157. 進化論論争(再)


杉田荘治


はじめに
   アメリカでは進化論批判の風潮が強まっている。
   “聖書地帯”と呼ばれる地域や南部その他そのような考え方の地域のみならず、今や
   アメリカ全土に亘って進化論を批判し創造説も公立学校で教えることが必要であるとす
   る風潮が広がりをみせている。
   9:11事件以降、アメリカは“内なるアメリカ”に向かっているといわれるが、これもその一
   つの現れであろう。 この問題については先に第147編でカンザス州のケースを述べた
   が、最近New York Times紙などが論じているので、まずそれらの要点を記し、その後、
   全米科学教育センター(NCSE)がこの傾向に危機感を強めているので、その記事から
   具体的事例も含めて要旨を述べることにする。

T New York Times(2/1/2005)号から
   進化論を授業で教えることはある種の戦いになってきている。
   幾人かの教員は「進化論はカリキュラムに載っているにもかかわらず、教育長や校長が
   それを教えることを余り喜ばない」といっているし、極端な場合は創造主義者たちから激
   しい攻撃を受けることにさえなる。

   例えばアラバマ州Birmingham市の生物の若い先生は「私は進化論を教えることを出来る
   だけ避けた。 というのはそれは校長とトラブルを引き起こす惧れがあったから」といって
   いるし、ジョージア州でも「進化論を否定する内容も理科の教科書に載せるべきである」と
   か「生物の授業でも創造説も教える必要がある」ということは今や一般的になってきている。

   またある地方ではカリキュラムに進化論が載っているのに授業では触れるべきではない、
   などといっている。 このように学習指導法や教科書には記載されていても、教育長や校
   長は避けるようにしむけるし、また教員自身も避けるようにしている。

   オハイオ州でも同じような現象で、ある者はe-mailでしか自分の意見を述べず、またある者
   は生徒に対して「単元のなかで進化論は重要な部分ではない」としたり、質疑応答を避けた
   りしている。 このことは大學街にある高校でも同じようなことで、親の多くは教授であるので
   進化論を教えることは何ら問題がないはずであるが、やはり理科の教員はある種の圧力の
   ようなものを感じている。 チャータースクールや学習クーポン券のこと、また青少年に有害
   な言葉を口にするときに感じるような一種の躊躇であろう。 
   従って教育的にというよりは政治的にきちんと教員を支えることが必要になろう。 しかし連
   邦議会の議員たちは、この問題を避ける傾向があり「それは連邦の問題ではなく、地方レベ
   ルの問題である」としている。

U Education Week (2/2/2005)号から
   教員は進化論と宗教との板ばさみになっている。
   例えばペンシルバニア州のDover地方教委が授業で「知的な者によって宇宙や人は計画的
   に造られている」:interlligent design説を進化論の代わりに教えるべきであるということを決
   めたが、理科の一部の教員がこれを拒否し、裁判所の判断を求めている。

   Oklahama州でも生物の教員の25%は創造説についても講義しているし、その約2分の1はそ
   れに強い科学的証明があると信じている。 またMinnesota州でのある大学1年生についての
   2004年調査では、高校の授業では創造説に重点が置かれていたと答えている例もある。

   このようなことはIllinois, South Dakota州でも挙げることができるが、いやGeorgia, Wisconsin
   州など科学的な州や地方でも、ここ数ヶ月で進化論についての再検討が進められるようになっ
   た。 ところで連邦教育省の態度は「これは生物科学の問題であって教育の問題ではない」と
   している。

V 全米科学教育センターの立場
   全米科学教育センター:National Center for Science Educationは進化論を推進することを使
   命としているが、この傾向に危機感を強め、最近では前述のNew York Times紙の論説を再掲
   して「進化論はアメリカの教室では後退している」、「教員は反進化論の親や教育行政官に囲ま
   れて“レーダーの下を飛ぶようなもの”と苦慮している」ことを繰り返し強調している。具体例は
   後述する。

                   世論調査
  
               San Francisco Chronicle(11/30/2004)号記載 
                Gallup Poll(2004年11月〜10日) 1,016名回答

 問   あなたはダーウィン学説は証拠によって証明されたものと思いますか 
 答  ・ はい、そう思います..................35%
 ・ いいえ、そう思いません.........35%
 ・ よくわかりません.......................29%
 問  生命の起源について、あなたの見解を述べてください
 答  ・ 人は神の導きによって進歩してきている...............38%
 ・ 人は神の助けなくして進歩してきている.................13%
 ・ 神が人を現在のような姿にしました...........................45%

   その他 前述のNew York Times紙によれば、
   ○ 世界の産業発展国では80%以上の者が進化論を受け入れている。 
     例えば日本では96%であり、また社会的に保守的でカソリック教徒が圧倒的に多い
     ポーランドでも75%である。
   ○ カソリック系の学校の神父さんも「進化論を教えないでこれを飛び越えてしもうよう
     な教員に会ったことはない」といっている。

            Dover地方教委の進化論事件

   New York Timesでも報じられているように今、アメリカではペンシルバニア州Dover地方
   教委の事件が注目を集めている。 これを各種の資料によって要約しておこう。

   1. 2,800名の生徒しかいないごじんまりしたDover地方教委は昨年(2004)10月、今まで
    の進化論に代わって「知的な者によって計画的に造られている」という説を教えるべきで
    あるとする規則を制定した。 従来もそのようなIntelligent design説を進化論とともに教
    える必要があるとするものは既述したように可なりあったが、このように踏み込んで定めた
    教委はなかった。
   2. しかし11月になって7名の教員が「その規則は州の学習指導法に反している」として、こ  
    れに従わず、一人の生徒の親とともに裁判所に『政教分離の原則』に反するとして訴えで
    ているのである。
   3. そこで教委は事件が継続中であるので、この規則を一時的に緩めて、進化論に代わって
    その説を教えなくてもよいが説明すべきであると修正している。 現在、教委はコメントする
    ことを控えているし、またDover法律関係部門も静観の態度をとっている。

   なお訴えに参加している9年生の親は裁判所で宣誓証言をしたさい、「その説が授業で教え
   られた時、子供は退出せず教室内に留まるであろう」と語った。
    【註】 Intelligent design説については第147編を参考にしてください。その一部を下記す
       ると、「進化論のいう自然的な経過説ではなく、宇宙や多様な生命の源泉は計画
       する者:designerによるものであるとするのである。 従って科学者も単に自然的な
       経過に拠るのではなく、もっと合理的な説明をさぐることが必要であると主張する」。

               最近の進化論々争一覧  主として2005年分
                             資料:National Center for Science Education

 Georgia州   州下院が2005年1月27日、第179号議案を提出した。その内容は授
 業で、人類その他の生物の起源について「知的なものによって計画的
 に造られ
ている」事実も教える必要があるとする。
 Georgia州
  Cobb地方教委 
 Selman事件について連邦地裁は教委の規則は「政教分離の原則」に
 反
すると判決した(1月13日)が、教委は5 : 2 の多数決で1月17日に
 控訴した。
 Mississippi州  2005年1月10日、15の選挙区を代表する州上院議員が「科学的な創
 造説
と進化論とをバランスをとって教えること」との議案を提出した。
 (SB 2286号)
 Montana州
  Darby教委
 この教委の意見を尊重してToole上院議員が「公立学校で進化論
 のみを教える」ことに反対した。 2005年1月7日
 South Carolina州  教科書の改訂にさいし二つの説を取り入れることとの議案(S114)が
 上院に提出された。
 Kansas州  第147編で記したように州教委は進化論派と反進化論派が5 : 5であっ
 たが、2004年11月2日の改選で反進化論派のWyatt氏が選出されて
 その比率は4:6となり多数派になった。
 Wiisconsin州
  Grantsburg教委
 2004年12月6日、教委は6 : 1の多数決で「いろいろな形の創造説を
 教える必要がある」と決定した。
 Pennsylvania州
  Dover地方教委
 前述のように現在、裁判所に継続中

 【参考】この表の最後にNCSEはアメリカ国内三大メディアが進化論の教育について、最近
     の状況を報道してくれていることに感謝しながらも、その論調がやや弱いことを批判し
     ている。

【コメント】 はじめに記したように今、アメリカは「内なるアメリカ」に向かっているといわれるが、
       正しくこの問題はその一つの現れであろう。メディアの論調もその当惑を示している。 

 2005. 2. 14記              無断転載禁止