第七十七話〜最終決戦!?
最後の手段に打って出たウォンとの攻防の行方!?〜


「フフフフフフフ・・・・・」

 どこからともなく聞こえてくるウォンの笑い声、そして鳴動する建物。 揺れは次第に大きくなり、軋んだ天上や壁から埃や塵が零れ落ちていく。

「マっ、マジでヤバイぜ!」

 バーンが叫んだときには、全員階段を駆け下りていた。レンガか石か、 壁一面のブロックが揺れに耐え切れずに大きな音を立てて一つ、また一つと 爆発し始めたのだ。もちろん、天上からも小石が降り注ぐ。

「あ、兄さん!?」

 階段の途中、進退窮まり戸惑っていたレジーナが座り込んでいる。 大急ぎのご一行に彼女は目を丸くする。

「来るんだ、レジーナ!」

 兄の叫びと、全員の切羽詰った雰囲気に圧されてレジーナもわけもわからず走る。 長い長い階段をつまずきながらも何とか下り終え、 やっとのことで大広間を通り抜けて扉を力で叩き破る。

 爆音、滝の様に砕け降り注ぐ瓦礫の数々。 贅を凝らした建物はその主の手によって破壊された。 いや、彼の重みが押し潰したのだ。

「・・・マジかよ」

 振り向いたバーンがあきれた声を出した。 巨大化。そう、太古の昔より伝えられる悪の首領の最後の手段。 原理はどうなっているのか全く分からないが、今は事実だけでも十分である。 雲をつくような巨大なウォンが、建物の跡地にそびえたっている。

 ウォンの細い目が見下ろす中、エミリオと赤エミがガンのクレ合い中だった。 どうやら両者、さまざまな理由により仲たがい中の様だ。

「もう! 仲良くしなさい!!」

 正気に戻ったウェンディーが二人を一喝する。 理由の最たる原因から叱られて、二人は大人しくなる。 まぁ、この一大事にやることではない。

「マトがでかくなっただけじゃねーのか?」

 ガデスは先手を打った。巨大な岩石を召喚し、ウォンに打ち込む。 だが、彼は避けようともしない。彼を打ち砕いたはずの岩は脆くも崩れ去った。 巨大化した以上は生半可な攻撃は通用しない。

「落ちろォ!」

 レジーナが気合一閃、火の玉を食らわせた。 その瞬間、一同どよめく。彼女も能力者であることを皆すっかり忘れていたらしい。 ウォンは思わずよろめく。彼も忘れていたらしい。だが、少しよろめいただけだ。 巨大化すると無口に成るのもお約束のようだ。口元を歪ませると、 ごおと手を伸ばしてキングコングよろしく、レジーナを鷲掴みにする。

「よくもレジーナを!」

 カルロの怒りは荒れゆく水のさざなみとなって顕在する。 水は吸血鬼を絶命させるが如く、くさびとして打ち出された。 狙うはもちろんウォンの心臓!だが、ウォンは寸での所で避ける。

 だが、端から飛んできた何者か、いや蛇だ。それがレジーナを掴んでいる腕に喰らいついた。 ウォンは痛みで彼女を落としてしまう。

「デケェなァ。・・・これだけデカイと血でプール出来るんじゃねぇか?」

 ブラドだ、しかも悪。アイテムと化した鈴木正人(仮)がちょっと時空を切り裂いてブラドを助けてきたのである。 というか、ブラドに八つ当たりされて少々流血気味だった。ちなみに彼は現在、

「鈴木正人(仮)さん! あの・・・ちょっとコチラへ来て頂けませんか?」

 と、栞に呼びつけられて、半死の刹那から突然技をかけられた。 ずぎゅずぎゅと体力が奪い取られてゆく。逆にどんどん元気になっていく刹那。 そして、鈴木正人(仮)はぶっ倒れた。

「フッ、オレサマの力となったのだ! ありがたく思え!」

 ネガティブドレイン、刹那の体力吸収技である。 用済みと成った鈴木正人(仮)は使えなくなったアイテム同様、うち捨てられていた。 死して屍拾うもの無し。彼はそれを肌で感じている。

 巨大な刀が天から降ってきた。一見、剣とは見えない。 山か何かが降りてきたのようだ。だが、パティが作り出した音の壁が果敢にもそれを弾き飛ばす。

 マイトはその素早さで、ウォンを翻弄している。 パワーアップした彼の攻撃力はウォンにとっても侮れない。 しかし、今一つ決め手が無い。マイトもなかなか上手く攻めに入れなかった。 それはガデスやブラドも同じだった。ちなみにカルロとレジーナは、 既に二人の世界に入ってしまっている。

「ここは一つ合わせ技だな。」

「おう!」

 キースのアイコンタクトで、バーンは彼の意図を理解する。 巨大化した奴にはやっぱり大技だ。二人の力が一つになれば その破壊力は何倍にも増幅されるはずだ。と、とりあえずバーンは キースの意図を解釈した。

 キースは凍気を龍のイメージへと転換する、その力は卵の形に封じ込められる。 バーンの熱気が燃え上がり、不死鳥の形へと変化する。彼らが顕在化できる一番強力な姿。 むろんそれらは、最大の攻撃力を孕んでいる。

「さらばだ!」

「どうだぁあああっ!」

 勢い良く、卵から氷の竜が誕生する。エネルギーの爆発が竜に力を与える。 バーンの不死鳥も生まれたての力を迸らせながら大きく羽ばたいて、 巨大なウォンに突進していった。

 二つの力はじりじりと接近する。そして・・・あえなく相殺してしまった。

「所詮炎と氷、合い交わらぬか。」

「だったらやらすんじゃねぇ!」

 渾身の力で突っ込みを入れるバーン。へぶしっ、と吹き飛ぶキース。 というか少しは考えろ、とエミリオは思った。

 しかし、それは以外にもめくらましと成った。 先ほどからウォンの視界外にいた刹那はずっとウォンに狙いをつけていたのだ。 彼は膨れ上がった闇の塊をじっと育て上げていた。

「終わりだ!」

 勢い良く、それは飛び出した。最大に高めれられた刹那の一撃は、 ウォンにちょうどボディブローの様に綺麗に決まった。 増大したウォンですら、刹那が溜めに溜めた闇の魔力はさすがに効いたらしい。 よろよろとニ三歩、後ずさりする。だが、まだ決定力は無かったようだ。 体勢を整えて、立ち直す。

「やりますねぇ・・・」

 しかし、彼の余裕が仇になった。眼鏡を直す一瞬、彼は彼らの動きを見落とした。

「「光よ!」」

 ダブルエミリオの声がハモる、というか同じ声だからステレオなのであるが、 まるで不浄なる罪悪を焼き尽くすかのごとく、裁きの光が輝いた。 倍化された煌きは刹那の攻撃の跡を過たず打ち抜く。

 ウォンは圧倒的な光のシャワーを浴びる。彼の姿はその中に溶けていく。 いや、実際削り取られているのだ。光の粒子に、彼は埋もれ、そして最も微小なる存在へと 分解されて行った。

「この私がぁーーーーーーーー!」

 大音量、割れんばかりの絶叫が何も無い世界に吸い込まれていった。 そして、ウォン自信もまるで悪夢が覚めていくようにその姿は薄れ、 何事も無かったように、消えうせてしまった。


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