは!!」

「全く・・・騒ぎの収拾が取れずに居るなんて・・・」

「学内はともかく、これが外に飛び火すると事ですぞ。」

「飛び火か、上手く掛けたわね。」

 四人目の言葉に、三人が振り向いた。 そこには青色の髪が揺れていた。パティだった。

「無礼者!ここを何処だと心得るか!」

 玄信が一喝するのを栞が制す。 一般の生徒が勝手に立ち入れる奥の間では無い。 栞は彼女にも、強力な力を感じ取った。

「どうすればいいか、迷ってるのでしょう?
簡単なことよ、彼らを排除すればいいわ。」

 くすくすと、パティはあどけなく笑った。


28話へ

“マジカル☆せつな”トップページ
特異効能的理力

おおさま:oosama@aba.ne.jp