第七十八話〜帰還!?
最後の壁が立ちふさがったとき刹那の取った行動は・・・〜


「貴様ら! 折角このオレサマがトドメをキメたのに・・・余計な真似を!」

 とりあえず刹那が吠える。だが、間髪をおかずにダブルエミリオから足蹴にされる。

「「うっせー!」」

 等身が変っても、行動パタンは変らない刹那。いや、変らせてもらえないのかもしれない。 もちろん、赤エミではなく、オリジナルの方が深々と彼の顔を踏みつけている。ここらのイニシアチブはしっかり取っているようだ。

 崩れ去り、エミリオ達の光のに圧倒された建物の瓦礫の中、一同、思い思いに感慨に耽っていた。悪の根源だったウォンも倒した。 ウェンディーもエミリオも(一人増えたが)助け出した。ガデスは腕を組んで、 満足げに彼らの姿を見ている。ただ一人、役立たずになってしまった鈴木正人(仮)を除いて。

「すまなかったね、レジーナ。」

「ううん、面白かったよ、兄さん。」

 既に二人の世界に入っている禁断兄妹、と言うか何しに来た状態のカルロとレジーナ。 実はエミリオが刹那に構っている間に、バーンとウェンディーは同じぐらいラブラブだったりする。

「さってと、これでやるべきことはやったかな?」

「どうやって帰るかが問題だがな。」

 バーンが軽く言い放つのにキースは重く突っ込みを入れる。 そういえば、“W”は全て倒してしまった。どうやって帰る? その問いに場の空気が重くなる。

「何を悠長なことを言っている! 急がねばこの空間自体が持たないぞ!」

 背中を向けていたマイトがクルリと向きながら喝を入れる。一同は彼の顔をじっと見つめた。 そして彼の髪の毛へを凝視する。金色だったはずの彼の髪の毛は、少しずつの変化では有るが、 次第に元の紅色へと戻りつつあった。

「力が・・・抜けてるってことか?」

 ガデスは念を集中させる。確かに先ほどよりも威力が薄れてきているようだ。 良く見ると、エミリオの翼すら薄くなり始めている。 元々この空間自体、ウォンが作り出したもの。 ウォンの存在が消滅した為、彼が干渉してきたさまざまなものが失われつつあるのだ。

 ガデスは鈴木正人(仮)を見る。彼の表情は蒼白だ。 斬っても、この世界の内部までしか干渉できないらしい。 元の時空へ戻れるほどの威力が残っていないのだ。

 今度はチラリと栞を見る。彼女は真剣な顔で色々考えているようだったが、 カルロと、そしてブラドへと目を移した後、意を決したように皆のほうへ向き直る。

「私が導けます! そしてガデスさんとブラドさんの力を合わせればまだ間に合うはずです!」

「なるほど、行けそうですね。」

 実は行きばかり考えて、帰りの手段は考えて無かったカルロが頷く。 自らが乗ってきた船では行きだけでもうボロボロになってしまって帰れないのだ。 いや、まっどさいえんちすとと言うのは須らく行き当たりばったりなのだ。

 そして、すっかり役立たずの鈴木正人(仮)は膝を抱えてうずくまっている。 彼は、ホンの一瞬であった華麗なる活躍を、何度も思い返しては悦に浸ってる。

「・・・僕が・・・ですか?」

 善に戻っていたブラドは栞の言葉に戸惑いを感じていた。 善のブラドはいつも弱気である。それ以前に、彼はどうして今ここに自分がいるかすら把握してないように見える。 どうしてこの面子が集まっているのか、それすら把握できてない。 だが、ガデスは彼の肩に手を置いて、じっと瞳を見つめる。

「自分の力を振り絞れ。そうしなきゃみんなお陀仏だぞ。」

 ガデスの言葉には説得力がある。いや、確かに有るのだが どう“力”を“振り絞る”のかも、今のブラドには見当もつかなかった。 そんなブラドに、ガデスは今までの出来事を簡潔に、それでいて丁寧に諭していく。 パティは冷ややかに彼らのやり取りを見ていた。口八丁手八丁、それも傭兵の基礎技術である。

 ブラドは迷っていた。 ガデスが言うには、自分には知られざる一面が存在するらしいこと。 ただ、自分がやらねば今居る面子は全滅してしまうこと。 雲を掴むかのような話であったが、いま時分がこの場所に居るという事実はゆるがせない。 一同の視線がブラドに集中していた。

「やります!」

「ハッハッハ! オレサマは天然だから貴様らの様に力を失ったりはしないぞ!」

 ブラドの答えを待っていたかのように、ポーズを決めて刹那が高らかに宣言する刹那。 いろんな意味で天然であるが、それも込みで無視されつつも、 そのビシッと決まったポーズは揺るがない。さすがは刹那。

「そういやぁ、俺たちは行きは・・・」

「急ぎましょう。」

 バーンが突っ込むのを栞は言葉を切ることで誤魔化した。 玄玄ブラザースを介してコチラにきた彼らはもう、同じルートでは帰れない。 赤エミがそれを破壊してしまったからだ。彼はそっぽを向いている。

 ガデスとブラド、彼らが力を込めると、彼らをほぼ囲む程度に、黒い場が発生した。 うずくまる鈴木正人(仮)がはみ出していたので、マイトがずっと引っ張りいれる。 栞は気を集中させる。イメージする先は自らの世界、箱舟高校。 エミリオ二人と、ウェンディー、カルロとレジーナと・・・

「・・・そういえば、ソニアはどこに行った?」

「キース様ぁっ!」

 キースの疑問に呼応するかのように、向こう側の瓦礫からソニアの呼び声が聞こえた。 しかし、その影は一つではない。彼女に寄り添う、そして見たくもない人物がそこにはいた。

「あ、貴様!」

「フフフフフフフ・・・小物ですが仕方ありませんね。この人を道連れにさせて頂きます。」

 リチャード・ウォン、彼の洒落た衣服は既にボロボロ、眼鏡もどこかに落としてしまっているようだ。 しぶとすぎるぞ、と、エミリオは突っ込む。ガデスは舌打ちをする。そう、世界が完全に崩壊してなかったのはまだ、 ウォンが完全に滅んでは無かったからだ。逆を言うと、自分らが脱出するまでは彼には生きてもらわないと不味い。

「ソニア!」

 キースが叫ぶ。もちろん、バーンも飛び出そうとしている。 ソニアといえば、この危機的状況において“邪悪な魔法使いに囚われたお姫様”的な妄想にどっぷりと浸っている。

「待て! もう間に合わない!」

 カルロとレジーナが彼らを圧し留める。彼らも一応教育者だ。生徒に対しては責任がある。 ウェンディーもバーンにしがみ付いた。しかしなんと言う運命の悪戯。もし、彼女がソニアを自分の姉であると知っていたら、 真っ先に自分が飛び込んでいっただろう。

「・・・短い間だったが、世話になったな。」

「お前っ?」

 赤エミは自らの本体に、寂しそうに語りかけた。 ソニアを助ける、そんな虫のいいことは言わない。 ただ、ウォンにトドメをささねば、彼は必ず復讐に現れるだろう。 それなら、彼から生まれ出た自分が・・・

「お前が死んだら・・・ボクも死んじまうんじゃないか!?」

「そうだった・・・」

 赤エミの頬をエミリオの拳が抉ったとき、一つの影が飛び込んでいった。

「ハッハッハ! ここはオレサマに任せるのだ!」

「刹那!?」

 刹那は闇のダガ―を放つ。それはウォンの腕に突き刺さった。 このパタン、既に三度目となるウォンであるが、これまで同様、人質を放してしまう。 実は痛がりかもしれない。

「キース様ァっ!」

 ウォンが力を抜く、その一瞬を待ち構えていたかのように、凄まじいダッシュでソニアが彼の胸に飛び込んできた。

「あああ、ソニアは、ソニアは、この一瞬をどんなにか待ちわびたことでしょう・・・」

 キースはその一撃で、すっかり気を失っている。刹那はウォンにしがみ付いた。 手負いのウォンは最後の力を振り絞り、刹那を振り払う。だが、行かせない。 何時の間にか放たれた黒い雲が、ウォンの力を吸い続ける。

「最後の最後で、私の邪魔をするつもりですか!」

「早くしろ、コイツを殺ってしまえば、貴様らもオシマイだぞ!」

「刹那っ!」

「かまうな! 最後に決めるのは、このオレサマだ!」

 ウォンに掴みかかる刹那の姿が、いや世界の全てが薄らいでいった。 消えかかる世界から、彼らは離脱し始めていた。誰も、何も言わない。 ただ、刹那の声だけが響いていた。

 出口、いや唐突に現れた世界の切れ目、出てきた先は箱舟高校開かずの間、跡地。

「おお、栞様!」

「玄信! 玄真!」

 彼らは待っていた。二人の顔をみて、安心してしまった栞はぐったりと倒れこんだ。 想像を絶する集中を今までやってきていたのだ。ガデスも、そしてブラドも少し息が荒い。 バーンとキースも倒れこんだ。ボケと突っ込みで誤魔化してはいたが、 彼らへのダメージもかなり溜まっていた。さすがにこの場所について突っ込む余裕もない。

 レジーナは保険の先生の使命を思い出したが如く、てきぱきと彼らに応急処置を カルロは怪しげな薬を、自らの服からいろいろ取り出していた。 マイトとパティ、ソニアと、まだ落ち込んでいる鈴木正人(仮)。 そしてウェンディーと、エミリオ二人・・・。

「エミリオ!」

 突然、ウェンディーが悲鳴をあげた。エミリオは不思議そうに彼女の顔を見ようとした。 彼女が見たのはウォンの手・・・それがエミリオの手を今まさに掴もうとしていた!

 だが、その瞬間。大きな音と共に、一条の弾丸がエミリオの頬を掠めた。 ウォンの手は血流と共に、再び次元の彼方へと消え去っていく。

「ターゲット デリーテッド」

 ゲイツは、硝煙の立ちやまぬ拳銃を下す。万一のことを考えて現場に張っていたのだった。 その時、エミリオの羽は完全に消滅した。


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