第四十話〜北より来たり?
更に講釈垂れの“W”の登場に・・・〜


「きゃー!! なっ、なに撮ってんのよ!!」

「見せるな! 他の奴には絶対見せるな!!!」

 固まったエミリオを余所に、写真の回収と廃棄に回るバーン&ウェンディー。 エミリオと同じく、ふと目をやった一枚に釘付けになって、すっかり戦意を消失したマイトからも写真を引っ手繰る。 純情なマイトには少々刺激が強すぎたらしく、どうにも目のやり場に困ってしまっている。

「ふっ、所詮は高校生、児戯ですね。」

「兄さん! 他の女なんか見るなぁ!!!」

 一枚を拾い上げ、文句を足れている割に鼻の下を伸ばしかけていたカルロに、 レジーナのストレートが決まった。台詞的に問題はあるが、この際誰も突っ込まない。 既に暗黙の了解と成りかけている禁断兄妹。

「・・・男なんて、みんな同じね。」

 自分できっかけを作っていながら悟ったような事を言うパティ、訳が分からないのでとりあえず大きく頷くせつな。 多分二人がどうして慌てているのかすら、彼には理解出来ないだろう。

 キースも彼らの写真に興味が無い事も無かったが、エミリオが壊し損ねた鉄柱を離れるのは忍びなかった。 今一番高い所をキープしているのだ。彼の威厳に掛けて降りるわけにはいかない。

「フッ。」

 とりあえず、カッコつけてみる。が、誰も反応してくれなかったのでとても悲しかった。 しかし、この程度で挫けてしまうと英国紳士とは言えない。沈黙に耐えるキース。

 壊れているのはエミリオだけは無かった。

「・・・ウェンディーがウェンディーがウェンディーがウェンディーがウェンディーがウェンディーが・・・」

 ソニアの妄想回路は焼け付いてしまったようだ。まるで壊れたレコードのように ウェンディーの名前を繰り返すだけに成ってしまっている。妄想が広がる余地が無くなってしまったらしい。 普段なら名を呼ばれて怪訝に思うだろうウェンディーも、写真に大慌てなのでソニアに構う余裕はなかった。 ああ、何と言う運命の悪戯だろう。

 各々が各々の世界にはまり込んだ頃、忘れた頃に動き出すエミリオ=ミハイロフ。ゆっくりと立上がった。

「エミリオ!!」

「・・・おっらがクニはよぉ、まんず雪ば積もりくさって、さみくてさみくてよぉ。。。」

「エミリオ・・・どこの人・・・」

 ウェンディーは涙声になってしまっている、とりあえず北の人らしい。 焦点の合わない目でぶつぶつと、冬の雪下ろし作業について呟き続ける。

「エミリオ君の潜在意識が発露しているのです。問題は破壊者としての彼が発現したときですね。」

「リチャード先生!?」

「生徒達は潅頂先生と六道先生が逃がしているはずです。 エミリオ君を捕獲出来るのは今のうちですから、皆さん存分に戦って下さい。」

「お前っ、何者なんだ!?」

「申し遅れましたね。“素敵な英語教諭”ことリチャード=ウォンは世を憚る仮の姿、してその実体は!」

 北の国の寒さにじっと耐え春を待つ生活を語るエミリオ以外は、 突如現れた英語教師ウォンに注目する。どうやって現れたのか皆目見当がつかない。 そのうち、せつな並みの高笑いをし始める。

「はっはっはっは! 私こそは魔法の国の長、時間を司る謎の中国人“W”なのですよ!」

 どろん、と昔の忍者のように姿を変える“W”。 淡々と飢饉の時の辛さに言及し始めたエミリオと見慣れているせつな以外は皆こけた。 久しぶりではあるが、中華大魔人的服装の彼は端から見てもかなり濃い。 特にみんなスーツ姿の方を見慣れてるので、そのギャップに驚くと言うかどうしようもなくなる。

「あなた、変態ですね!?」

 “W”に向かって、真っ正面から指を刺すカルロ。

「はっはっは、どっちもどっちなのだ!」

 みんなの代弁者、せつな。

「馬鹿をやっている暇は有りませんよ。光陰如矢、一刻たりとも猶予はありません。」

 敢えて否定しない“W”。しかし、 怪しげな姿でまくし立てるので皆は手をこまねいている。

「何をしているのです! 呉越同舟、大同小異。 一人一人の力ではどうにも成りません。ここは一致団結して事に当たらねば成らないのです。」

「フッ、威勢だけは良いな。しかし何故急かしこそすれ、何の手段も講じないのだ?」

 ようやく喋れた、と言う感じでキースが高い所から詰問する。

「私は自分の手を汚すのは嫌いなのです。」

 キースの方を向きもせず、あっさり言い放つ“W”。

「仕方有りませんね。せつな! ちょっと行って・・・」

 “W”がエミリオの方をついと向いた時、彼はまた違う相を見せていた。 じっと“W”の方を睨み付けている。青いはずの彼の髪が次第に 脱色していくような、不思議で、そして妙な存在感が彼に備わっていた。

「手後れのようですね。」

 “W”は眼鏡をかけ直し、冷淡に呟いた。


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