147. カンザス州教委で進化論論争が再燃している


杉田荘治


はじめに
   アメリカ・カンザス州の公立学校で進化論だけではなく、創造説も真理として教えるべきで
   あるとする論争が再び起きてきている。
   このことについてKansas City Star紙などが報じているが、その要点を述べ、その後それに
   関連した巻末記載の資料などから、やや難しい問題であるが考察しよう。

T Kansas City Star (9/28/2004)号から
   州教委は学習指導のガイドラインを改正するかもしれない。
   今、カンザス州では公立学校で、進化論の学習を薄め創造論を強化しようとする動きが再び
   強くなってきている。 この問題についての州教育委員会は1月まで開かれないが、しかし
   理科教育での進化論の取り扱いについて論争は既に始められている。

   それは1999年に州教委は進化論を軽視し、神による創造論に拠ってカリキュラムや州の
   学力標準テストを作成したので、世界中の人から嘲り笑われるような状態になった。 その
   後、改正して今日に至っているが、今回さらに検討して元に戻そうとする動きになっている。

   すなわち、この夏に25名による特別委員会が創られて理科教育の基準を見直すことになり、
   その草案は12月には教委に提出されよう。 またそれは州教委のホームページでも広く見る
   ことができるようになる筈であるが、その後、公聴会が開かれて来年3月には最終決定を
   採決によってなされる。 州議会でも意見が分かれているが、改正を推進する人々の
   根拠は「いろいろな証拠がダーウィンの自然的経過説の進化論だけでは説明できない」、
   「知的なデザインによって人間は造られている」とするのである。

        1999年の場合と今回の場合との違い
   1. 1999年の場合
    先回の1999年の教委の決定はキリスト教原理主義者による影響が強く働いていた。
    ○ 若い地球特殊創造説、バイブルの創世記に書かれているように神聖な神によって
      地球は6日間で造られその年齢も数千年でしかない。
    ○ ノアの洪水:Noah Floodも地質学上の大破壊によるものである。
    ○ 総ての宗教はバイブルの教えによって進化論と調和させることができる。
    ○ 進化論は排除はしなかったが、しかし州学力標準テストの問題から取り除いたり
      カリキュラムからも薄めて、教員が授業で全く教えないことも容認していた。
   【註】6 : 4の評決によって教委が決定した。 なお当時の報道ではこのような考えかた
      はArizona, Alabama, Illinois, New Mexico, Texas, Nebadaの各州にもあるが
      Kansas州のような状態ではないと報じている。 また同時に『進化論裁判』:
      Monkey Trialのことも記している。(BBC News,1999年8月11日)

   その後前述のように2001年にもっと穏やかな方法に改正され、2003年には教委のメン
   バーも替わったが、その割合は進化論と創造論は5 : 5に分かれて現在に至っている。

   2. 今回の場合
    一言でいえば「知的なものによって計画的に造られている」: Intelligent Design説
    いえよう。 進化論のいう自然的な経過説ではなく、宇宙や多様な生命の源泉は計画
    する者:designerによるものであるとするのである。 従って科学者も単に自然的な経
    過に拠るのではなく、もっと合理的な説明をさぐることが必要であると主張する。このよ
    うに神の創造に変えて、designerによるIntelligent design説となっていることに注目
    する必要がある。
    例えば、
   ○ ロンドンでは死亡率が出生率を上回るようになった。 昔は幼児で25才まで生きれ
     る者は少なかったが今やそれが98%にまでなっている。 今や変化していない。停滞
     しているのである。
   ○ 人は今や生まれた場所から異動し混在し、混血しブレンド化している。 祖父母、父母
     からの影響というよりはその他による影響が大きいのである。
   ○ 食物、衛生学などによって守られる影響も強く、またエイズのようなものについても
     チンパンジーは免疫をもっているが、免疫を持たない人は死滅するのである。 ダー
     ウィン説による最も環境に適したもののみが長く生き続け、多くの子孫を残し種を広げ
     てきたとするだけでは説明がつかない。
   ○ 化石についても進化論だけでは説明しきれない。 など

   【註】Answer Sin Creation協会も質疑応答でバイブルと科学は矛盾しないとの解答を
      出している。但し地球の若年説は否定しているが、神による創造と説明している。

  批判
   これに対しての批判は「知的なものによる計画」説なども、所詮「神聖なる神」が生命を造
   りだしたとすることにはかわりなく非科学的なもので、宗教と科学とを混同している。

   なお参考として創造論と進化論を前述の説明も含めながら次のようにまとめておこう。
                 創造論と進化論
   進化論は単純な生物が長い時間をかけて様々な生物に変化していくとする論に対して
   創造論は地球上の生物はそれぞれ創造主によって創られたとする論である。

   ところで創造論も聖書の創世記をそのまま理解しようとする厳格派と、より柔軟な解釈を
   認めて科学との整合性を計る科学としての創造論などもある。 しかし生物の基本的な
   類型である種は神の創造であるとしている。 また世界的な規模の大洪水が起こったこ
   とも聖書の創世記に書かれている洪水に起因することを説明している。

   ○ 1925年春にテネシー州でのスコープス事件(進化論裁判: Monkey Trial)  
     これは人口2,000名の小さな町で生物の教員であるJohn T.Scopesが進化論を教え
     ることを拒んだために州法に違反したとして500ドルの罰金刑に処せられた事件である
     が、その後それは専門的事項であったとして破棄された。 映画などにもなり話題を
     呼んだ。
   ○ 1970年代には創造論者は進化論と同じ時間、創造論を教えるべきであると変化して
     きた。 また1982年に連邦裁判所は創造論と進化論をバランスよく教えるというアーカ
     ンソー州の法律を違憲としたが、その後創造論者は戦術を変えてきている。
     しかしそれは擬似科学であるとする反論もまた強い。
    【註】参考:さし名研究室、定道氏研究資料および九州大学ME研究部資料

   その他第123編も参照してほしいが関係個所を下記しておこう。
   参考1 カンザス州の進化論論争
   進化論は科学的な真理ではなくて一つの仮説であると主張する人たちがいる。 宗教的
   右派といわれているようだが、本文でも述べたように、1999年にカンザス州教育委員の過
   半数はその意見に傾いて、公立学校のカリキュラムや教科書からこれを大幅に削減したり、
   州の標準テストからも除いたりして大きな論争になった。 その後、2001年に再び変更した。

     創世記:GENESIS
     神が天と地を創造した(第1章1節)、すべての生き物を造った(25節)、人を造った(26節)、
     第7日目はすべてのわざを休んだ(第2章2節)などを参照してください。 またノアの洪水
     については第7章で40日間の大洪水(17節)、150日間増えつづけた(24節)などです。
   
コメント 小さな地方や都市などで進化論論争があることは十分、考えられるが、このように
      一つの州でこの問題が再燃するとは驚きである。 今後の動きに注目したい。

 2004. 10. 16記             無断転載禁止


追記(2005年10月1日)   進化論論争の最近の動き

   最近、ペンシルバニア州Dover市教委に対して、進化論支持派の親たちが連邦裁判所に
   訴えを起こした。 このことについてメディア(巻末記載)が報じているので、これを要約し
   ておこう。
  1. 昨年(2004年)、Dover市教委がダーウィン説に疑問を投げかけ、6 : 3の多数決で9年生
   (中3)の生物の最初の授業で「ダーウィン説は一つの学説であるから“インテリジェント・
   デザイン”がそれとは違った生命の起源を説明するものである」ことも説明すべきであると
   決定した。
  2. そこでアメリカ市民権組合の支援を得て11名の親たちが連邦裁判所に対して、それは政
    教分離の原則に反するとして訴え出たのである。 Kitzmillerなど対Dover市教委

  3. この裁判は準備手続きも済んで近く、科学者、教育者、政治家などから意見を聞く段階に
   入る。 しかしその様子はテレビでは放映されないであろう。
  4. もし市教委が勝訴すれば、創造説(論)を他の公立学校で教えることにゴーサインが出る
   ことになり、その影響は大きい。

コメント
   すでに本文(2004年10月記載)で述べたように、今やインテリジェント・デザイン:知的計画者
   が争点なのである。 たんなる天地創造や自然的な経過によるだけではなく、宇宙や多様な
   生命は「計画する者: designer」によってつくられ、発展させられているということが論点になっ
   ているのである。 しかも裁判では、そのことも進化論とともに生徒に教える必要があるかどう
   かが争点である。 

   わが国では、創造説(論)をただ非科学的とか馬鹿げているなどの批判が殆どであるが、また
   それは容易なことであるが、しかしこの視点に立って、より深い研究と批判が進められることを
   期待したい。

 資料: The Washington Post(9/27/2005)、 The New York Times 同日号
         The Wall Street Journal(9/22/2005)


   なお次ぎの論考も併せて参照してください。  157. 進化論論争(再)