第四十一話〜地球的危機?
エミリオの止めど無く溢れる力が次第に顕わになって・・・〜
「彼の力は溢れるばかりで止まることを知らず、光の波動は次第に大きくなっていき、 まずは校舎を、学校を、町を、この国のすべてを、やがて地球すら柔らかな光に包まれて行きました。 宇宙のすべてが彼と一つになるのは遠い話ではないようです。おわり。」「不吉なことを言うなー!!」
バーンが叫ぶ。パティが勝手なナレーションを入れていたのだ。 マイトは結構真に受けて、真っ青になっている。
「しかし、そうなるでしょうね。」
実も蓋も無く“W”があっさりと肯定する。
「私がこれまで守っていたこの世界も、もうおしまいです。」
見て見ぬふりを続けてきたくせに、さっさと諦めの表情を見せる。“W”。 遠い目をしてるようだが、もともと細い目を細めているのでどこを見ているかわからない。 せつなが足元で、何があるのか同じ方向を見ようと飛び跳ねている。
ずるり、とエミリオの半身がずり落ちた。まるで今までの自分を抜け出すが様に。 ウェンディーは悲鳴すら上げる事が出来ない。その後ろを壊れたソニアがつぶやき続けている。 立ち上がったのは凶々しく、白い髪と白い皮膚、まるでブラドのような凶悪さを湛えている。 血の色の瞳のエミリオ。
脱ぎ捨てられたもう一人は、幼さを残したエミリオ。 彼は力なく、ぺたりと座り込んだ。
「はっ!良い事を思い付きましたよ。 私が彼を倒せば救世の英雄として永遠に名を残せます!」
「そうだよ、兄さん!」
ベルフロンド兄妹が急に元気を取り戻した。 笑みを浮かべるカルロの白い歯がきらりと光った。 マッドサイエンチストらしからぬさわやかな笑みだ。 と言うか、こういう輩は普段に合わない事をしているときの方が余計恐い。
「行きます!」
意を決してエミリオに向かってダッシュするカルロ! エミリオから発せられる邪悪な気は段々とその勢いを増している。
「僕は今・・・とても良い気持ちなんだ。邪魔しないでくれよ。」
バリアを展開する赤いエミリオ。マッドサイエンチストを凌駕する危ない瞳でカルロを見据える。 バシッ、軽々とカルロは弾き飛ばされてしまった。
「ううっ・・・油断したか・・・」
膝を突いて、不覚を反省するカルロ、単に甘く見ていただけである。 尤も、レジーナぐらいしか期待してはいなかったが。が、カルロに気を取られた一瞬の隙を、 最も高い場所で様子を伺っていた彼が見過ごすはずがなかった。
「そこだ!」
一陣の冷気!氷の槍がエミリオを貫いた!凍り付く反動で最も高い場所で待つキースの元に 彼の身体は打ち上げられた。キースの力はぎりぎりまで高められている!
「エミリオ!!」
ウェンディーが倒れているエミリオの方へ駆け寄った。 薄目を開けては居るが、まだ意識が戻ってないようだ。
空中にて、全身に凍気を纏ったキースは龍のイメージに力を転換する。 幻は現実のものとなり、エミリオに絡み付いた。赤い瞳が苦痛の色を示す。
「さらばだ!」
「うわーっ!!」
弾き飛ばされるエミリオ、校舎の床に叩き付けられ、痛々しくもコンクリートに陥没する。 先の凶々しい圧迫感は次第に弱いものになった。
「全て、凍り付くが良い。」
勝ちを確信し、ポーズまで決めるキース。せつながうらやましくて堪らない表情で見ている。
「・・・ちょっと待てよ! 奴が勝てるなら俺にだって勝てたぜ?」
バーンが不審の声を、“W”に向かって発した。 キースはやや、不機嫌そうな顔をするが、確かにそうであるのに気がついた。 “手後れ”にしては余りに手応えが無さ過ぎる。
“W”は首を振ると、めがねを直した。
「いけませんねぇ。彼の方は只のおまけみたいなもの。本当に危険なのは今ウェンディーさんが駆け寄った方ですよ。」