第三十五話〜急転直下?
動き出す歯車がバーンとキースを・・・〜
「こっちだ!」ゲイツは置いておいて、エミリオとウェンディー、そしてバーンが校舎へと走る。 ホームルームが始まっている時間であるがそれに間に合わせようと言うのではない。 なんせ校庭は偉いことになっているし、エミリオのクラスの担任、カルロがその犯人である。 朝礼なんぞしている場合では無い。
レジーナが居かねないので一階の保健室を覗いた後、誰も居ないので実験室に急ぐ。 しかしもぬけの殻だ、バーンは舌打ちをする。カルロは何食わぬ顔で授業に出ているか、職員室に居るのかもしれない。
と、その時放送のチャイムが鳴った。
「エミリオ君、ウェンディー、そして僕の愛しのバーン。直ちに屋上まで来てくれ給え。 繰り替えず、エミリオ君、ウェンディー、そして我が最愛の人、バーン=グリフィス。 直ちに屋上まで来てくれ給え。」
「・・・キースの野郎・・・」
律義で間の抜けたなチャイムの余韻とは逆に、 呟くバーンの両肩はわなないていた。腕に血管が浮き出ている。 エミリオ達からは後ろ姿しか見えないが、どんな表情か目に浮かぶようだった。 本気で怒った彼はウェンディーさえ見たことがない。 絶対に見せないようにしていた表情だろう。
「・・・先に、行くぜ。」
エミリオはウェンディーを引っ張って先に階段に向かった。 彼の顔を、怒っている顔を見たくなかったし、彼女にもそれを見せたくなかった。 少々戸惑ったウェンディーも、エミリオに引っ張られた。 バーンは怒りに身を震わせつつ、それでも彼らを追い越さない程度に急いで来た。
屋上のドアをばたんと開くと、いつものように両手を組んで不敵な笑みを漏らすキースがこちらを向いて待っていた。 そしてその足元でせつなが、彼と同じポーズで突っ立っている。 ダンディな感じのキースに比べて、どうしても間が抜けて見えるせつなのポーズであったが、 今の雰囲気はさしものせつなでも和ませる事は出来なかった。
「待っていたぞ。探し物はコイツかな?カルロの実験室に居たのを回収しておいた。 奴が何の為に彼を捕獲したのかは知らないが。」
キースはエミリオと、ウェンディー、そして遅れてやってきたバーンに話し掛ける。 いや、彼の目はずっとバーンの方を見ている。エミリオもウェンディーも、 彼の眼中には無いのだろう。エミリオはくっと、唇を噛み締めた。
「どうする?その女と別れるなら、コイツは返して・・・」
ほんの一瞬の事だった。その女、とキースが指差した隙を見て 無言で突っ込んでいったバーンの拳が彼の頬をえぐった。 全体重がかかった重い拳の反動で空を舞うキース。
「見損なったぞ,キース!!」
バーンの怒気を孕んだ叫びが屋上の空気を揺るがす。 キースの体がコンクリートの床を這った。 その隙にウェンディーはせつなを呼ぶ。コトの重大さが判っていない彼は 取り合えずポーズを決めながら彼女の胸に飛び込んだ。
エミリオが一瞬、あ、このヤロ、と思った時にはキースは器用に身を翻し、 直立不動の姿勢に戻っていた。先に殴らせてやっただけだ、そんな余裕が伺える程 さも何も無かったかのように振るまう。
「ふっ、小細工など私らしくなかったな。」
じりじりと間合を詰めるキース。
「おもしれぇ!!お前ら、手を出すんじゃねーぞ!!」
バーンも落ち着きを取り戻し、そして後ろのエミリオとウェンディーに手助け無用と言い放つ。 その言葉は出任せではない。俺を信じろと確固たる自信に満ちていた。 そして人を納得させるに相応しい迫力があった。 もちろん、ウェンディーは信じた。キースは涼やかにそれを見守る。 エミリオはしかし、悪い予感がしていた。
「行くぜ!」
「危ないッ!!!」
バーンが攻撃を仕掛けようとした瞬間、水の柱が彼を襲った。 が、何とかエミリオがそれを受け止める。ウェンディーが悲鳴を上げる、 エミリオはそのまま弾かれて、屋上のフェンスに激突した。危ない所だった。 バーンは当然、キースを睨むが、キースの方がもっと怒りに震えていた。
「貴様!神聖なる決闘に何を!!」
「私は貴方さえ居ればいいのですよ、キース様。」
キースの向いた方向にはカルロが、そしてレジーナが控えていた。 そして彼らの間から顔を出したのは、パトレシア=マイアーズ、パティだった。
「私は、あなたたち全部邪魔だけどね。」
パティはまるで、飽きた人形を捨てる前に、彼らに今の状況を諭すかのように無慈悲に微笑んだ。