第五十六話〜劇的!?
マイトの謎、そして彼エミリオとの繋がりは・・・〜
「そういう事か・・・」苦い、それで居て笑いが納まらない、複雑に引きつる顔でガデスは腕組みをしている。
強力なオーラをまとったまま壁に背を向けているマイトを余所に、 キース達はガデスが戻ってきた事に少々ほっとしていた。 やはり、蛇の道は蛇。喩え影高野の絶大なる組織力を以ってしてもそれを上回る役者には、 却って一介の傭兵の方が都合がよろしい。
もちろん、日常にそうそう傭兵などと言う職業の人間はお目にかからない物であるが、 何といっても、敵は人間ですらないかも知れないのだ。魔法の国の長を名乗る、謎の中国人“W”。 その神秘のヴェールを開く鍵の一部をガデスは掴んでいた。
先まで少々情報交換を行っていた。 ガデスはじっと言葉に聞き入った後、アタマの整理をしていた風情であったが、 ふと大きな体を揺らして、喋る気になった事を回りにアピールする。
「昨日一日、無駄に過ごしたとは言わせないぞ。」
「ソイツはもう、有意義に過ごさせてもらったぜ。」
キースがささやかながら、そして期待を込めて冷やかしを入れるが、ガデスもまた、COOLにそれに答える。 大きく身体を揺らしつつ、やおら懐に手をやるとガデスは厚紙の様な物を取り出した。
「コイツを見てくれないか?」
ガデスが懐から取り出したのは、銀行の通帳であった。 器用に片手で開いて、その数値を寄ってきた皆に示す。
「うぉっ? 何ケタあるんだよ!?」
「三桁以上知らないもんね。」
「んなワケねーだろ!」
エミリオがさりげなく茶化す。 さすがのバーンもそこまでバカではない。 億の次から知らないだけだ。
「パティの通帳だよ。」
幸い、記載されている金額は億の単位に納まっているのでバーンでも 認識可能であるわけだが、今の議論はそんなものではない。
「ッ・・・何故マイヤースさんがこんなにお金を・・・」
影高野の長である彼女の小遣いすら、軽く凌駕するその金額は 栞に、パティに対する嫉妬心を呼び覚ますに足る物だった。
「ってか、なんでそんなもん」
まで言った所で赤エミリオはガデスに投げら捨てられた。首がちょっと嫌な方向に曲がったまま 飛んでいったので、せつな以外は彼が壁にぶつかる所は見なかった。 衝撃音に混ざったちょっと嫌な音は聞こえてしまったのだが。
「これは本当は奴の金だよ。」
何事も無かった、と強く言いたげなガデスは、マイトを顎で差した。
「奴が住んでいる、ってか間借りしてる空き地というか・・・」
あれ?これは初耳だったか? そういう表情でガデスは回りを見渡してみる。 が、初耳っぽくても皆が納得している様な風情なので、話を進める。
「その空き地の名義は、リチャード・ウォン、になっている。」
「完全に関係者と言うわけだな。」
キースが確認のために、先に結論づけるのにガデスは頷いて見せる。
「奴は何らかの理由 ― まあちょっと考えれば分かるんだが」
「エミリオ君のストッパー、だな。」
「多分な。」
今度は、完全肯定はしてやらない。まだ甘いな、と言うニュアンスを暗に含んでいる。 ガデスはセリフを進める。
「はっきり分かっているのは、ご丁寧に生活費まで付けてもらったはずなのに、 それがどう間違ったか奴は記憶を無くすは悪い女に引っかかるわで散々な目に逢って、 さらにあのご様子だ。」
「では、緑の奴はどう解説する?」
「それこそ、ちょっと考えれば分かるんじゃないか?」
にやり、ガデスがキースに謎をかける。 ガデスの話題の振り方に少々気を悪くした様な風であったが、 さすがはジェントルマン、キースは毅然と言ってのける。
「奴が、“魔法の国の長”が複数存在するならば、裏を返せば世界も一つでは無いという事だな。 奴の分だけ、世界には可能性がある。」
「・・・なら、エミリオさんは・・・」
栞がふと気がついて、キースを見上げる。キースは一度頷いて口を開く。
「これ以上は憶測だが、」
「エミリオは全ての“世界”を繋ぐキーって事になるな。」
先に言われてしまったキースは、ぐっとガデスを睨み付けた。 が、余裕の表情でにやついている。さらにガデスは論を進めようとする。
「奴等の目的が何かは知らないが・・・」
「何ワケの判らない事ばかり言ってるんだ!!」
バーンが痺れを切らした。ガデスが一人で喋っている間はまだ我慢出来たが、 キースとやり取りしだしてからは憤りが溜まっていったようだ。 彼は、こういう“やり取り”には苛立ちしか感じない。
「ウェンディーとエミリオを助けるっ、その方法だ。それ以外の事は知ってようがオレには関係無いぜ!」
バーンの叫びの後、水を打った様に場が一気に静まった。
玄玄ブラザース等はとうに元の目的を忘れていた所であった。 そうだ、何が起きているかを知る事ではない、彼らを助けてこそ影高野の意義である。
「助けられるかどうかは腕次第だがな・・・」
ガデスが言葉を発すると、バーンはまた何か理由を付けそうな気がして、 彼を睨み付けた。が、全く彼の殺気に臆する事無く、 バーンの意気込みに答えるように、真っ正面から彼を見据えて答える。 彼の熱意に、ガデスは却って満足そうだ。
「ここに来る事が出来たなら、行く事だって可能だって事さ。」
指差す先はマイト。
落ち込んでいる彼の力が、時空間にも干渉している事に、重力使いの彼は、当の昔に気がついていた。