第参話〜覚醒・・・
そして乱舞する謎の中国人“W”!!〜
「うぅ〜」今朝も不機嫌そうに洗面所に向かうエミリオ=ミハイロフ、16歳。寝起きは悪いが自分の顔が気になるお年頃である。どんなに忙しい朝でも洗顔洗髪は欠かせない。第一、寝ぼけ顔で登校なんか彼のプライドが許さない。
しゃこしゃこと歯磨きをしているとボーっとしている頭がハッキリしてくる。先ず思い出したのが、昨日の夜の出来事であった。ハッキリ言って彼は寝不足である。せつなの布団を用意するのも面度くさかったので2人は一緒に寝る事になった。まぁ、エミリオもホントはいやだったのだが、メンドクサイのが先に立ったのだ。しかし、予想外の事が起きた。せつなの寝相は尋常では無かったのである。口に手や足が入ったり、尻尾が顔をぼさぼさ叩いたりしたので再三エミリオは起された。そして、せつなのお尻が自分の顔に乗った時、さすがにぶち切れて、一階のリビングのソファーにせつなを叩き付けて来たのだ(起きなかったが)。タオルケットをかけてあげたのはエミリオの最大限の優しさである。
眠れぬ夜を回想していると、次第に頭が回ってき出した。まじまじと鏡に映った自分を観察し、ようやく異変に気がついて、歯ブラシを持つ手が止まる。
「・・・マジかよ。」
「おお、今日も上腕二頭筋が調子がいいぜ!」
両腕でガッツポーズ、力こぶをピクピクさせながら(胸もピクピクしているが)、半裸で台所に入ってきたガデス。家事は全て彼の仕事であるが、既に朝食の用意は整っている。半裸なのは特に意味はない。
と、エミリオの後ろ姿を見た瞬間、傭兵で鍛えた彼の肝っ魂もさすがにひっくり返った。「なんじゃこりゃぁ〜〜〜!!!!!」
隣り三軒に響き渡る大声でガデスが叫ぶ。いや、そりゃビックリするだろうわな。エミリオ君の背中には半透明の翼がはためいていたのであった。両者顔面蒼白。しかし呆けている暇はなかった、間髪を入れず背中に声が掛る。
「はっはっは、それはこの私が説明いたしましょう!」
誰だアンタは、と2人の脳裏に言葉が過ぎったが、男の姿を見て声が出なくなった。
そこに佇むのは眼鏡の男、ラーメンマンもビックリの細い目、霊玄道士もビックリの派手な中華服。と言うか、勝手に人んちに上がり込んで偉そうにしてる所が問題だぞ。ビックリする2人を尻目に男は台詞に入る。「突然お邪魔して申し訳ございませんね。自己紹介をしておきましょう。
私こそは魔法の国の長、時間を司る謎の中国人“W”と申します。以後お見知り置きを。」ウォンだ、絶対。エミリオとガデスはそう思った。
まぁ、“皇”と書いて“ウォン”と読むとまでは知らなかったが。「せつなには肌身離れずくっ付いておくように申し伝えていましたのに、こういう事態になってしまいましたね。」
「なっ・・・どういう事だ?」
かなり警戒しながらエミリオは尋ねる。怪しいオーラがびしばし伝わって来る“W”はその細い目をエミリオに向ける。ああ、やっぱり怪しい。
「おや、せつなから説明がありませんでしたか?いけませんねぇ、自分の任務を忘れるとは。」
「任務??」
「つまりですね、ゆくゆくはこの世界に多大な影響を与えてしまうであろう貴方の強力な潜在能力を抑えるために彼を派遣したのです。彼は貴方の能力の発言を抑える中和剤の役割を果たすのです。貴方のエネルギーが不可視の時点ならば能力は次第に消えてくれたでしょうね。」
“つまり”な割には説明長いぞ。
「しかし、可視状態になった以上能力を消し去る事は難しいですね。万一の場合地球が破壊されてしまいます。」
世界の危機をあっさりと言い放つ“W”、再び顔面蒼白なエミリオとガデス。
「何とか、事態を収拾する事は出来ねーんですかい?」
ガデスが恐る恐る尋ねる・・・すると待ってましたかのように“W”が嬉々とした表情を浮かべる。まぁ、さっきからずっと微笑んでいるが。
「唯一特効薬があります。ズバリ、私の精を受ける事です!!」
暫く理解するまで間が開いたが、理解した瞬間エミリオの顔が引きつる。“W”はその間も微笑みを絶やさない。
「と言うのは冗談ですがね。」
なら言うなよ・・・デンジャーな奴め・・・。しかし“W”はそれでも微笑みを絶やさない。元からこういう顔なのであろう。
「何にせよ、一度動き出した時はさすがの私も手が出せません。これからは片時もせつなと一緒に居てください。さもないと更に厳しい事態に成るでしょうから。
この世界を裏から支えるのが魔法の国の長としての役割ですから、事態を収集に向かわせる事は約束します。しかし、それ以上の事は何とも出来ませんね。
しかし、困りましたねぇ。貴方の力は相当なものなので、他にも能力に覚醒する者が出始めるでしょう。」!?・・・エミリオとガデスが顔を見合わせる、しかし“W”はふと気がついたように懐中時計を確認する。
「おや、もうこんな時間ですね。私は忙しいのでこれにて失礼させていただきます。それではまたお会いしましょう。」
言うだけ言うと、高笑いを残しつつ“W”は紫の残像を残しながら消えていった。取り残された2人。
「はっはっは、めしはまだかぁ!!」
ようやく目を覚ましたせつな、しかし冷たい視線を感じて、凍り付くいた。でもポーズを決めてしまった以上今更直立不動は出来ないのでそのままの姿勢、引きつった尻尾が動揺を表す。
冷静さを取り戻したエミリオに、素朴な疑問が湧いた。
「・・・学校にも、コイツ連れて行くのか?」
ぴぴっ、ぴぴっ、無情にも登校時間を告げる目覚し時計が鳴り始めた。時は待ってくれないのだ。