第四十七話〜大誤解?
突っ走るソニアの思考回路は幻の愛を紡ぎ続けて・・・
「お目覚めかな、ソニア。」彼女の起床に気が付いて、椅子に突っ立ったまま移動するキース。 滑車付きの円椅子は実に便利だ。しかし、彼の微笑みに 両の耳から蒸気がぶしゅーっと言う感じで真っ赤に高揚するソニア。
「きっ、きっ、きっ、きっ、きぃすさま・・・」
彼女の言いたいことを要約すると“夢じゃなかったのね”と言う事になる。 もちろん、夢も既成事実も何も無いのだけど。
「大丈夫かい。痛い所はないかな?」
「はい・・・だって・・・あの・・・愛してますから・・・」
最後のセリフは消え入りそうな声なので、残念ながらキースの耳には届かなかった。 それよりも先ず、ソニアは怪我をするような事はしていない。 それでも彼女は喜びの余り恍惚とした表情を浮かべながら、 窓から思いっきり荒れ果てた校庭へと目を向ける。
「二人で一緒に朝日を見る事が出来るなんて・・・」
夕日である。
“現実”に頭がいっぱいでとうとう現実認知まで着色が入りだしたようだ。 それが“勘違い”である事は妄想が支配している彼女の頭では認識出来ない。 しかし、幾ら矛盾が生じようと帳尻を合わせてくれる偽の記憶と忘却とが 彼女の精神のバランスを保つのだろうが。
と、縛られっぱなしのバーンもエミリオも、矛先が変わって苛められはじめていたマイトも ソニアとキースがやけに話し込んでいるのでじっとその姿を見詰めていた。 その視線に彼女は気が付く。
「ふっ・・・」
そこで言葉が出なかったのは正解だ。言ってしまえば“危ないお姉さん”の レッテルは更に強固なものになっていただろう。 余りに過激な想像をソニアはやらかしてしまった。慌て者の彼女は自分の想像だけで気絶しそうになる。 キースはめまいを起こしたものだと思い(事実そうではあるけど)倒れ込む彼女を優しく支えた。
「大丈夫かい? 今君は保健室に居るのだ。分かるかな?」
「保健室・・・」
保健室の危ないネタからお医者さんごっこ、 病院ネタの三種の神器『お薬・お注射・お浣腸』・・・ 彼女の妄想が何処まで及んだかは定かではない。
「教えてくれないか?」
「はい、もちろんですわ。キース様。」
頬を赤く染めて問いを待つ。だって、私に全てを教えてくれたのですもの。 なんて事をソニアが想っているなど全く思っていないキース。 冷静に聞きただそうとする。
「先ほどの事なのだが・・・詳しく話してくれるか?」
「・・・そんな・・・」
訳:どうしましょう、全然覚えてない。感想なんて聞かれても私困っちゃう。 でも、キース様、貴方と一夜を共に出来ただけでソニアは幸せです。 ああ、でもっ、ご質問にはお答えしないと。「言えないならもう一度、だな」なんて、 ソニアは、キース様がお望みなら何をされても嬉しいです・・・なんて、ああっ、そんな、 私ったらはしたない。こんな女、キース様はお嫌いかしら・・・(以下略)
端から見てもトリップしている事が分かるソニアに、キースはかなり困惑気味だ。 芋蔓式に溢れ出す妄想が妄想を連鎖させ、取り留めの無い境地に彼女を追いやってしまっている。
今の彼女に屋上での出来事を想起させる事はまず無理であろう。 第一、妹が消えた事など思い出した暁には二度と現実世界に戻れない程の 「私の世界」を展開させてくれるはずだ。
そんな中、バーンがはたと思い当たる。
「そういえば、ソニアの事はお前知らないのか? 一緒に出てきたし。そういえば能力もまんまだしな。」
「知らん! 向うが真似したのだ!」
反射的に嘘を付いてしまう負けん気一杯のマイト。
「へへへ、君ら、能力電気じゃなくて電波だろ?」
と、エミリオが手痛い一撃を放つ。 今パティがいれば、彼女の能力を“電波”と断言しただろう。 いや今のエミリオは発信も傍受もバリバリだぜ、と言う感じであるが。
「電気電気・・・貴方もあの忌まわしき眼鏡魔人の手に掛かって電気人間にされたのね・・・」
ソニアの呟きをキースが聞き逃すはずがなかった。両の手で彼女の肩を掴み、激しく揺さ振る。
「おいっ、その眼鏡魔人についてだがっ!」
「いやっ! そんな・・・まだ朝なのに・・・」
日が落ち、外が暗くなりつつある事を彼女はまだ気が付いていなかった。