第七十三話〜誤解と衝突!?
炎と氷の二大決戦と、彼らを待ち受けた白い影の正体!〜


「せつなあああ!」

 喉から血を吐くような雄たけびを上げ、バーンは駆け出そうとした。 彼の見やる先では、倒れたせつなの元にいち早く辿り着いた栞が、 自らの膝に彼の頭を乗せ、その幼い手首から、じっと脈を取っている。 そして、目蓋を開いて眼光を確かめた。

 正面を向いた後、沈黙。バーンの視線に気が付いた彼女は、悲しげに首を振った。

「・・・マジかよ・・・」

 “W”はキースの攻撃で、その動きを止めていた。死体は無い。 手ごたえはあったが、あるはずの亡骸は煙の様に失せていた。 もしかすると逃げられたのかもしれない。キースは若干の不安を隠せないまま、 怒りと悲しみとを押さえきれないバーンの背中をただ見つめていた。

「・・・」

 キースはバーンの肩に、無言で手を乗せる。 バーンはそれを振りほどくと、異様な雰囲気を発し続けている 巨大な建物に向かってずんずんと進んだ。

 ギギギ・・・と巨大な門が開く。仰々しく飾り付けられたそれは ゆっくりと観察すればなかなかの見ものであったが、 バーンとキースの二人にはそんなものは目には入らない。 目指すはエミリオとウェンディー。

 正面玄関の真正面にある、大ホールには人影は無かった。 まさかココでパティ達が一戦やらかしたとは彼らの知る由も無い。 倒していない“W”もまだ居るはずだ。そしてガデスも・・・ 拍子抜けする間もなく彼らは上へと上がる階段を探す。 ボスは最上階と言うのが基本であるのと、“W”の今までの行動パタンから言って、 下には居まいと推測したのだ。いうまでも無く、その推測は正しい。

「っ!?」

「どうした? キース?」

「・・・いや、何でもない。」

 キースは急にうずくまった。いや、何かが圧し掛かってきたと言っていいかもしれない。 心配するバーンに応えながら、彼の心臓はドキドキと高鳴っていた。 ここまで来て、彼の心には不安が去来する。 “W”達の残した残留思念、いわば呪いがホールには残されていたのだ。 それに触発されて、キースの心に、どす黒いものが湧き上がった。

「なぁ、バーン。ひとつ聞いていいか。」

「あん? 何だよ?」

「本当にあの・・・ウェンディーを助けに行くのか?」

「ああ? 当ったり前だろ! 今更何言ってんだキース?」

 唐突な質問に、バーンは目を丸くした。 怖気ついたのか? コイツが?? 滅多に感情を顕にしないキースである、 彼の内心がどうであったのか、バーンは今まで気にしてなかったことに改めて気がついた。

「・・・」

 そういえば、コイツには関係ないことだったよな。 沈黙するキースに向かって、何を言ってよいやら分からなくなったバーン。 少し戸惑っていると、キースはやおら頭を上げた。

「やはり、炎と氷、相容れないというわけか。」

 何を言ってるんだ? バーンは思わずまばたいた。そして、直視。 強力な力が、キースから感じられた。マジで行かねばやばい。そう思えるほどの殺気。

「君を手に入れることが出来ぬなら・・・ここで合い果てよう! 一緒に死んでくれ、バーン!!」

 冗談だろ? バーンがそういう暇も無く、キースの飛び蹴りが彼を襲う。 慌てて防御するバーン。しかし、間髪居れず自らの体が氷付けにされたことを悟る。 蹴り飛ばされてホールの壁にぶち当たった。

「キースっ、目を覚ませ!?」

「ボクは正気だ!」

 続いて、氷の龍がバーンを襲う。間一髪、バーンはダッシュでそれを避けた。ガズッ! まるでバズーカ砲でも打ち込まれたように、横壁は脆くも崩れ去る。 その破壊力よりも、バーンは、キースの体が中空に浮かび上がり、自分を見下ろしていることに驚いた。

「っ! マジでいかなきゃヤバイぜ!」

 手加減すると自分がやられる。頭よりも体の方が先に反応するバーンの本能がそう告げていた。 本気のキースとは今まで幾度かしか拳を交わしたことは無いし、自分自身、本気で拳を振るうことは滅多に無い。 ただ、バーンには守るものがある。やらねばならないことがある。

 キースはその力を一本の槍へと具現化する。高濃度に圧縮された冷気が その犠牲者を求めるように不気味にクルリと旋回する。 赤エミをヤった技だ!バーンは悟った。だが、落ち着けば避けられる!

「危ないっ!!」

 避けようとした刹那、バーンは唐突に横から突き飛ばされた。 強力なサイキックパワーで弾き飛ばされたと言っていいだろう。 槍はバーンではなく、その影を貫いた。青い髪だった。

「ソニア!!」

 キースは攻撃してしまった相手を一瞬で認識した。 ソニアの体がふわりと、力なく空を彷徨った。 キースは彼女が地に落ちる前に、抱きかかえる事が出来た。 (ちなみにバーンは頭から地面に落下した。) しかし、ソニアの顔には、既に諦めの色が見えていた。 キースは彼女を抱きしめていた。

「最後に・・・キース様の胸に・・・私は幸せです・・・」

「ソニア、もう良い! もう喋るな!」

「・・・あ・・・愛する・・・人に・・・愛されないなら・・・愛する・・・人に・・・殺められる方が・・・私は・・・」

 漸くバーンは立ち上がった。そして沈黙。何が起きたのか、誰が自分を突き飛ばしたのか彼も理解することが出来た。 ソニア、こんなところに居たのか。先に行った物かと思っていたが、実はこっそりキースをつけていたのだろう。 バーンは少し、キースの背中を眺めていたが、意を決したように彼に声をかける。

「キース!」

「・・・バーン。」

「行くっきゃねーぜ!」

 バーンが指差す方向へ、キースは駆け出した。 一歩遅れて、バーンも彼の後を追う。目指すは最上階、全ての元凶である“W”を倒さねば 犠牲者は増える一方であることをキースは紛うことなく悟ることが出来た。

「ああ、明かりが・・・まぶしい・・・綺麗・・・一面のお花畑で・・・私は・・・」

 一人残されたソニアは、今度は天国の様子をつぶさに描写し始めた。 目の前で銃を突きつけられて撃たれたとする。 それが空砲でも、痛みを感じたりショック死するケースというのは往々にしてある。 ソニアは致命傷を受けていなかった。彼女の妄想はいつもの事である。 キースはまだ気がついてなかったが、彼女の受けた傷よりも何度も壁にぶつかったバーンの方が 実はダメージが大きかったのである。

 バーンはあえて黙っていた。 そうでもしないとまたキースがおかしな事を言い出すのではと、不安で仕方なかったのである。


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