第五十一話〜闇討ち
突然の闖入者の猛攻に赤エミリオは!?〜


「貴様! 何のつもりだ!?」

「何のことでしょうか?」

 叫んだのはキース。しかしその相手は唐突に攻撃を繰り出してきた マイトにでは無く、散乱した割れたドンブリもそのままに、 悠然たる態度で彼らの慌てふためきを観察している“W”であった。

 “W”は懐から時計を取り出し、ちらりと一瞥した後またそれを戻す。

「もうこんな時間ですね。私は他の仕事に取り掛かりますよ。 『一刻千金』です。これは余談ですが、終末の時は近いようですよ。」

「待て!」

 “W”はキースの声には耳を貸さず、いつものように掻き消える。 彼のにやにや笑いだけが、一瞬消えそびれたような気配すらある。 が、いつまでも消えた者に注意を払っている暇はなかった。 緑色の閃光が容赦無く彼らに襲い掛かる。

「・・・ハ・・・全テ斬ル!!」

 容赦、そんなものは一切感じられない。 正確に、緻密に、そして非情なマイトが襲い掛かってくる。

 緑色の瞳はまるで植物の様に無表情である。 バーンとキースはその異様なプレッシャーに押されながらも、 相手の出方をじっと窺う。

「キースっ、来るぜ!」

「分かってる!」

「ソコカッ!!」

 ザッシっ!!

 マイトから発せられた電撃の縄は既に反応していたキースでは無く、 ボーっとしていたエミリオに向けて放たれた。 エミリオはそのままマイトの方へ引き寄せられ、 待ち構えていたマイトが、大きく振りかぶる。

「うわぁああああっ!!」

 マイトの緑色のスパークがコンクリの壁や道のアスファルトを両断しつつ、 エミリオを切り裂いた。石油の焼ける臭いが辺りに満る。 エミリオの体は絶叫と共に、ゴム毬の如く軽々と弾き飛ばされる。

「エミリオっ!?」

「油断するなバーン!」

 いつのまにかバーンの懐に、マイトは潜り込んでいた。 電撃をまとった彼の拳は自分よりも一回り大きなバーンすら 弾け飛ばすのに十分であった。

「・・・強ぇっ・・・」

 それでも、バーンは上手く身を翻して着地する。 彼の培ってきた喧嘩の勘は伊達ではない。 しかし、それでもマイトの的確な動きの方がやや上手の様だ。

「冷静になれ! 見切れぬ動きでは無いぞ!」

 その隙に氷の霧をキースはまとっていた。 絶対零度のスクリーンは全ての超能力を無効化するのだ。 隙を上手く利用した頭脳派プレーであるが、 バーンはキースのこういう所がちょっと嫌いだったりする。

「分かってるぜ、怒鳴るな!!」

 ギュン!

 そんなバーンの頬を光の矢がかすった。赤いものが飛び散る。

「・・・この雑魚、僕の事を忘れてないかい?」

 光。

 エミリオの周りを巨大な光の塊がキラキラと空中を漂っている。 いつのまにか、設置された白いプリズム。エミリオは自信に満ちた表情で じっとマイトの方を睨み付ける。

「行けっ!!」

「うぉっ!アブねっぇっ!!」

 光が一筋、プリズムに向かって発射され、ミラーボールのように乱反射する。 夜の闇が、一瞬明るく輝いたかのようだ。 太い光の束、バーンは飛び跳ねてそれを避けたが、 避けた後は大きく抉れ、その破壊力の強さを示す。

 マイトはそれを、バリアを展開して弾く。 ほんの一瞬。それこそ必要最小限を機械のように計算したかのように。

「やるじゃないか。」

 全く、周りのことには頓着しない。いや、 自分の破壊力に満足そうなエミリオは、全く表情を変えずに突っ込んでくる マイトにすらにやりと笑い、そして真剣な顔になった。

「死んでしまえイッ!!」

 今度は景気良く、三本の光の筋が発せられた。 プリズムは光を吸収し、一気にマイトの方向へ放出された。

 一瞬のことであった。マイトは力の壁を展開する。 しかし、エミリオは躊躇無く彼に向かって突進していた。

 パリン!!

 エミリオの拳が彼のバリアを破壊した。 無防備になるマイトを、収束する三筋の光がマイトを直撃する。 黒焦げにならないのがふしぎなほどの熱量と交錯するエネルギー。 打ちひしがれた緑のマイトは、力なく静かに横たわった。

「さて、あんたにも眠ってもらおうか?」

 狂気の瞳を、今度はバーンに向けるエミリオ。 ・・・しまった、コイツは悪ブラドだった。 今まで大人しくしていたので忘れかけていたが、 コイツはエミリオ自身ではない。 バーンは心中でやりきれなさを感じていた。

 すっとエミリオが仕掛けようとする。が、その瞬間。

「おわりだぁ!!」

 屋根から、唐突として黒いオーラがエミリオを襲う。 さっきからボルテージを高め、エミリオに狙いをつけていたせつなが放った“ブラックサン”だった。 最大限まで溜められた暗黒のエネルギーはどかーんと派手に爆発し、 エミリオはギャグマンガの悪役の如く上空に打ち上げられる。

「なんてこったぁーーーーー!!」

 断末魔とともに地表に落下し、そのままヒクついているエミリオ。 せつなは勝ちポーズを誇らしげに取っている。

−こんな奴、ウェンディーには見せられねぇな−

 バーンは頬の血を拭いながら、先のエミリオを思い返していた。

 ちなみに、シェルの切れたキースは光弾を一撃食らっていたのは秘密である。 それでも、何事もなかったように直立不動の体勢を保持しているわけであるが。


52話へ

“マジカル☆せつな”トップページ
特異効能的理力

おおさま:oosama@aba.ne.jp