第三十一話〜夜襲!
ガデス親父、侵入者に対し大いに怒る!!〜


 深夜、人間という物は面白い物で、喩え満天の星空でも空を見上げる者は少ない。 家路に辿り着く方が優先されるのだ。 如何にして、屋根の上を音も無く行く黒い影に気が付こうか?

 影は、とある二階の窓の近くに張り付く。 窓から覗き込むと、一人の少年が不機嫌そうな背中を見せている。  そしてもう一人、小さな籠の中にうずくまり、 それでも盛んにいびきをかきながら寝返りをうつ小犬のような少年。せつなだ。

 黒い影は二人を確認すると、窓ガラスに手を近づける。

 シュパン!

 その瞬間ワイヤーが走った。
素早く反応して手を引っ込めるが、指先を傷つけた。鮮血が飛び散る。

「ウチに忍び込もうなんざ、いい了見してるじゃねーか。」

 ガデスが影の主に声を掛ける。

「家の瓦は特別製でな、ある程度の重さがかかると警報が鳴るようになってる。」

 傭兵家業が身について、室内にも幾重にもトラップが仕掛けられているのは秘密である。 影は、先程切られた指先を舐めながら、それでも嬉しそうに相手を見やった。 痩身で真っ白で、そして真っ赤な瞳、ブラドだった。真っ黒なレザーのコスチュームをまとっている。

「クックックック、ばれたか。気づかなきゃ死なずに済んだかもしれねーのによぉ。」

 相手の顔が良く見えて、ガデスの背筋に悪寒が走った。

「ブラド・・・ブラド=キルスティンか?!」

「ほおぅ、俺様を知っているのか。光栄だねぇ。」

 地獄の傭兵とまで言われたガデスである。 裏の世界にも繋がりを持っている彼は、伝説の殺人鬼、 踊る道化師ブラドの話を聞き及んでいた。

 そう言えばエミリオが持って帰っていた教員名簿にその名前があった事を思い出す。 同姓同名だと思っていたが、まさかこの街に居たとは。

「心配しなくていいぜぇ〜。名前を覚えていた礼だ、苦しまずに殺ってやらぁ。」

 そう言いながらブラドは重力弾を放つ。並みの人間なら十分、一撃で肉塊にしてしまうだけの威力を持っている。

 が、それはガデスの前で弾け消えた。

「なにっ?貴様もっ!」

「幸か不幸か。まぁ、奴には見せられんがな。」

 奴とは即ちエミリオの事である。ガデスもまた、能力を覚醒させていたのだ。

「ちぃっ!」

 動揺したブラドは後ろに飛ぶ。が、ガデスのダッシュの方が疾かった。 ブラドの首元を掴み強力な念を叩き付ける。彼の体はそれに耐え切れず 無残なまでに折れ曲がる。それでも一応手加減はしている。

「ほらよっ!」

 ふと人の気配を感じる。道路から見ている奴が居る! ガデスはボール状になったブラドを思わず投げつけてしまった。 ここらへんは傭兵の打算が絡むので彼は容赦が無い。

 ちなみに、とばっちりを被ったのはこういう時しか出番の無い鈴木正人(仮)である。 ガデスは彼が気絶してるだけなのを確認すると、つかつかとブラドに歩み寄る。

「教えてもらおうか? お前さんともあろうお方が何を狙ったのかな?」

「・・・・・ぁぁ・・・」

「!!」

 ブラドが声を発した瞬間、思い出したように二階の窓を見上げた。 そこは今し方まで閉まっていたというのにカーテンが揺れている。 ブラドは囮だったのだ。暫く仕事から離れていたので勘が鈍っていたのだ。

 ちっ・・・と舌打ちをする。ガデスの完全な敗北だった。


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