第七十一話〜騒乱!
“W”達との戦いの幕がとうとう開けられて・・・〜
「行くぜ!」バーンが放った火炎は金色の大地を熔かしつつ“W”達へ向かって突き進む。 今まで溜まりに溜まったむしゃくしゃが具現化したかのごとく、派手に巨大な火弾が飛んだ。 さすがに“W”は直線的に飛んでくる攻撃には当たらない。 三人ひょいと散って紅蓮の炎を避けようとする。
「おおっ!?」
“W”の一人が、炎を割って現れた巨大なツララに突き刺さった。 キースが“W”の先を読んで発射したものだ。しかし、その瞬間、 吹き飛んだはずの“W”がキースの後ろに現れる。殺ったとばかりに余裕の笑みを浮かべる“W”!
「お見通しだぜ、このヤロ!」
だが、バーンが“W”に攻撃の隙を与えない。 彼がキースに攻撃を始める前に、バーンの拳が唸りを上げる。 一発ニ発、バーンは手を緩めない!彼の連撃に“W”は反撃する余地が無かった。
「・・・凍れ!」
助けようと突っ込んできた“W”を、キースは一瞬にして氷付けにする。 そして、残りもう一人の“W”の方を向いた。 睨まれて“W”はピクリと動きを止める。
手を出せない・・・“W”は思った。 睨み合っているうちに、凍った“W”が、バーンの拳で吹き飛んだ“W”と衝突した。 完全なる連携プレー。二人の息が完全に合っている。しかし、“W”には勝算がある。 まだ、姿を見せていないものも居るのだ。
ずしゃっ! キースの頭上から光の剣が降りてくる。 キースは氷の槍で相殺しようと上を向いた。チャンスだ! 突然現れた“W”はキースへ攻撃を・・・
「お見通しだっーの!」
先ほどとほぼ同じように、バーンが横槍を入れる。 てやてやてやっ、へやっ!!バーンが気合を入れた拳で その間、また取って掛かろうとする“W”をキースが冷静に対処している。
「なっ、何故です! この私達の攻撃をこうも簡単に読んでしまうなんて!」
「へっ、このオレに」
バーンが何か言おうとするのを、キースが押し留めた。そして、声高らかに宣言する。
「二人は愛で繋がっているからだ・・・」
折角、バーンが凍りついたチャンスだというのに、“W”たちは攻撃しそびれた。 彼らもまた、凍り付いてしまったからだった。
その頃、建物の中でも一悶着起きていた。 厳しい瞳、もちろんそれは瞳が見えるほど見開かれては無いのであるが、 “W”達はきつい視線を発していた。見つめられている、離反した“W”は まるでその視線に溶けていくかのように、みるみるその形を変えつつあった。「嬉しいわ、母さんの仇が討てるのだもん。」
そこに現れた姿は、誰であろう、パティであった。 髪の毛を“音”で振動させる事で色彩や触感を変え “W”の姿に擬態していたのだ。恐るべき才覚というべきか。 パティは“W”の怪しい笑みに囲まれたままでも平然と、悠然と構えている。
「覚えているかしら? あなた達の計画とやらで実験台にされた私のお母さんのこと?」
「まさか、彼女に娘が居たとは・・・敵討ちとは殊勝なことですね。」
「中東の仕事で、ガスにやられただなんて・・・下手な嘘言っても無駄だったのよ。」
裏の世界のエージェント“旅芸人”。パティの母は結社でも凄腕として恐れられていた。 しかし、真に恐ろしかったのはその能力、“歌”であった。 相手の戦意を喪失させ、平和の心を呼び覚ます彼女の歌声は戦場では天使ではなく悪魔のささやきに等しい。 いかなる軍隊、特殊部隊でも沈黙させてしまえるのだ。
その能力を、もっと解析しようとした人物が居た。 超能力の研究をしていると触れ込んだのは“W”その人である。 “旅芸人”のメンバーはそれを拒みつづけた。 能力を解析されてしまって損なのは、すでにその能力を持つモノである。 賢明だったパティの母は、自分の娘を産んだときにすぐに余所に預けておいた。
そして、母は消えた。何処とも無く。 パティは世界各地を転々としながら母の仇を追っていたのだ。 仇討ちは“旅芸人”たちの掟である。しかしそれ以上に、 彼女が先手を打って準備をすすめなければ彼女自身が巻き込まれる恐れがあったからだ。
“W”らはパティと間合いを詰めた。余裕、7対1という絶対的有利。 勝利は約束されているといっても等しい。だが、彼らからは殺気は感じられなかった。 自ら手を下す意思が無いかのように、まじまじとパティを見下していた。
「我らに歯向かった結果どうなったか、母親の所に報告されると良いですね。」
「もっとも悲劇的な死をあなたには差し上げましょう。」
「現れなさい、マイト!!」
“W”の一人が空に向かって手を振った。その辺りの景色が丸くぼやけて行く。 空間に歪みが生じているのだ。そしてそれは、次第に人の姿へと変化した。
「うわっ、変なところ出た!?」
ぼと、先に落ちた赤エミがこの場所の感想を的確にまとめた。 重く黒い雰囲気すら彼の台詞に破壊される。マイトが続いて現れた。 彼の黄金色に変わった髪をみて、“W”達は少々動揺する。
「大丈夫かい? 母さん!」
「かあさん〜??」
「「「「「「「どうしてソレを!」」」」」」」
赤エミの軽い突っ込みは、“W”の7人合唱に打ち消された。 パティは駆け寄ってきたマイトをその胸に迎え入れ、優しく抱擁している。
「君ら、やばいぞ。」
パティとマイトのダブル裏拳で、赤エミは沈黙した。
「“旅芸人”を甘く見たわね。母さんの記憶は全て私に受け継がれているの。」
「ならば・・・全てを知っている。というわけですか?」
「母さんにしたことは、全てね。この子の事もおしゃべりな貴方が勝手に喋ってくれたわ。 遠い未来に、私を実験台にして作ったのがこの子だって。」
パティは言葉と裏腹に満足そうにマイトの髪を撫でていた。 一見母性溢れる行為であるが、そこには我が子を守ろうとする母猫のような 毅然とした威圧感を含んでいた。彼女は話を進める。
「この子をどこに送り込むかももう知っていたの。だから先回りして記憶を消させてもらったわ。 そして、私は待ったの。貴方達が行動を始めるのを。ふふふ、人を甘く見ちゃダメよ。」
その前に君、人間辞めてる。赤エミがこっそり突っ込んだが聞こえてない。
「・・・この子は真実を知っているわ。だから貴方達の言うなりには、ならない。」
母の胸からマイトはすくりと立ち上がる。彼は冷たい視線で“W”を見やった。 数の上では“W”達の優位は変わっていない。 しかし、今のマイトが放つ殺気は怪しげな“W”達の気配すら上回っていた。
「仕方ありません。出来る限り修正を行うのが我らの務めです。」
「貴方達には消えていただきます。」
“W”達は死を覚悟したかのように、蒼白な表情で三人を見つめていた。 マイトは無表情のまま、ただ相手と戦うことだけを決意していた。 パティは、そっとマイトに寄り添う。
「まて、ボクもかっ?」
“W”たちが突っ込んでくる、言い訳無用のこの状態に赤エミはただただ焦るだけであった。