第五十四話〜脱力!?
二人のマイトが対面するとき・・・〜


「なんと・・・」

 玄信はそう言って絶句した。いや、玄真や栞は言葉すら出ない。 が、それが“もう一人のマイト”に対して発せられたものなのか、 彼が完全に凍り付けになっている所に驚いたのか定かではない。

「はっはっはっは! はこんでくるのがたいへんだったぞ!!」

 せつなが昇ったばかりの太陽へ挑戦的にポーズを決める。 マイトを凍らせている能力は、先日の鬼ごっこ中にキースが(バーンを押さえつける為に?)極めたらしい。 昨夜と同じ轍を踏まぬようエミリオに当て身を食らわせた後、 朝の速いうちに担がれてきたのだが、校門まで来てタクシーを使うべきだったことに気が付いた。 エミリオの家から学校まではそう遠くはない。 その時の脱力感は如何なる金銭を以ってしても償われるものではなかった。

 緑色のマイトは縛られたまま凍らされている。 見開いた目には恐い物があるが、かなり扇情的な姿と言って差し支えない。 キースはマイトを抑えておく為、かなりの力を遣い続けているらしく眉間に皺を寄せている。 何を想ってか知らないが、ソニアはキースを見つめながら同じぐらい眉間に皺を寄せている。 力が同じぐらい篭ってしまっている様で、そのため彼女の言葉は少ない。

「しかし・・・お疲れのようですね。」

 バーンは昨日のドタバタノお陰で、かなりげっそりしている。 言葉をかけた栞ちゃんは例によってアブナイ邪推を行っていた。 と言うか、彼女の頭の中ではキースとバーンはステディ決定のようだ。 余り否定できないのが悲しいのだが。

 当然のことながら、せつなはあいも変わらず元気である。 赤エミリオもどうも場に慣れたらしく、大人しくしている。 まあ、ちょっとイッてる表情を崩す事はないのだけど。

「そういえば本物のマイトさんは・・・おおっ!!」

 そう言いながら壁際で躓いた栞は、乙女らしからぬ悲鳴を上げる。 そこには壁に向かってどすーんと落ち込んでいるマイトの姿が在った。

「・・・忘れてたぜ・・・」

 みんなの代弁者、バーン。そう、先日からずっと、体育座りのまま壁を向いていたらしい。 この部屋から撤退した後も、誰も気が付かなかったようだ。

「居ても居なくても同じってことだね。」

 エミリオの呟きに、せつなのお株を奪うかの如くさらなる“闇”を発生させるマイト。

「おおおおおおお!! 何という事じゃあー!! 教育者たるワシが生徒が悩んでいる事にきがつかなんだとはぁーーー!!」

 ムキムキのボディを不必要なまでに誇示しながら玄真が吠える。 が、説得力は余り無い。彼が幾ら雄たけびを上げた所で、マイトはぴくりとも動かない。

 暫しの沈黙。

 そして、ふと全員の視線に気が付いて、キースが口を開く。

「これでは埒が開かぬな。マイト君を目覚めさせてみるか?」

 彼が仕切らないと、どうもまとまりが悪いらしい。 キースは再び、能力の集中に入る。 ほんの少しだけソニアも一息ついたが、また彼と同じように顔を顰めている。 息をしているのか、少々心配な表情であるが彼女の妄想力はどうやら 酸素補給能力さえも超越しているらしい。

「じゃあさぁ、お湯でもかけてみようよぉ。」

「おい、沸すのって俺か? ・・・って、やかんどこだよ。」

「お湯なら給湯室に在ります。保温ジャーがあるので沸さなくても。」

「ならば拙僧が持ってくるとしましょう。」

「あ、ついでにお茶菓子持ってきてねー。」

「はっはっは! ちょこれーとがいいのだ!!」

「ぬう、兄者。ワシも手伝うぞ。」

 動きはじめると結構滞りなかったりする。 そうこうしているうちに、すっかり朝のお茶の時間が始まってしまった。

「今日は朝抜いたから腹へってさぁ。」

 と、出されたものを遠慮なく口に入れるバーン。お茶うけのクッキーであるが、 せつなと一緒にがっついている。玄真も玄信も、神妙な表情でお茶を沸している。

「あの・・・マイトさんを・・・」

 栞の突っ込みで、もとの仕事を思い出した。 すっかり忘れ去られていてさらに落ち込んでいるマイト。 しょうがないな、と余り乗り気でなさそうだがエミリオはお茶の入った 急須を玄真から引っ手繰った。

「? 何をしようとする気だ?」

 氷なら、能力で凍らせているのだからキースが望めば解凍出来る。 しかしエミリオはお湯をもって、にこにこと落ち込んでいるマイトの方へ と歩いていった。

 そして何の躊躇も無く、熱々のお茶を彼に引っかけた。

「アチチチチチチチっ!!!!!」

 そっちかーっ!!

 ここにいる人間全てが、そう思ってしまった。もちろん、せつなとソニアは 各々食事と妄想で忙しいので省かせて頂く。

「ね?元気になったでしょ?」

 誇らしげに、天使の笑顔を振りまくエミリオ。やっぱり、コイツ“悪”。

「アっ、アチチチチチチチっ!!!!!」

 それに引き換え、大慌てで部屋の中を右往左往するマイト。 さすがに、落ち込んでなど居られない。熱さを紛らわせる為、 部屋を何度も往復している。

「しまったっ!?」

 ピシッ!。

 キースが気を抜いた瞬間、緑マイトを封じていた氷にヒビが入った。 そして、封じられていた彼の目に生気が戻りはじめる。

 バリン!

「・・・スベテ・・・キル・・・」

 氷が割れた。ゾンビの様な生気の無いオーラを発しながら、 緑マイトは場違いなほど平和な彼らを眺め回した。




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特異効能的理力

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