第三十二話〜非常事態!!
平穏すぎる朝のひととき?!〜
エミリオは目を覚ました。長い悪夢をから解放されたような充実感、とても気分が良い。 久しぶりにそう快な朝だった。よく眠った、そんな実感がある。 普段なら夜中にいびきかく奴がいるからよく眠れないんだよな ・・・と、ふといびきの主の方を見る。
「せっ・・・せつな??」
居るべき所に、居ない。小さな籠の中には普段ならまだすやすやと眠っている せつなの姿があるはずなのに無い。奴に限って自分より早く起きるなんて芸当は 見せる訳が無い。
トイレか?
腑に落ちないまま階段を降りて行く、 するとテーブルにはいつものようにガデスと、何故か沈痛な面持ちのブラド先生が座っていた。 ガデスは全く通常通り、新聞を広げて朝のコーヒーを嗜んでいる。「おう、目が覚めたか。」
そう言いながら、コーヒーを注いでやるガデス。 エミリオはガデスと、恐縮して小さくなっているブラドをかわるがわる見ていた。 訳が分からない、そんな瞳でエミリオは困惑する。
「せつながサラわれたぜ。」
驚くエミリオを余所に、ガデスは一気にコーヒーを飲み干した。 そして、少々ぞんざいにカップを置いた。
「ああ、理由ならコイツに聞いてくれ。」
二人の視線にはっと気がついて、ブラドは喋るべきかどうか一瞬躊躇する。 しかし沈黙に耐えられずにガデスの顔色を伺いつつも、ぽつりぽつりと語りはじめる。
「えっと・・・僕にもよく分からないんですけど。 分からないままに牢屋に閉じ込められて・・・ それを、カルロ先生が助けて下さって・・・ それで・・・ああ、それからの記憶が無いんです・・・。」
はぁー、と、ため息を吐くガデス。それにまた、 ビクリとブラドが情けないほど反応する。 自分が何をやっていたか分からないという不安が彼を過剰なまでに臆病にさせているのだろう。
「コイツの相手をしてる間に、せつなは連れ去られちまった。 カルロって奴が一枚噛んでることには間違いないが、それだけしか分かっちゃねぇ。」
ガデスは肩をすくませてみせる。
ちなみに、鈴木正人(仮)は捨て置かれていた。 今ごろ道端で目を覚ました彼は、夕べ見た物を夢とでも思っていることだろう。「・・・“W”の奴は居ないんだね。」
「ちっ、あの霊幻道士め・・・言うだけ言うくせに全く役に立ちやがらねぇ。」
エミリオの呟きに、腹立たしそうにガデスがテーブルを叩く。それにブラドはびくっと反応する。
「暫く『能力』は使うな。せつなが居ない以上、取り替えしのつかないことになりかねんぜ。」
再びコーヒーを注ぎ直して、そして又一気に飲み干すガデス。
「ただし、ケジメはちゃんと付けておけよ。」
真剣な顔でガデスがこう言う時は、出任せではなく、必ずフォローを付ける約束である。 そうは言いながらも、エミリオは怪訝そうな顔を崩さない。
ブラドは家が別方向なので、とりあえず帰宅する。 ささやかながら朝食を食べた後、エミリオは一人だけで登校する。 やはりなんとなく物足りない。食事のときにも会話はなかった。 いつもの彼のイメージには合わないが、とぼとぼ、と学校に向かう。
そんな彼の後ろから、声を掛ける者が居た。「おはよう!・・・あれ?せつな君は?」
ウェンディーだった。エミリオの心臓は高鳴る。 が、彼女の雰囲気がいつもと違うのに彼は気がついた。
「・・・ちょっと。 そういうおねえちゃんは?」
自分ではにこやか、と思っていたウェンディーは エミリオに見透かされて、とても慌てる。昨日の今日だから、 見えない所でも、エミリオは感じてしうのだ。 彼女は観念して、昨日の事を話しはじめる。
「・・・実はね・・・」
ウェンディーは要約しか説明しなかった。 レジーナが能力者であり、自分とバーンを別れさせようとしたこと。
「・・・レジーナか・・・カルロが絡むのか・・・」
その言葉にも、ウェンディーは反応してしまった。 エミリオには、先日のキースの言葉が頭を過ぎった。が、今は黙っていた。 とりあえず、カルロと言う線で一致した。 何でも自分一人でやるタイプであるが、 今回はバーンに応援を頼もう、とエミリオは思った。