第二十八話〜パティと栞
奥の間で繰り広げられる人知れぬ死闘!?〜
「だってそうでしょう?放っておくと酷くなる一方よ?」気圧されることなく、つかつかと栞の前に歩み行くパティ。 玄真、玄信の二人は彼女の豪胆さに却って何も出来ない状態だった。 全く、恐れることを知らない。不敵と言うに相応しい。
「それなら、まず貴女が断罪されるべきではない?」
栞が、きつい視線を悪びれる様子も無いパティにぶつける。
驚いたような、それでいておどけた様に彼女は弁解する。わざとピエロを演じている。「ひっどぉい! どうして?どうして私が?」
「何を今更たわけた事を!お主がカルロとつるんでいる事は分かっておるのじゃぞ!」
茶番に耐えられなくなって、玄真の堪忍袋の尾が切れる。が、パティは当然のように眉一つ動かさない。 異常な程の自信がそうさせるのか、落ち着き払ったその姿は王者の貫録すら感じさせた。
しかし、栞も負けてはいない。 影高野を統べる者として幼い時分より訓練されている彼女は 人の上に立つものとして帝王学も学んでいる。 若干13歳にして大勢の配下を持つ彼女は持って産まれた能力だけでなく 後天的に身につけたカリスマが存在した。
それでも、パティにはしてみれば彼女はタダの年下の少女、 突き詰めて言えば小生意気なガキにしか見えないのだろう。
「栞様、こやつにまともな議論は無駄ですぞ。」
玄信の提案を、栞は黙って頷いて見せる。
そんな事は分かっている、ただ、パティのペースに乗るのは得策ではなかった。 玄真も玄信もそれに気が付いているようではなかった。「力を捨てなさい。その野望も。」
「出来るかしら?」
にやりと嘲笑するパティに、玄真が右に、玄信が左に飛んだ。 同時に玄真は念を込める。影高野の秘法だ。 術を発動させる為には強力な精神集中と呪術的な動作を繰り返さなければならない。 無論、常人が同じ事をやっても何も起きまい、修行を積んだ彼らであるから術が発動するのである。
が、その一瞬の隙は全く無防備になる。
ドバァン!
大きな破裂音とともに、玄真が吹き飛んだ。
彼を突き飛ばした腕が、ゆっくりと飛んできた所に戻る。大きな、灰色の影が浮かび上がった。
それは以前せつなに倒されたアルファ。カラーリングが灰色になっているが 確かに殺戮兵器アルファであった。「紹介するわ、カルロ先生お手製のロボット、アルファ2号・・・
時代遅れの術が近代兵器に通用するかしら?」栞はいち早く、小さな身体で玄真が壁に激突するのを防いでいた。 何か起きる事を予測していたのだ。玄真はすぐに気が付き、栞に両手をつき、頭を下げる。
「しっ!栞様っ!! 拙者などの為に・・・」
「気にしないで、それよりも・・・」
「ターゲット確認・・・消去する・・・」
栞と玄真が見やる先に、合成音声の、生気の無い声が響いた。 鉄の塊は彼らの前に大きく立ちはだかる。 逃がしはしない、彼の沈黙はそう告げていた。
しかし、突然のダメージにアルファがのけぞる。 良く見れば空中に巨大な呪符が幾つも浮かんでいた。 助かっていた玄信が術を掛けていたのだ。
「影高野奥義の一つ、連炎符! これでお主らは身動きが取れまい!」
「さすがは兄者じゃ! ほぉれ!鬼火魂じゃぁ!!」
玄真が札に封じられた鬼を解放する。ゆらゆらとパティとアルファに近寄っていく。 が、パティも何もしてなかった訳ではない。すでに音の壁を築づいていた。 「響いて・・・」
ぶぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!! 彼女の小さな呟きが増幅し、強大な音の連鎖となって連炎符も鬼火魂も、 そして今度は玄信ごと吹き飛ばした。
「何と!我が符を吹き飛ばすとは!」
「奴等、二人では分が悪い。ここは一旦引きましょう。」
栞が押し殺した表情で頷くと、玄真玄信は彼女を庇うようにして闇に消えた。 そして“奥の間”にはパティの、勝ち誇ったくすくす笑いだけが残った。
その頃・・・
「くっ・・・頭がぁ・・・!!」
一年A組教室では、エミリオが机に突っ伏し、頭を抱えていた。 その異様さに、他の生徒は遠巻きに見詰めるだけである。 張り裂けそうな頭痛に呼応するように彼の羽根が大きく揺れていた。
せつなは心配そうに、彼を見つめていた。