第四十三話〜ウェンディーを探せ?
残された者達には何が残されたのか!?〜


「皆様・・・すいません。私が不甲斐なかったばかりに・・・」

 箱船高校跡地、大破した校舎の中で保健室がまだ残っていたのは不幸中の幸いだった。 あれだけ派手に建物が崩壊しながら疲れきったゲイツが高いびきで占領していたベット(二つ)も 今はソニアが寝込んでいる。うわ言に合間に悲しんだり驚いたりにやけたりして見てて飽きないのだが、 栞を中心に今後の対策を立てようとする矢先、彼女に気を取られている暇はなかった。

「挨拶はどうでも良いさ。問題は次に何するかって事さ。」

 いつのまにか黒板を持ち込んで、状況整理をするガデス。 玄信が対外処理に回っているので参謀役を勤めている。 一応エミリオの保護者なのでなんとなく溶け込んでしまっているが、 彼が何時の間に仕切りはじめたのか誰も知らない。

 ちなみにカルロはレジーナと共に雲隠れしてしまっている。 玄真はそれを追う役、パティも気がついたら居なくなってしまっていた。 取り残されたマイトは証人として半強制的に部屋に連れてこられてしまった。

「何にせよ、あの“W”とか言う男の情報が希薄だな。」

 そのマイトを横目で見つつ、保健室の椅子に腕組みをしたまま立っているキースが彼に聞こえるように呟く。 せつなが椅子を回してもバランスを崩す事はない。 回転するキースに睨まれているマイトはとてもじゃないがビビらずには居られない。

「俺は飯をおごってもらっただけだ!」

 さっきも言ったじゃないか、とは言いつつも目は逸らしたままだ。 キースは回りながらも、不信な表情を隠さない。

「そうかな?実にタイミング良く君らが現れたのは何故かな?」

「奴が何を考えていたかは知らん! ただ・・・」

「ただ?」

「俺を見る目はかなり違ってた気がした・・・」

 いろんな意味に取れる発言である。おませな栞ちゃんは頬を赤らめる。 ガデスは先のラーメン屋での出来事を知っているので、なんとなく推論を進めている。

「カルロやパティが見付からない以上、後はコイツだけかな。」

 ガデスは何故か天井から縛り吊るされているエミリオを見る。 カルロやパティが絡んでいるため話がややこしくなっているが、 “W”がそれに乗じたのは確かだ。

 実はガデスは“W”の行方ぐらいせつなが“臭い”で分かるだろうと踏んでいたのだが、

「わっはっは、おれさまをいぬあつかいするとはいいどきょうだな!」

 と、ポーズ付きで断られてしまっていたのだった。が、策は一つではないので彼は別の作戦を進めているようだ。 ブラドがこの場に居ないのも、実は別行動をガデスが命じているからである。 もちろん、何かの拍子で“悪”になり兼ねないのだが、それもまたそれで計算のうちらしい。

「奴はエミリオ君の力を解放する予定で動いていた節がある・・・」

 キースは椅子に漸く座り込んだ。せつながもっと椅子を回そうとするのを 制して止める。さすがに気持ち悪くなったらしい。 しかし、彼が座り込むと、工夫の無い保健室の椅子さえ気品が出るので不思議だ。 いや、こっそりと氷の粒を散して効果を出しているのは秘密だ。

 赤い瞳のエミリオはキースが派手にやってしまったので、まだ目を覚まそうとはしない。 それより保健室の天上に“吊るしてください”といわんばかりにフックが付いているのは箱船高校の“秘密の実験室”に匹敵する謎である。

 彼の下にはバーンが猿轡まではめられて、厳重に縛りつけられている。 簀巻きに近い状態だ。ウェンディーを助けに行こうと一人で突っ走ろうとしたのを 全員で捕縛したのだ。それでもまだ、這ってでも進もうとする彼の根性を理解して欲しい。

「・・・玄真も玄信も、崩れ落ちる校舎から生徒を助けるので手いっぱいでした。」

 栞がすまなさそうにうつむく。鈴木正人(仮)消失事件について 既に報告は終えていた。もちろん、彼についての知識を持つものは少なかったが。 マイトでさえ、それで“W”に復讐を誓うわけでもない。そこをまた、キースが怪しんでいるわけであるが。

「しかし・・・おっと、気が付いたかな?」

 ガデスが次の言葉を発しようとしたとき、エミリオを繋いだ縄がビクリと揺れた。 もがいていたバーンでさえ、その動きを止める。真っ赤な瞳が、再び開こうとしていた。


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