148. アメリカでは首長によってメリット・ペイが
   広がってきているーわが国の場合は


杉田荘治


はじめに
   アメリカでも教員の実績評価にもとづく給与制度、いわゆるメリット・ペイ方式は難しいよう
   に思われるが、それでもこれをを創ろうとする動きが首長のリーダーシップによって少しずつ
   広まってきている。

   最近、話題になっているミネソタ州の動きを取り上げ、その後少し以前のデータ-であるが
   全米の状況を一覧し、また教員組合の見解を述べ最後に、わが国の場合について考察
   することにする。


T Star Tribune (9/14/2004)号から
   ミネソタ州は教員給与についてメリット・ペイ方式を実験的に開始した。
   Tim Pawlenty州知事が提唱して、ミネアポリス市内の3校とWaseca教委とがプロジェクトチー
   ムを創りメリット・ペイ方式による給与制度を実験的に始めることになったが、知事は「今ま
   でのように教員免許を取っただけで教職経験年数による給与方式とは異なり、この実験
   は教育を良い方向に導くであろう」と評価している。

   従来の給与制度は教職経験年数と上級免許状によってのみ給与が支払われるため、指導
   困難校を望まず、また独創的なレッスンもせず同僚教員の手助けも避けて、漫然と教室に座
   りこんで日々を過ごす者もかなりいた。 知事はこれを改善しようとするのである。

   この実験のために連邦政府からの基金800万ドルが充てられることになるが、そのうち260
   万ドルは3校のために、またその同額をWaseca教委に支出され、残りは新任教員採用セン
   ター設立のために使用される。 プロジェクトチームには教育次長、Waseca教委教育長、3校
   の校長および教員組合の委員長も参画していることが特徴的である。 Waseca教員組合は、
   この四月、65%の投票数をもって賛成し、3校の場合もその賛成は70%であった。

    
   1. 他の同僚教員、特に新任教員を手助けする『指導教員』に年額5,000ドルを支給する。
   2. 『マスター教員』に対して8,000ドル昇給させる。 彼らは教員の研修や評定を手助けし
     生徒の学力テスト成績を分析し、更に毎日1時間または2時間授業を担当する。
   3. 勤務成績も良く、生徒の学力を向上させた教員に2,500ドル〜3,000ドルのボーナスを
     与える。

   実は一昨年:2002年3月に知事は『スーパー教員』という制度を創り、彼らに対して年額、10万
   ドルのボーナスを与えようとした。彼らは優良教員のなかでもその中核となる者であった。また
   生徒の学力を向上させた教員に対してボーナスを支給する案も含まれていかだ、議会の承
   認が得られず実現しなかった経緯がある。 従って今回は議会がそのための追加予算を承
   認するかどうかが問われることになる。

U 他の知事もこの改革を賞賛
   オハイオ州知事もこの改革を賞賛しているが、そのことについてPlain Dealer (Cleveland)
   2004年9月21日号が書いている。 内容的には真新しいものはないが簡単に記事につい
   て述べておこう。 すなわち、
    ミネソタ州知事は昨年、トップの教員に10万ドルの給料を支給し、また生徒がテストで高い
    得点をとった場合にもボーナスを支給しようとしたが、議会が承認しなかった。 そこで今回
    は南西部にある小さな教委とミネアポリスにある3校からなるプロジェクトチームをつくって
    新たな案を作ろうとしている。 その案ではプロジェクトチームは「教員向上プログラム」と呼
    ばれ500万ドル以上の基金を使って広く教員研修や指導教員制度も含めた給与制度を創ろ
    うとしているが、わがオハイオ州でもこれを十分に参考にする必要がある。

    またその「教員向上プログラム」:TAPは全米で8州で作られており、そのような所では、生徒
    の成績は従来ある学校のそれより優れていることが証明されている。またわが州の教員組
    合もその調査に興味をもっているにも拘わらず、わが州ではどの教委も実施していない
    ことは残念である。

V Herald-Revieも昨年すでにこの件を取り上げ
   Herald-Revie (10/3/2003)号によれば、ミネソタ州のTim Pawlenty知事は実績に基づく給
   料をという潮流に乗って、五つの学校からなるプロジェクトチームをつくり「スーパー教員」には
   最高で10万ドルの給料を与え、また他の分野で活躍しているエキスパートを教職に引きこもう
   としている。 また良い教員が指導困難校に引き続いて留まる方策などを含めた給与体系を
   創ろうとしている。
   しかし行政当局や教員組合がこの原案を保留すると発表している。


W 批判
   全述のようにミネソタ州知事によるメリット・ペイ制度については議会の態度待ちであるが、案
   外、地方教委からの批判がある。 例えば第16教委の教育長は財源の面から果たして指導
   教員に5,000ドルのホーナスを支給することができるかどうかを心配している。 従ってその資金
   が連邦からの資金であればよいとしている。 また275名からなる教員組合もメリット・ペイには
   反対しないが、それを査定する者について懸念している。

   すなわち、その査定者が教員自身で決めるのであれば賛成、そうではなく外部の者であれば
   反対というのである。
 それはその学校の教育は教員が責任を負っており、学校は航空母艦
   のようなもので、乗組員全員が協力しなければ巧く機能しないのと同じであると説明している。
   (この項・参照 Blanic-Siplife 2004年9月23日号)  

               メリット・ペイ方式採用状況一覧     
   データ-は案外少く、また少し以前の状況であるがAnita A. Summers & David L. Crawford
   資料によると次のとおりである。 その後の変化について知れるところは付記するが、余り大
   きな変化はないのではないかと思っている。

T 州全体の方式とされているところ
  1. Kentucky州
    向上したみなされる学校が基金から奨励金を受け取る。 その額は1994-95年度で教員一人
    当たり2,000ドルであった。 査定資料としては統一学力テストが用いられ、5ポイント以下の学
    校はゼロなど学校によって差がある。

   Cincinnati市の場合
    その後、この市は州の方法より更に細かく規定し、実質的なメリット・ペイに改正しようとした。
     
    勤務評定領域を4つ設け、それぞれ16の基準点によって査定し4段階で評定する。 またその
    グループも新任教員、若輩、キァリア組、上級者ごととする方式であった。 これによると昇給する
    者もあるが、逆にダウンする者も出ることになるので、教職26年以上の教員に対しては、従来
    の方式を選択することもできるとされた。  その額は不明

    2002-03年度から実施する計画であったが、教員組合は反対したため実現しなかった。 
    すなわち、教員組合は2002年6月9日、その採決をしたが賛成73、反対1,892という圧倒的
    多数で否決したのであるが、その理由として査定が主観的、恣意的になる惧れ、また情実や
    政治的な忠誠心を問われる惧れありと考えたからである。(この項資料:Workerersparty
    Org. 2002. 6. 9号)

  2. Maryland州
    2-3年続けて優秀な成績を挙げた学校が報奨金を受け取る。 1297校のうち83校程度で
    報奨金の額はそれぞれ64,600ドルである。 1年間だけ優秀な学校は208校程度である。
    その使途は学校の任されるが、教員に対するボーナスとすることはできない。

  3. South Carolina州
    良好な学校(約25%)は15,000〜20,000ドルの特別賞を受け取る。 その銭は学校の学習
    指導プログラムのために使用するが、そのなかには教員に対するボーナスも含まれている。
    その額は教員は1,000ドル、職員は400ドルである。 もっとも100点満点て゛75点までの学
    校は満額であるが、74点〜60点はその額は75%になる。

    1996年度では中等学校では40%の学校がうけたが、学校種別によって差がある。 しかし
    大部分の教員(95%)がこの制度を支持している。

  4. Colorado州デンバー市教委
    州全体のものにはなっていないが試行されているものであるから、この分類のなかにも入れ
    られよう。既に第136編で述べたが関係個所を下記しておこう。

    アメリカ・コロラド州のデンバー市教員組合が市教委と合同して、生徒の成績向上を主にした
    メリット・ペイ方式の新しい給与体系を創った。
1999年〜2003年までの4年間、19の学校か
    ら教員が参加し、生徒の成績向上を主にした給与体系で、その試行の結果である。
    
年一回、実施される州の標準テストだけではなく、教員自身による中間テスト、平素の評価など
    を加味して客観性は保てると試行結果からも自信をもっているからである。

    またその適用は2006年1月以降の採用者については全員についてであるが、現職教員につ
    いては、その方式を選択するか、それとも従来どおり均等方式を望むか各自に決めさせること
    になっている。
 教委はこの案を2004年2月19日に可決し、教員組合は2004年3月19日に
    決議して承認を与
えた。

    その財源の確保も図っているようであるが、市民にとっては教育税の増税を覚悟させることに
    なるのでその賛否が問われることになろう。市民一人平均61ドルの増税


U 一部の地方教委が採用しているところ
  1. コロラド州ダラス郡統合教委
    ・ 特に顕著な成績を収めた教員に対して..... 1,000ドル
   ・ 余分の仕事を果たした教員について生徒一人当たり.......4ドル5セント
   ・
 生徒の成績を向上させたグループに対して.......1,500ドル〜1,800ドル

  2. イリノイ州Evanston教委
   20-25%の教員が毎年、メリット・ペイを受けている。 その額は不明


  3. マサチューセッツ州ボストン市教委
   1997-98年度、小学校では39%, 高校では16%の学校が、生徒数によって4,000ドル〜21,000ドル
   の奨励金が支給された。

  4. ミネソタ州Robbinsdale教委
   教員の業績によって最高15,000ドルのボーナスが支給された。 参考までにこの時の教員の
   平均給料は年額26,000ドル〜48,069ドルであった。


  5. ミゾリー州Ladue教委
   1998年度、メリットペイとして教員一人につき0ポイント〜17ポイント支給される。
   (1ポイント 150ドル)


  6. ノースカロライナ州Charlotle-Mocklenburg教委
   1995-96年度、良好な教員に対してボーナス1,000ドル、職員には300ド支給した。
   その割合は高校で33%, 中等学校で16%, 専門学校で58%であった。

  7. ペンシルバニア州Philadephia教委
   生徒の学年テストで向上した学校をTarget 1, Target 2などと分類してボーナスを支給している。
   その額は不明。 そのため11年生の数学が50%も向上した学校があった。

  8. テキサス州ダラス市教委
   約20%の教員、校長に一人当たり1,000ドル、職員に500ドル、統括責任者に2,000ドル支給した。
   年度不明

     教員組合はメリット・ペイ方式をどのようにみなしているか

   アメリカ最大の教員組合:NEA(全米教育協会)は2003年6月4日、メリット・ペイについて次
   のような見解を発表している。 すなわち、
    多くの教員はテスト・スコアに基づき情実:favoritismの懸念のあるメリット・ペイ制度には
    反対している。 しかし同時に従来の給与体系を変える必要があると考え、余分な仕事
    に対して余分な報酬が必要なこと、学校の教育向上に対する奨励金、また全米委員会
    認定証に対する奨励金の支給などの給与制度が必要であるとしている。

 【コメント】 これはある意味ではメリット・ペイ方式ともいえよう。なおNEAの会員数は270万人
        また評価している全米委員会認定証とは次のとおりである。
        National Board for Professional Teaching Standards (NBPTS)といわれ、独立
        した非政治的機関である。理事会は多くの教員、教育行官、教委、知事、州議員、
        高等教育機関の者、教員組合、事業主、地域代表などから構成されている。
        五つの核を設け授業にもとづく評定を行なう。 3年間のクラスルーム経験コースが
        あり、10年間有効とされる。 費用2,300ドル

                 わが国の場合はどうするか
 
   今まで見てきたように、アメリカでも従来の教職経験年数と上級免許状だけによる給与制度
   を改正する必要があると考えている。 しかしさて効果的なメリット・ペイ方式となると地方教
   委当局者や議会は主として財源の面から批判的であり、一方教員組合などは教員以外の者
   に査定されることは情実や政治的忠誠心を問われる惧れありとして反対しているが、教員自
   身であれば賛成とするようである。

   わが国ではどうするかについては大きな今後の課題であるが、私はデンバー市の例が参考
   になると考えるので、それを見てください。  また前年度より向上した学校に対して特別報奨
   金を支給し、その使途を各学校(校長)に一任する方法が良いと考える。その際そのなかには
   学校の教材・教具も一部あるかもしれないが、思いきって教員や職員に対して特別報償金とし
   て支給したほうが良いと考える。 学校の全員が協力して成果を挙げたのであり、今後の教育
   振興にも役立とう。

   教員個々についての勤務評定については、今まで各編で述べたが後日、これらをまとめ、また
   追加しながら考察する。

 2004. 10. 28記             無断転載禁止