第三十八話〜正体不明!?
誰と闘うか迷い始めたバーン、そしてエミリオが・・・〜


「・・・エミリオ、大丈夫?」

 屋上からの落下は免れた物の目の焦点が定まりやらぬエミリオ=ミハイロフ。 こんな所から飛び降りて生きてられるのはそれこそキースぐらいである。 彼を助け上げたウェンディーは心配げにエミリオの目を覗き込む。 エミリオの目は泳いでいた。一時的なショックだろう、と彼女は安心した。

 しかし、せつなは不安を隠せない。耳も尻尾もうな垂れたままだ。 落ち着かぬ様子でエミリオに身を寄せたり、ちょっと離れてうろうろしてみたり、 調子の悪い母親を気遣う仔犬のようだ。

「大丈夫よ、心配しないで。」

 そう言いながら、ウェンディーはせつなをしっかりと抱きしめた。 そうでもしないと不安が現実となって自分を押し潰しにかかる気がしたからだ。 普段だったらバーンが彼女を優しく抱きしめて、不安を支えてる事が出来ただろう。 しかし、彼は動く事が出来なかった。いや、動けなかった。

「逃がさんっ!!」

「来ないで!」

「そこっ!!」

「落ちろぉぉぉぉ!!!」

「強くなったな、レジーナ。」

 キース、カルロ、レジーナ、ソニア、マイト、パティ。 六人の能力者が入り乱れ、一部は当初の目的すら忘れて戦っている。 出遅れたバーンは誰とも対峙することなく取り残されてしまっていた。 もちろんキースをぶん殴ってやりたい所であるが、それどころでは無い。

 いつのまにかキース&ソニアとカルロ&レジーナの戦いになっている。 マイトとパティはちょっと離れた所で闘っている。 今バーンが飛び込むとキースの所に辿り着く前にとばっちりをくらう可能性が大きい。

「散れッ!!」

 キースの能力は氷、自分の回りに氷柱を繰り出し辺りを凍らせる。 電撃のソニアは攻撃が直線的であり、水のカルロと炎のレジーナは拡散的である。 キースは戦いの中心にいてベルフロント兄妹の攻撃を相殺させている。

 パティは自分を守るのが手いっぱいである。 マイトの押しの攻撃には玄玄ブラザースと戦ったときのようにはなかなか行かない。 能力を布陣する暇が無いのだ。もちろんパティは気が付いていた、 普段下僕として顎で使っているマイトが急に反旗を翻す訳が無い。 何か裏がある、そう思って様子を見ているのだ。

 バーンは彼らしくも無く、迷いを生じていた。 キースは元凶の一因だとは思う。取り合えず自分に取ってみればそうだ。 しかし、昨日ウェンディーから聞いた話を合わせてみると キースとカルロ達は結託してても良いような気もする。それが仲たがいしている。 で、ウェンディーを助けてくれたソニアが、キースと共に戦っている。 訳が分からない。パティも訳が分からないが、カルロ達の側に居る事は間違い無い。 さっき自分らを邪魔者呼ばわりしていたではないか。

「って事は、ソニアとマイト以外はぶちのめした方が良いのかな?」

 ああ、やっぱりバーンの思考だ。

 しかしそれでも、暴力は振るわないように彼女とは約束した手前、 余り無遠慮な事は出来ない。多分、キースに殴り掛かるとソニアからも 攻撃される事ぐらいさすがのバーンにも分かる。すると行きがかり上全員と 闘う事になるだろう。余り良い作戦とは言えない。作戦でも何でもないのだが。

 ただ、マイトの存在が気になっている。 喧嘩の勘と言うべきか、素朴な疑問と言うべきか。 何故コイツまでも巻き込まれているのだろう。

「あっ!エミリオっ! 気が付いた!?」

 エミリオは弱々しく、立ち上がろうとしていた。 ウェンディーは大声で歓声を上げる。 バーンは彼女の方を振り向いた。その一瞬、隙が出来た。

「うわーっ!?」

「バーン!!!!」

 パティに向けて放った、マイトの電撃がバーンに直撃したのだ。 今度はウェンディーが悲鳴を上げる。しかし、エミリオは彼女の声にも 倒れたバーンにも興味を示さない。ただ、にやりと笑った。

「はっはっはっは、みんな、にげろっ!」

 せつなの高笑いは全員の耳に入った。それで“にげろ”の声にぎょっとする。 彼の隣には巨大な力の場へと変貌しつつあるエミリオの姿が有った。 大きく翼広げ、まるで天使のように見えた。

「光よ!」

 彼の呟きは後光を力に変えて、屋上のコンクリートを破壊しはじめた。 誰も言葉が出なかった。十字架を背負った天使の表情が余りに悪意に歪んでいたからだ。


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