第三十話〜電話
バーンとウェンディーの二人の心配、そして現実〜


 トゥルルルルルルル、トゥルルルルルルル。

 ウェンディーが重い顔をして家に帰ると、 ちょうど待っていたかのように電話が鳴り始めた。 慌てて荷物を置いて、受話器を取る。すると、いまちょうど聴きたかった優しい声が聞こえた。

「やっ、ウェンディーか?」

「・・・バーン・・・」

「おいおいどうした。いや、今日は帰って妙に気になってさ。」

 帰ってきた頃合いを見て、電話を掛けたらしい。 彼の能力が上がっているのか、愛ゆえの仕業か。 どちらにせよ、ウェンディーには嬉しかった。

「あのねっ、今日変なことが有ったの・・・言うと心配しそうだから・・・どうしようかなって・・・」

「何言ってんだ、水臭いぜ。」

 思わず言い出してしまったが、ほっと、ウェンディーは胸をなで下ろす。 そうだ、秘密にしててもしょうがないよね。そう思うと次から次へと言葉がこぼれだした。

「あのね・・・レジーナ先生が・・・私たち別れろって・・・」

「ああん?なんでレジーナが口出すんだ?」

「わかんない・・・でも、兄さんがどうのって言ってたな。」

「兄さん????? カルロが?」

「どうして兄さんなんて言ったのは分かんないわ。うん、もちろんいやってはっきり言ったの。」

 首をかしげながら、頷くバーン。納得行かないので頭の中はクエッションマークでいっぱいだ。

「そしたら、レジーナが脅かしてきて・・・それで・・・あの人も能力を持ってるみたいで・・・」

「なにっ!だっ、大丈夫だったか!?」

「うん、私は平気。で、それをソニアさんが助けてくれたの。」

「なっ・・・事務のソニアが?・・・んー・・・あいつも・・・?」

「うん・・・。」

 その時、彼女に懐かしさを感じたのは黙っていた。 なんとなく、これだけは自分で解決しなければならないとウェンディーは直感していた。

「・・・レジーナが能力を持ってるってことは、カルロもそうかもしれないな。」

 ぽつり、とバーンは漏らす。

 思わず、ウェンディーはどきりとした。 それが伝わったのだろう。自分でもまずいことを言ったとおもって慌ててフォローする。

「あはは、奴をシメてはかせるぐらいしか思い付かねーや。」

「だめだよ。乱暴しちゃやだよ。」

「分かってるって、俺も退学にはなりたくないからな。」

 笑い声が少し、明るくなった。その笑い声を聞きながらちょっとほっとしつつも、 自分の思ったことを口に出すのは悪い癖だよな、とバーンは思った。 その矢先、ウェンディーの声のトーンが下がる。

「ねぇ、どうなっちゃうんだろう・・・これから・・・」

「心配するな、お前は俺が守る。」

 間髪おかず、それもただのフォローではなくて自信たっぷりにバーンは答えた。 そして、優しく、いたわるように。

「俺は考えるのは苦手だけどさ、でも、約束する。俺が絶対守ってやる。」

「・・・バーン・・・」

 電話の距離の分、今の二人はもどかしかった。

「とりあえず、まず・・・まー明日になって奴等に俺が出向いてやるよ。」

「私も行く!心配だもん!!」

「任せとけって、俺が片つけてやる。」

 むしろ、バーンが何か問題を起こさなければ、とウェンディーは思った。 さっき自分がレジーナに詰め寄られたとき、バーンだったら少なからず応戦していただろう。 怪我をさせてしまうかもしれない。その時、もしほんとにカルロがつるんでいれば、 それを口実にバーンを停学に持っていくことぐらい簡単だろう。

 そうすれば・・・少なくとも学校で“別れさせる”ことは彼らは成功してしまう。 学校にバーンが居なくなることは、ウェンディーには辛すぎる。

「約束だよ、絶対、カルロ先生にもレジーナ先生にも暴力振るっちゃ駄目だよ。」

「うー・・・それは・・・」

「もう!約束だからね!」

「っ、分かったよ。」

 しぶしぶ承諾するバーン。怒り口調ではあるが、子供の様なバーンがウェンディーは好きだった。

「そういえば、エミリオには言ったのか?」

 ふと思い出してバーンは尋ねる。

「ん、まだだよ。・・・ほら、あの子、こんなこと知ったら心配しちゃうし・・・それに・・・」

「・・・んん・・・」

 バーンも、言及したことを後悔していた。エミリオがこんなことを知ったら・・・。

「うん、いいよ、何も無ければ何も無いに超したことないし・・・だから、何も起こさないでね。」

「あぁ、分かってるって。」

 ウェンディーは上手く話題を外し、バーンもそれにあわせた。 しかし、そうは言ったものの、二人とも何か妙な不安を抱いていた。 エミリオの身に何か起こるのではないかという漠とした不安。

 彼らの不安は現実の物になるのだが、実に、それはほんの数時間後であった。


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