第六話〜ぷっつん不思議少女パティ!
君は、拳の軌跡にきらめく宇宙を垣間見たか!?


 「きゃ〜可愛い〜っ!!」

 「あーん、次私が抱くのぉ!!」

 黄色い悲鳴がコダマする箱船高校一年A組教室。声を立てているのは隣りのB組の女子生徒の諸君である。もみくちゃにされ抱きかかえれて頬擦りされているのは我らがマジカル☆せつな。当然耳から顔から真っ赤っかである。いつもの減らず口も今はない。

 実際の所、先の、カルロ先生の悲劇を知るA組女子達は彼女達の列には加わっていない。男子生徒達も乙女たちの胸に抱かれしチビに、特別な感情は抱けなかった。血の気の多い高校生なら普段なら怒髪天につくだろう光景であるが彼女たちが抱えているのが爆弾にしか見えなかったからである。事情の知らない余所のクラスの人間だからこそせつなをかいぐる事が出来たのだった。
 心配そうな他の生徒達とは逆に、エミリオ独り暇そうに、無関心であった。マンガを取出す。

 「きゃーんっ、赤くなってるぅ!」

 「まじかわいい〜!ちゅっ♪」

 もみくちゃにされるせつな。ちょっと顔が溶けかかってる。

 「何をやってるお前たち!」

 至福の時を邪魔する声が廊下から響いた。一斉に振り向く彼女たちの前に赤毛の少年、マイトが仁王立ちになっていた。マイトは木刀をまっすぐ、せつなに向ける。幸せいっぱいなせつなも困惑の表情を見せる。

 「学外者は全て斬る!」

 一瞬の静寂

 「ひっどー!」

 「げーっ、サイテー!!」

 非難轟々、雨アラレ。女生徒達から容赦無い罵声が浴びせられ真っ青になるマイト。さすがのマイトも女の子には勝てない。

 「何の騒ぎ?」

 女子達がざわめく。青い髪をなびかせた愛らしい少女がそこにはいた。パトレシア=マイヤーズ、愛称パティ。声楽部に所属してその甘い声は多くの殿方を魅了し、現在一年女子で最も競争率の高い女の子である。
 しかし、その傍らで“音速の拳を持つ女”として武道系のクラブからラブコールが絶えない。

 彼女の姿を見て、B組の女子達がこそこそと逃げ始める。B組は彼女の支配下に置かれているという噂も、まんざら嘘ではないらしい。

 パティはじっとせつなを見つめた。せつなも構ってもらえるものだと見つめ返す。

 「・・・じゅるり」

 きゃん!せつなはビビッてエミリオの所まで戻った。こわごわとパティを伺っている。エミリオは面倒臭そうにパティを見やる。

 「おいでおいで、恐い事しないから、おいで。」

 パティはかがみ込んで、せつなと同じ視点になる。そして優しく、にこやかに彼を喚んだ。せつなもちょっと安心してゆっくりとパティに近寄る。
 パティは目の前に来た可愛い天使ににっこりと微笑む。

 「ねぇ、ボク、服脱いでみない?」

 「ぱてぃぃ!!!!」

 絶叫するマイト、訳の分かってないせつな。パティの瞳はカエルを射すくめる蛇のように妖しい。困惑するせつなに、ちょっと小首をかしげて、パティは言い直す。

 「なら、今度、おねーさんと一緒にお風呂入ろう。」

 「くくく、ざんねんだな!おれさまはぼいんのほうがすきなのだ!」

 「あ」

 ひゅうぅうぅうぅ・・・教室内に一陣の風が吹く。
教室内がやけに暗く重い。その中で、佇むパティの瞳だけが妖しく光る。

 「ヒィィィィ!」

 せつなは後ろに下がったはずなのにパティの方が疾い。一瞬の隙を拳が瞬く。

 ホーリーウィスパ!!!!

 DOOOOOGUUUUUUUUNNNN!!!!!!
せつなは奇麗な軌跡を描いて上昇し、重力に従い落下する。

 「ぐはっ!」

 ごちっ・・・彼の落下先にはマンガを読んでたエミリオの頭だった。無表情のエミリオと、ひっくり返って目が×の字になってるせつな。エミリオの顔は笑っていない。すくっと立ち上がる。せつなは気絶したまま床に落ちる。

 「・・・・・・・・・」

 「一年Aのエミリオォォォ。至急“奥の間”に来ぉぉい!」

 一触即発の事態に水を差す、如く野太い声がスピーカーから流れた。体育教師の六道玄真の声である。
 エミリオはかったるそうに、せつなを引っつかんで教室を発った。せつなは未だ気絶中である。


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