第三十六話〜乱闘!
戦局の行方はただただ昏迷して・・・〜


「キース様、悪く思わないで下さい。これも箱船高校の為なのですから。」

 カルロ、レジーナ、そしてパティ。彼らは屋上の階段入り口上、 一段高い所からキースを見下ろしていた。バーンもキースどころでは無い。 ウェンディーは暴れるせつなを押さえながらも吹き飛ばされたエミリオに視線を向けていた。 少々ダメージが残っている様で、まだしゃんとしない。

「あなたがたの存在は上層部である私たちにとって目障りなのです。」

 高圧的な、まるで教頭にでも成ったかのようなカルロ。 栞たちを下したのはパティと言う事は現在棚に上がっているようだ。 そんな兄の自信に満ちた雰囲気にレジーナは瞳をきらきらさせている。 パティは肩をすくませて、せつなを指差す。反射的にせつなは“ビックリした”のポーズを取る。

「その子は私のペットにするの。」

 パティが淫靡な表情で笑う。せつなは“良く分からないけど喧嘩なら買うぞ、はっはっは”の ポーズを取ろうとしつつも手足がすくんでしまう。パティの圧倒的な迫力、目にみえるかのような恐怖感。 黒幕がパティな事は一目瞭然であるが、カルロはますます張り切って演説を続ける。

「もちろん、キース様には情状の余地があります。私の為に尽くして頂けるならば 今まで通り生徒会総帥として頑張っていただきますが。」

 職権乱用気味な彼はキースに向かってすら高飛車な態度に出る。 どうやら戦法を変えてきたらしい。箱船高校を押えてしまえば生徒会も、 つまりはキースさえも自分の配下に置く事が出来る。 それは彼にとって下克上の喜び、彼の心の中で渦巻くこれからのお楽しみが顔に出ている。

「きっ、貴様ッ、何考えてるんだ!!」

「貴方には学業に専念するか、退学して頂くかはっきりしてもらいますよ。ダブりのバーン君。」

 バーンが叫ぶが、にやけた顔のまま余裕を持って火に油を注ぐカルロ。 全く余裕だ。生死与奪を完全に把握しているのだぞ、そうプレッシャーを掛けてくる。 が、彼はキースから目を離してしまっていた。

「とぉっ!!」

 隙だらけのカルロにキースの飛び蹴りがクリーンヒットした。 彼は二転三転しながらコンクリートに叩き付けられる。 バーンならともかく、キースが特攻してくるとは思わなかったので一瞬辺りは凍り付く。 レジーナもパティも、全く気がつかなかった。驚くので精いっぱいだった。

「私よりも高い所に上がったな・・・許さん!!」

 真顔で、真剣に、真に普段感情をあらわにしないキースがが本気で怒っている。 余りにも唐突すぎて辺りは再び凍り付いた。特に矛先をくじかれてバーンは戸惑う。 せつなだけがキースの心中を察し、ウェンディーの腕の中で深く頷いている。

「くっ、兄さんのカタキ!!」

 レジーナがキースに反撃しようとするが、その刹那彼らの足元に電撃が走った。 突然の攻撃に間一髪反応した三名はバックステップでそれを避けて、床に着地する。 弾みで、パティはコケていたカルロを思いっきり踏みつけた。

「レジーナ待ちなさい、貴女の相手は私です!!」

 電撃が放たれた方を、全員が見やる。そこに居たのは誰であろう、ソニアだった。 どうやら、下の階から壁を伝って登ってきたらしい。 そして後ろにはマイトすら控えている。どちらも闘志をむき出しにしている。 マイトの姿を確認し、さすがのパティも動揺する。

「マイト・・・私も狩るの?」

「・・・パティすまない・・・やはり君も狩らなければならない・・・」

 沈痛な表情のマイト、そして睨み合うレジーナとソニア。 パティは何を踏みつけているか分からないまま、カルロの頭に足を載せて攻撃態勢に入る。 キースは完全にバーンの事を忘れているらしく、そんなカルロに対して間合を取っていた。

「・・・今さ、何がどうなってるんだ?」

 バーンはウェンディーに解説を求めるが、彼女も困惑して首を横に振る。 せつなだけが、エミリオの瞳がうつろなままである事に気がついていた。


37話へ

“マジカル☆せつな”トップページ
特異効能的理力

おおさま:oosama@aba.ne.jp