第四十六話〜絶望?
ガデス、若者のダベリにとうとうついて行けず


 西日が射し始めた保健室。ガデスは椅子に腰を下ろし、じっと黙っていた。 膝の上にはせつなが丸くなっている。いろいろあったため疲れたらしく眠りこけていた。 その手触りの良い金色の髪を撫ぜながら、ガデスは落ち着こうとしている。

 黙っているのはマイトぐらい、ソニアの寝言は数に入れないとしても、 キースとエミリオが、バーンが縛られているのを良い事に好き放題言っているのだ。 喧しくてやっていられない。栞は事務のため席を外している。

「だから、俺が応援してやるって。バーンはキースとくっつけ、 そしたらお姉ちゃんは僕の物だ。万事上手く収まるじゃないか。」

「今の君の方が話が分かるな。先日その提案をしたときは一方的に撥ね付けられたよ。」

「まあな、ブルーハワイ。」

「・・・。」

「だから、頼むから俺やウェンディー抜きで話を進めるな。」

「おねえちゃんは欠席裁判。でも、簡単な事じゃないか。 バーンとキースが絡んでる写真見たら一発で恋も冷めるって。」

「絡むって何がだ!」

「・・・言い方が下品だな。
“愛を確かめ合う”“一夜を共にする”。
・・・イマイチだな、バーンはどう思う?」

「同じだ!」

「君は情緒と言う物が分かってないな。まあ良い、今度ゆっくりと教えてあげよう。」

「要るかぁ!」

「あはははは、それだけ元気だったら熱い夜になりそうだね。」

「全くだな。 僕のほうが情熱を教えてもらえるかもな。」

「・・・お前らと話していると、アタマがオカしくなる・・・」

 全くだ、ガデスは頷いた。

 栞でも居てくれれば、まだ場は和んだのだろうが。 いや、良く考えれば奴は逃げたな。そう思いはじめた。 ブラドも偵察に行ったっきり、帰ってこない。 もうそろそろ帰ってきても良い頃なのに。焦りが生まれる。

 1人は吊るされ、1人は簀巻き状態。1人は椅子の上に立っている。 よくよく見れば不気味としか言いようの無い三人組だ。 ガデスは今見ている世界全てに非現実的な物を感じていた。 それは常に現実を直視すべき傭兵として由々しき事ではある。 俺もそろそろがたが来てるかな、そう思いはじめていた。

「だから、ソニアが折角お前の事想っているじゃないか。健全になれ!」

「いやだ、僕は君が良い。」

「人の恋路を邪魔すると、馬に蹴られるよ?」

「邪魔してるのお前らじゃねーか!!」

「バーン、いい加減諦めろ! 僕らは赤い糸で結ばれているのだ。」

「俺は絶対認めないぞ!!!」

「仕方ないなぁ、じゃぁ。バーンにはマイトをやるよ。」

「的確な判断だな。彼の物ならすなわち僕の物だ。」

「勝手に人を売るな!」

「売ってないさ、タダだから。」

「要るかぁ!!」

 頭ごなしに否定されたマイトはやや、悲しげな表情を見せる。ガデスは溜息を吐いた。

 明日にでもこの世の終わりが来るかもしれないのに、惚れた撲れたにうつつを抜かしてやがる。 それが若さなのかも知れないが、戦場で生きたガデスには理解できない世界だった。

「ヤメたヤメた。お前らと付き合ってても時間の無駄だ。」

 そう言って立ち上がるとガデスは胸元からサングラスを取り出した。 何時の間に用意していたのだろうか?その割に凄く似合わない。

「今の俺には良い手が思いつかねぇ。 どうせ死ぬならラスベガスにでも行って、最後の夜を楽しんで来るぜ。 短い付き合いだったな。あばよ!」

 膝の上のせつなを椅子に置き直して、ふらりと外に出たガデス。 四人は一瞬彼の方を振り向いたが、再び口論に花を咲かせる。 現実逃避するならとことんやってやれ。彼自身が気付かぬうちに、かなり熱くなっているようだ。

「・・・ここは何処? ・・・私は・・・ソニア?
!! まさかっ!! キース様と一夜をっ! はっ、はしたないわ私!
・・・!! 駄目よっ! 全く覚えてないっ!! まさか私酔っていたのっ??
いやぁっ!! 折角の思い出がぁっ!!!!」

 漸くソニアが目を覚ました。と言うか、いつもながら酷い暴走状態だ。
ガデスは損をしていた。なぜなら余りに彼女を、軽く見すぎていたからである。


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