第三十九話〜人間模様?
極限状態に置かれた彼らの脳裏に渦巻く駆け引きと打算?〜
「わっはっはっは! みんなはやくにげるのだ!!」せつなの発言の前に笑い声が入るのは何故か、そんな事を突っ込む余裕は無い。 なんせ屋上が崩れてていっているのだ。足場がどんどん消滅していく。
「私が分からないの!?」 ウェンディーの絶叫も、無情に破壊音に打ち消される。 エミリオは宙に浮かんだ十字架のように、ただ光を放ち続けている。 バーンはウェンディーを引っ張ってエミリオの射程範囲から退かせた。
「せっ、生徒達は無事なのですか!?」
腐っても教師、カルロは階下が教室である事に気が付いた。 エミリオが今発している光を浴びれば、常人なら一瞬で蒸発しかねない。 まっどさいえんちすととしては、非常に興味ある問題であるが、 今は自分が実験台になり兼ねないのだ。こんな事なら早く人体実験に取り掛かるべきだったと恐い後悔をするカルロ。 やっぱり腐ってたりする。
その時、放送が鳴り響いた。
「全生徒諸君に告ぐ。 緊急事態だ。直ちに校庭に避難しろ。 これは訓練ではない。 繰り返す。 これは訓練ではない。」
「ガデス?」
バーンが呟いた。しかし、育ての親であるガデスの声もエミリオの耳には届いていないようだ。 先程と代わらず、いや、さっきよりも歪んだ顔で破壊の出力を上げていく。
「せつなちゃん! 何とかしなさい!」
「はっはっはっは! こうなるとさすがのおれさまといえどもむりだな。」
何故かパティがせつなに命令するが、せつなはポーズを取りながらすっかり諦めている。 悟りの境地と言うべきか、事態が悪化したときに何が起るのか把握してないだけかもしれない。
「ああ・・・もう終わりなのね。何もかも、私が電気人間になって、 妹に正体を隠し続けた事も一切が無駄になってしまうのね。 うふふ、良いの、最後に妹の元気な姿が見られたから。 彼とお幸せに、私は一人寂しく死ぬわ。いや、違う、一人じゃない・・・ キース様と一緒に死ねるのよ。なんて幸運なんでしょう。 でも、キース様には生き延びてもらいたい、そう、あの光がキース様を 直撃しようとして、「キース様!危ないっ!」って私が身を挺して差し上げるの。 「大丈夫か、ソニア!」「私は・・・」焼け爛れた私の半身、もう助かる見込みは無い。 判っているけど、キース様は私を抱きしめてくれるの・・・」
へらへらと、一足お先にアチラの世界に逃避しているソニア。 いや、いつもの事かもしれない。見るに見かねてバーンが声を上げる。
「おいっ、レジーナっ 一応保険の先生だろ! ソニアの面倒見ろよ!」
「兄さん・・・死ぬときは一緒だよ・・・」
レジーナもどうやらトリップしてるらしい。目が明後日の方を向いてる。 そうこうしているうちに、エミリオの光りは二階の教室まで達しようとしていた。 抉るように校舎が破壊されている。屋上部分もやや残ってはいるが。微々たるものだった。
その時、がしゃんと大きな音がした。マイトだった。 屋上のフェンスの上を駆け上がり、そのままエミリオに突っ込む。
「うぉぉぉぉおぉおおおお!!」
マイトは怒声を上げ、雷電の剣を振り下ろした。光が弾けエミリオの体が大きく歪んだ。 鈍い音がして、彼は階下のコンクリートに叩き付けられた。マイトは衝撃を利用して、上手く着地した。
「貴様はこのオレが狩る!」
今まで追っかけていたエミリオに初めて剣戟を食らわせる事が出来た。 感激の余りすっかり涙声になっているマイト。破壊は止んだ。が、エミリオは全く堪えてない様だ。 すくりと立ち上がる。
「ってぇなぁ・・・痛いんだよ。」
羽根を大きく震わせて、マイトを威嚇する。マイトは思わずしり込みした。 血に飢えた瞳がマイトを見据える。悪ブラド以上の邪悪さ突き刺してくるような視線が マイトの魂を鷲掴みにする。
「はっはっは、きくみみをもたないやつになにをいってもむだだぞ! しかしだ!せいしんてきどうようをおこさせれば、あるいはなんとかなるかもしれない!」 びししっ、と、すっかり蛇に飲まれる前のカエルになったマイトに ポーズ付きで叱咤するせつな。 しかし、先程“無理”と言った直後の発言である。 自分で何を言ってるのか理解しているのかやや疑問だ。 その時、パティの顔に生気が戻った。策を見つけた顔だ。
「脅迫しようと思って用意してたけど、こんな事に使うとはね。」
彼女はポケットから何かを取り出し、エミリオの方に投げつけた。 ゆらゆらと揺れる所から、何かの写真だと思われた。 エミリオはそのうちの一枚を何気なく捕まえて、目にやった。
「ふふふ、良くご覧なさい。それが、あなたのお姉ちゃんの本当の姿よ。」
その瞬間、エミリオの形相が固まった。そこには、 ウェンディーとバーンのキスシーンが念写されていたのだった。