第五十三話〜深夜決戦!?
久々に二人屋根の下のキースとバーンは・・・〜


「さぁっ! やっと二人きりに成れたな、バーン!!」

「何しやがる!!」

 抱きしめてくれといわんばかりに無防備に突っ込んできたキースの頬に、 バーンは思い切り拳骨をくれてやった。何の抵抗も無くクリーンヒットしたのが バーンは自分が殴っておきながら意外に感じた。

 へぶしっ、と仰け反るキース。
 膝をついてバーンの方を向くが、その表情は敵意に満ちたものではなく、 むしろ“さすがバーン、良いパンチだ”と褒め称えている様なさわやかな表情であった。

「ふっ、そう邪険にせずともよかろう。」

 立ち上がりながら唇から流れる血を、懐から出したハンカチで丁寧に 拭っているキース。彼はあくまでジェントルマンだ。 しかし、やや悪代官が入ってしまっている彼の立ち振る舞いに、 バーンは今、マジで恐怖を感じていた。

 そのままにはしておけなかったので、緑マイトも連れてきたエミリオ宅。 マイトは縛って放っておくとして、せつなの大技のお陰で大ダメージを食らったエミリオも やはり縛られたまま二階のベットの上に担ぎ込まれていた。
 ここまでは良かった。

 が、我らがマジカル☆せつなはもうお眠の時間。 と言うことは必然的に、目が覚めているのはキースとバーンの二人だけとなる。 邪魔者は居ない。しかも一戸建ての家の中、何が起ころうが詮無き事。

 リビングで、お茶でも飲ませて貰おうと二人で台所に言ったのが運の尽きだった。 拳に残るキースの感触に、バーンは彼の罠に落ちていた事を確実に実感した。

「♪あなたーの燃えーる手でーぇー ♪私ーを抱きーぃしめてーぇー」

 低音で『愛の賛歌』を歌いはじめたキース。 その瞳はまっすぐ、真摯にバーンを見つめている。 本気の目のキースは、いろんな意味で恐い。もちろん、今の行動も恐い。
 さしものバーンもいろんな意味で背筋が凍る。

「歌うなぁっ!!」

「何を言っている! 君の為ならば裸エプロンも厭わない僕の気持ちを分かってくれないのか!」

「分かりたくねーよ!!!」

 少し想像してしまった自分に、バーンはかなり後悔してしまっていた。 色白で美人顔のキースには、裸エプロンは凶悪なまでの色気が発散される事だろう。 が、バーンは健全な男の子。キースは親友ではあるが、さすがにそーいうトコロまでは行きたくない。 第一、彼にはウェンディーが居る。しかし、キースはそんなことには全くお構いが無い。

「バーン、僕はっ、僕はぁっ!!」

 感極まったらしく、再び無防備に突っ込むキース。
 その瞳は既に二人の愛の世界を見ているらしく、瞳孔が開きっぱなしである。

「キース、目を覚ませぇっ!!」

 ごわっ!!

 バーンは彼を避けようと、腕を振った。他意は無かった。 が、右腕からは巨大な炎吹き上がってキースを掴みしめた。 そのまま爆発とともに、キースを握り潰してしまった。 バーンの生命力は己の危険に対して新たな技に目覚めさせたようだ。

 ・・・助かった?
 が、ハッと気が付いて吹き飛んだキースに駆け寄った。 幸い、家具にも彼にも外傷はない。しかし、キースは弱々しげに空を仰いでいる。 信じていたものに裏切られたような、今にも涙をこぼしそうな横顔だった。

「キース、お前は悪い夢を見ていたんだよ。」

 バーンは彼の顔を見据えて、諭す様に言葉をかけた。 キースは、その言葉を聞いて、ゆっくりとバーンの方に首を傾ける。

「バーン、僕を・・・許してくれるのかい?」

 まるで子供のように素直に言葉が出た。

 バーンは、何故か胸にぐっと来るものが在って、目頭が熱くなった。 いつも高圧に振る舞っているが、キースの帰って来れる所は自分しか無いのかもしれない。

 信じられている、その喜びがバーンの顔を綻ばせた。

「バカ野郎、許すも何もないだろう? 俺達は親友じゃないか?」

「バーン・・・ありがとう・・・よし、今から親友を越えよう!」

 がばっ!

 急に元気になったキースは密着していたバーンを訳なく押し倒した。

「うわぁぁっ、親友“迄”だ、迄!!!」

 キースの奇襲にバーンは慌てふためく。親友は親友、一線を越えられては堪らない。 何とかキースを振り切るが、彼らの追い駆けっこは空が白んでくるまで勝負は付かなかった。


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