第四十二話〜愛する者
もう一人のエミリオとウェンディーの行方は?〜


「ウェンデぃいっ!!!!」

 バーンの声がやや上ずっている。エミリオを介抱しているウェンディーには 先の、“W”の声は届いていなかった。何事かと思って、きょとんとしている。 しかし直ぐに、ぴくりと動いたエミリオの方へ意識が戻ってしまった。

「おねい・・・ちゃん・・・」

「エミリオっ! よかった、気がついたのね!」

「おねえちゃん・・・」

 にこり、力を使い果たしたように見えるエミリオは弱々しく、 それでも母親の胸に抱かれる幼子のような安心しきった笑顔を見せる。 ウェンディーも思わず微笑んでしまった。

 びかかぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああつつつっっっっっっ・・・

 唐突に、辺りは白の力場に塗りつぶされた。 エミリオから発せられた光、否、発光はしているもののそれはかなり濃い“気”であり“力”であった。 純白の輝きが辺りの空間を、そして物体を穿つ。

「ウェンディー!!!」

 教室ぐらいは楽に飲み込めるほどの力の奔流。その中に飛び込もうとしたバーン。 だが、バーンの力を持ってしても一歩も足を踏み入れる事は出来ない。 流出する力にはじき出されないだけでも、さすがとしか言えない。

 唯、光のみが辺りの空間を占めていた。荘厳であり、神秘。 しかし、常人にはその清らかすぎる場所には存在する事すら不可能だっただろう。 今居合わせたのが、多少なりとも力を持つものだったから吹き飛ばされずに済んだのだ。

 光の流出は、皆が見守る中次第にその出力を減少した。 そして、徐々に霧が晴れて行くように光の粒は段々と薄れ、太陽がもたらす自然光だけが残った。 エミリオが座っていた筈の場所には、コンクリートの欠片すら残っていない。 全く光りの中のものは消滅してしまったかのようだった。そう、ウェンディーもさえも。

「・・・嘘だろ、ウェンディー?」

 バーンはがっくりと膝を突いた。キースでさえ、先のポーズのまま固まってしまっている。 さすがにカルロやパティでさえ、ぐうの音も出せずにいる。先から何も言わないマイトは、腰を抜かして立てない。

「ウェンディー・・・きゅぅ。」

 ソニアが卒倒してしまった。レジーナは自分が保健の先生である事に今更ながら気がつき、彼女の看病に当たる。 せつなは、キースの倒した赤エミリオを足でつついたり顔をふにふにするのに夢中で 今の惨事に気がついていなかった。“W”はせつな達二人を一瞥する。

「分身が生きている、と言う事はエミリオ君が消滅したという訳ではなさそうです。 と言う事は、ウェンディーさんが生きている可能性も否定できませんね。 『不幸中の幸い』と言った所でしょうか。」

「てめぇ!!!」

 余裕だけは山ほどある“W”に 怒りに燃えるバーンが殴り掛かった。 余りに無責任な態度に文字どおり切れたのだ。 が、残像を残しながら分裂した。鈴木正人(仮)に使った分身の術である。そんな事は知らないバーンは もちろんの事ながら勢い余って突っ切ってしまう。

「残念ですねぇ。さて、私も油を売っている暇がなくなりました。 後はこの世界の人たちで何とかしてください。」

 かき消すように消えてしまう“W”。いつもながらの言い逃げである。

「畜生!!」

 残り少ない足場から落ちそうになったバーンは振り向きざま、悪態をつく。 彼の瞳には涙が滲んでいた。滅多に見せない彼の表情である。

 カンカンカンカン。階段を駆け上がってくる足音に、パティは振り向いた。 ぬっと姿をあらわしたのは玄真と玄信、玄真はこの惨状に絶句している。

「・・・これほどとは・・・」

 玄信が、ほぼ壊滅した屋上を見て呆然とした。しかし、 今ごろやってきた彼らに出来るのはひっくり返ったソニアを運ぶ事と、 赤エミリオをふん縛る手伝いをする事、それぐらいしかなかった。


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