第弐話〜エミリオ宅にて・・・
君はガデスオヤジの肉体美を見たか?!〜
「ただいま〜っす」夕映えの住宅街の一角に位置するエミリオの家、変わり映えしない建て売り一戸建てである。エミリオはつまらなそうに玄関を開け、適当に下履きを脱ぐ。後ろからちょっと様子を伺い、安心してひょこりと中に入ったのは我らがマジカル☆せつな君である。
安心していたのはつかの間、どたどたどたと派手な音を立てながら廊下の奥のキッチンから一人の漢がこちらに向かって走ってきた!!ヒィ!!恐怖に身をすくめるせつな!
「おっそっかったじゃねーかぁ!!!」
エミリオ・・・は、タイミング良く身をかわしたので・・・漢はせつなを引っつかむと、廊下の壁にせつなを押し付けて再びキッチンに向かってダッシュする。壁は軋み、せつなはがりがりと引きずられる。余りの衝撃で声も出ない。
そう言えばこの壁、台所から玄関まで真っ直ぐ彫りが入ってるんだけど・・・。「オヤジぃ、それ、オレじゃないぜ。」
悠々とエミリオは台所に姿を現す。はっ、と漢は振り向くが時既に遅し・・・
しかしせつなも男の子!ぐったりしているが振り向きながら立ち上がる!!「ふっ、きかぬわぁ!!」
大丈夫な事をアピールするためポーズを決めるが、君後ろ向いてる、頭に星まわってる。
「がっはっはっは、道理で軽いと思った。少年、済まなんだ。」
説明しよう!彼こそはエミリオの父親代わり、地獄の傭兵上がりのガデスである。ちょうど片目を失い、傭兵家業をどうしようか考えていた折、諸般の事情で孤児となったエミリオを育てる事になったのである。
「アタナスシアの財宝が風呂に入ると浮き上がると言うのがガゼだったからなぁ・・・」
「んなもん信じるなよ・・・。」
まぁ、金はごっそり溜め込んでいるし、エミリオを育てながらでも食うには困らない。と言うか、最近働いてない。
ちなみに“シェイビングウォール”に、全く殺意は無い。一日一度の良い運動なのである。最近はエミリオがすぐに避けてしまうので、欲求不満だったのは事実であるが。
「ふーむ、こんな少年をかどわかして来るとは、エミリオ!お前も色気ついたなぁ!!」
ぽんぽんとエミリオの肩をたたこうとするが、彼の顔が笑ってないので避けた。
せつなはようやく意識がはっきりしてきたので、とりあえず彼らに向かってポーズを取っていた。「何でも良いが、この少年は何者だ?」
「はっはっは、おまえこそだれだぁ!」
ガデスの問いに、逆に問い掛けるせつな。コイツを喋らせるとややこしくなると思ったのだろう。エミリオはせつなを足蹴にし、今日の事を手短に話す。
「そんなわけで、飼っていいでしょ?」
飼って・・・ってあーた。
「だってほら、コイツ犬なんだよ」
「ほら、お手」 「ちんちん」 「ほーら取ってこーい」
夕食のチキンをほおり投げると、せつなは反射的に落下前にキャッチし、エミリオの前に嬉しそうに(耳と尻尾ぱたぱたさせながら)戻ってきた。
「させるなぁっ!!」
ようやく気が付いたらしいが、チキンを食べながらなのが可愛い。
「そうか、犬か・・・」
納得するのか、アンタも・・・実はガデスの頭の中では“言葉を喋る犬は珍しい”=“金儲けになる”と言う素晴らしい計算が成り立っていたのだった!
「よし!食事と散歩をちゃんとするなら飼ってよし!」
わーい!と、喜んだのはせつなの方だったりする・・・
かくしてマジカル☆せつな君はエミリオ宅の一員となる事が出来た!しかし、翌朝、早速エミリオに不幸が生じる事になるのだ・・・