第七十話〜円卓会議
“W”と“W”の化かし合い?そしてバーン達が・・・〜


「第二段階は終了致しました。」

 吹き抜けの回廊の一階、ホテルのロビーを思わせるその空間で “W”達が会合を開いていた。椅子にも座らず立ったまま 神妙な表情で円を書くように寄り集まっている。その数、11名。

「次は第三段階に移行します。」

 暗がりの中、まるでマネキンの様に微動だにしない彼らの中で 誰が喋ったのかは分からない。“W”の声というのは間違いないのだが、 全ての“W”はその声を神託かなにかのように受け取っている。

「待ちに待った最終段階も目前です。」

 にやり、誰かが笑ったような気がする。いや全員が微笑んだのかもしれない。 微笑まなかったのかもしれない。とかく彼らの表情は掴みにくい。 空ろに響く彼の声にも抑揚というものは無かった。

 神に近い者には“人格”は失われるのだろうか。 彼らの様子をじっと見つめる瞳の主はそんなことを思っていた。 “W”達の円から離れたところから、彼らの様子を伺う者。

 そして推測する。第一段階とはエミリオとせつなを遭わせた事で 彼の眠っていた力を顕在化させたこと。 第二段階とはエミリオをこの世界に呼び出し、その身柄を確保したこと。 全ては彼らの手の内の中だった。せつなを最初に見たときから ピンときていた。せつなは、彼と同じ匂いがした。

「おや、どちらにおいででしたか?」

 第三段階に思いを馳せているとき、円陣を組んでいた“W”の一人が視線に感づいた。 全員が申し合わせたかのように一斉に、その方向をじろりと向いた。

「ネズミが迷い込んでいたので、相手をしておりました。」

 振り向いた先には、これもまた“W”がいた。 先にガデスと話していた、“W”らしからぬ“W”。 彼は形ばかりの言い訳をした。彼らの間では謎めいて曖昧な言い回しの方が 真実味がある。彼らの歪んだ思考回路がそれを許している。

「『大事の前の小事』ですよ。」

 一人の“W”が諭す。新たな“W”を加えて12名。 一人はマイトに屠られたわけであるが、残った彼らはあまり気にはしていない。 なに、一人脱落しただけである。

 そう、マイトが歯向かっていることも彼らは了解済みなのだ。 マイトの記憶を操作したものが居るようだが、まだまだ彼には役に立ってもらわなければならない。 カルロやガデスを招き寄せたのも何かの役に立つからだと判断したからである。 もしも彼らが予期せぬ行動に出たところで案ずることは無い。 恐らく、彼らが見つけられるのは絶望に違いないと高を括っているのだ。

「さて、そろそろ第三段階に入りましょうか。」

 “W”の一人が、そう今度は誰であるか判別することが出来たが、そう言った。 まぁ、同じ顔が並んでいるため誰が誰だか判別したところであまり得は無いのだが。

「ついでに、お客様にはおもてなしをしなければなりません。 『虎穴に入らずんば虎児を得ず』という格言もありますからねぇ。」

 じろり、数名の“W”達が数名の“W”に目配せする。 そうするとシュンと彼らは消えてしまった。消えたのは5人 恐らく、第三段階なるものの準備に取り掛かったのであろう。 全く同じに見えるものの彼らには絶対的なヒエラルキーが存在するらしい。

「では、我らも持ち場に戻りましょうか。」

 一通りの意思疎通は行われたらしい。いや、どうみてもそれは 疎通というレベルのものではなかった。集まって確認をして別れた。 それだけの事だった。残った7名はおのおの、自分の行っている“仕事”に 戻ろうとする。しかし、一人が声をかけた。

「貴方はソコに残ってください。」

 ピクリ、“W”の一人が反応した。他の、残りの6名の白い目が彼の背中に注がれている。

「召集に反応しない理由を教えていただかなくてはね。」

 “召集”は絶対のはず。その声に抗うことも“W”であれば不可能であるのだ。 それなのに・・・と、尋問されている側の“W”はにこりと微笑んだ。 “W”らしからぬ表情だ。

「・・・やっぱり、ばれていたみたいね。」

 女の声でその“W”は答えた。マイトの造反を仕組んだ者、 “W”の仕組んだ糸を解そうと画策した者がここに、また一人存在した。

 場面変わって外。キースとバーンが長いマラソンのゴールに辿り着こうとした 先に、3人、“W”が並んで待っていた。ウェンディーの姿が見えないが、 もしかしたら先に建物の中に入ったのかも知れない。

 二人の姿を認めると三人同時に目を見開いた。その眼光はこの二人でなければ 歩みを止めるものだっただろう。キースもバーンも、両者とも怖気つく事はなかった。 却って闘志を燃やしたぐらいである。

「来やがったぜ!」

 バーンは走る速度を緩めぬままに臨戦体制に入る。 戦う意思がごおと音を立てて炎の形に収束する。バーンは早くもやる気満々だ。

「倒さねば通して貰えぬようだな。」

 外見上はクールなキースであるが、その服にはバーンの力と呼応するように、 次第に霜が降り始めていた。彼の力は静かであるが、その分確実な強さを持っていた。

 “W”達はこの二人を甘く見ていた。 最強コンビの行く手を阻むとどうなるか、直に思い知ることになった。


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