第三十七話〜変幻自在!?
鈴木正人(仮)が知ってしまった真実とは・・・〜


 鈴木正人(仮)は箱船高校校門前で言葉も出ぬまま立ち尽くしていた。 空襲でも受けたかのように所々クレーターになっている校庭、 何かの機械が散乱している。飛行機でも落ちたかのようなその状態に ただただ困惑するばかりの彼、死人が横たわってないだけマシである。

 只でさえ昨日の記憶が無いのだ。屋根の上で誰かが争ってたような気がする。 そのうち一人は良く知ってる人物だったような気がするのだが、 ぷつりと記憶の糸が切れている。とても気味が悪い。

「おや、鈴木正人(仮)さんではありませんか。 『社長出勤』ですねぇ。まぁ、教員に社長も平社員もありませんが。」

 そんな彼に声を掛けたのは謎の英語教師、リチャード・ウォンであった。 奇麗好きなはずの彼の上着に泥がついている。正人(仮)はそれを指摘する。

「ああ、気にする事はありませんよ。一人保健室に連れて行ったものでしてね。」

 ウォンは涼しい顔で校庭の穴を眺めながら言い放った。 ちなみに、保健室につれいてったとはゲイツの事である。 もちろん親切心からではなく、事態の収拾を急いだ為だ。

「まぁ、直にカタが付くはずですよ。貴方は何も気にする事はありません。」

 正人(仮)は、ウォンの仕種が胡散臭い事に気がついた。 彼は何もかも知ってるような顔をしている事。 それに自分は喩え剣道部の顧問と言う立場で 有ったとしても、少なくともコイツよりもここでは古株だ。 その自分に己の知ってる事を言おうとしない。体育会系の鈴木正人(仮)は 上下関係には結構厳しいタイプだ。

「そんなに見つめないで下さい。照れるじゃないですか。」

 ふざけるな!と少々腹立たしく思いながらウォンの上着をつかもうとする。 が、あるはずのウォンの体はそこには無く彼の腕は空を切った。

「はずれですよ。」

 全く見当違いの所にウォンは居た。驚く鈴木正人(仮)、自分の動体視力は良い筈だ。 いや、そんなものではない。動いた気配すら読めなかった。再び手を出す、が、またもや かき消すようにウォンの体は掻き消えた。

「無駄ですよ。諦めて下さい。」

 今度は気を静め、集中して手を出す。今度は掴めた。 どちらかと言うと彼の体の方が移動してきたような気もしたが。

「・・・これが貴方の能力?・・・・・・まずい、実にまずいです。」

 しかし、そのことでウォンは急に動揺し始めた。自分も今のは ちょっと変だと思っていた所だ。鈴木正人(仮)も焦りはじめる。 すると、ウォンは見る間に姿を変えて行き、“W”形態へと変化した。 怪しげな中華風衣装を纏った彼にちょっとどころではなく正人(仮)は腰を抜かした。

「『出る杭は打たれる』のですよ。誘おう、私の世界へ!」

 彼が動けない事を良い事に、“W”は時間を掛けて術を発動させる。 ぎゅぅうむ、鈴木正人(仮)の回り世界の色彩が怪しく狂ってきた。 物と物との境目も曖昧になり、そして自分もその世界の部分と混ざって行く。 彼は“W”の作った亜空間へ放り込まれたのだった。

「『キジも鳴かずば撃たれまい』。私に近い能力を持ったのが運の尽きです。」

「ほぉ、邪魔ならばこの世から消し去るのかの?それがお主の世界か?」

 声のした方に“W”は振り向こうともしない。声と気配でそれぐらい判る。 潅頂玄信、そして六道玄真だ。玄真は激憤の叫びをあげる。

「お主!お主の真の狙いは何だ!!」

「世界の安定、それだけですよ。」

 冷ややかに答える“W”、世界の安定・・・世界と言うのが彼自身の、 “W”の世界と言う事に彼らは気がつき始めていた。


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