第五十五話〜焦り!?
混乱を極めた二人のマイトがとうとう・・・〜


「マズぃなぁ・・・」

 ガデスはタクシーの中で、頭を掻きながらぼやいていた。 髭が残る寝起きの顔で、髪の毛もぼさぼさ。 昨日一晩掛かって、漸くパティを吐かせた後、慌ててタクシーを捕まえたのだ。 行き先はもちろん、箱船高校である。

「頼むから、マイトを刺激するなよ・・・」

 ガデスは焦っていた。彼の得た情報は予想していた最悪ラインよりももっと悪い話だったからだ。 葉巻を懐から出して、一服する。それでもなかなか気持ちは治まらない。

−奴等の事だ、早まった真似をしなければ良いが・・・−

 特にあの、邪悪に染まったエミリオが心配だった。 万が一、という言葉があるとしたら奴の為にあるのだろう、それぐらいの危惧を募らせていた。 葉巻を揉み消し、再び火を点けた。

 いかにして彼がパティの口を割ったのか、それは知ってはならない。




「スベテ・・・」

 ドサっ。

 緑マイトは縄が足に絡んで、こけた。 氷の割れ方の派手さで全員肝を冷やして彼が“縛られていた”事を すっかり失念していたようである。一同、安堵の溜息を吐く。

「何だ脅かしやがって・・・」

「所詮マイトだよね。」

 エミリオの突っ込みに“いたわり”とか“手加減”と言うエッセンスは含まれない。 先日のバーンのように地をのた打ち回る緑マイトであるが、 バーンが力ずくで縛り上げた呪縛からはなかなか出る事は出来ない。

 余談であるが、先日バーンが縛られたときは玄真が力いっぱい縛り上げていた。 が、縛り方の指示は栞から出ていたのは秘密である。

 と、皆が油断したその瞬間。

「アチチチチチチっ!!  ・・痛っ!!」

 どんがらがっしゃーん!

 当のマイトが緑マイトに躓いて、こけた。 まるでバックスバニーの様な、ドナルドダックスの様な、 古き良きアメリカのアニメを彷彿させる見事なコケっぷりであった。

 彼は空中で一回転して、うつ伏せの状態で地に落ちる。 べたーんっと大きな音が(先のどんがら〜は擬音である)して、 彼の顔は緑マイトと向かい合わせになった。

「俺が・・・もう一人いるっ!?」

「・・・遅いぜ。」

 取り残されていた彼は、がばりと上半身だけ立ち上がり、今更のように新事実(?)を叫んだ。 緑マイトは、赤毛のマイトの存在を初めて知ったように驚いた表情を見せる。 今まで気が付かなかったのも無理はないだろう。

「♪目ーとー目ーでー通じ合うー」

 エミリオが無責任に歌いはじめた。少々古めであるが、 今の状況に合致していた。マイトがまじまじと自分自身を観察している。 観察されている側は冷ややかに、それで居て考えているようなそぶりで じっと視線を向けていたが、悟ったように呟いた。

「シカタナイ・・・オマエト・・・ドウカスル・・・」

 どうかしてるのはいつも、とエミリオが突っ込もうとした瞬間、息を呑んだ。 緑マイトは身体のばねを使って、思いっきり赤マイトに突進し、唇を奪ったのだ。

「うー!!・・・・もがもがもがっ!!!」

 身体が自由のはずのマイトであるが、緑のマイトは縛られていながらも 身体を絡み付かせて放さない。強引に、大胆にマイトに貪りつく。 眼を白黒さている赤マイト。

「凄い・・・舌まで入ってる。」

 見ただけで分かるオマセな栞が状況説明を入れる。

「いやぁっ!! いやっ!! キース様と唇を合わせて良いのは私だけなのよぉっ!!」

 いらぬ所に妄想が突き進んだソニアが悲鳴を上げる。 キースが羨ましそうにバーンを見ているのが気に入らなかったようだ。

「むっ! 向うが透けてきましたぞ!!」

「同化・・・そういう事だったのか。」

 緑のマイトの姿が次第に翠の光となって、マイトの身体に溶け込んでいく。 その輝きは次第に大きく、強くなる。

 バチバチバチッ!!

 唐突に彼は、黄金色に耀いた。

「何と! この凄まじいばかりの“気”は!!」

「二人分のパワー・・・と言う事になるのか?」

 彼の髪の毛は、まるで某戦闘民族の如く金色に変わっていた。 そこには、二人分のパワーを全開にして、深く深く落ち込んでいるマイトの姿が在った。

「・・・男と・・・キスした・・・」

 誰もが、彼にかける言葉を捜していた。とその瞬間。

 がらがらがら!!

「・・・遅かったか?」

「いろんな意味でね。」

 息を切らせて現れたガデスは、 今の状況を把握するのにかなりの時間を費やす事になった。


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