155. アメリカ教員のストライキ その2


杉田荘治


はじめに
   ミゾリー州セント・ルイス市教員組合がストライキを実施しようとしている。
   2001年9:11テロアタックやイラク問題などでアメリカでは教員ストライキは少なくなっている
   ように思われるが、しかし勿論、皆無ではない。 最近セント・ルイス市教員組合がストを構
   えていることを地元のSt. Louis Post-Dispatch紙が報じているが、これを要約し、その後
   イリノイ州の例を見、さらに全米の州別ストライキ禁止・容認一覧についても付記することに
   する。

T St.Louis Post-Dispatch 2005. 1. 6号などから
   1月6日号の他、2004年12月11日号、同13日号を総合して要約する。
    420名を擁する教育組合(AFT連携)は来る2005年1月9日にストライキを実施することを
    執行委員会が全員一致で可決した。 それはこの1月5日に教委との交渉をおこなったが
    進展がみられなかったからである。

   理由

   ○ 教員の健康保険条件について教員組合は不満足である。
   ○ 給料についても教委は「大学卒の新任教員について、次の4年間で年間8,000ドルアップ
     して31,000ドルにする」といっているが教職経験の長い教員の分についてははっきりしない。
     また「市近郊の他の五つの地方教委の給料と同じになるように引き上げる」といっているが
     その保障もない。
   ○ 昨年、組合は市財政の厳しいことを理解して協力したのに、その見返りが少な過ぎる。
   ○ 教委は組合との合意がないままに、1年間の勤務日数を10日増やしたし勤務時間も長く
     した。
   ○ 教委は「病気休暇や有給休暇をストライキに利用することはできない」と一方的に規則化
     していまった。

   このような理由でストを構えているのであるが、既に昨年(2004年)、12月1日に教委か規則
   で決定したので、その直後組合は3分の2以上の賛成でストを決定し、その後は執行委員会
   に一任して今日に至っているのである。

           ミゾリー州の州法はどうなっているか
   この州の州法には教員ストライキについての規定はない。 容認(Permitted)でもなければ、
   禁止(Prohibited)でもなく、やや曖昧である。 従ってその時の教委の裁量や仲裁によること
   になり、時には全く処分されず、時には解雇や刑罰もあることになる。 前回は現Armstrong
   組合委員長の談話によれば刑罰があったようである。

               過去のストライキ
  ○ 1973年に28日間のストライキ........この時、裁判所の「教室へ戻るように」との命令に従わな
                         かったので組合に対して68万ドルの罰金が課せられた。
  ○ 1979年に56日間のストライキ....... 処分不明
  ○ 1981年に4日間のストライキ ........ 処分はよくはわからないが、前述のように組合委員長の
                         言によれば解雇や刑罰もあったようである。

   なお今回についても教委は「処分する: disciplinary action」といっているし、またスト中は代用
   教員で授業を続けるといっている。 また裁判所に差止め命令を求めるかもしれない

         参考T  ストライキか゜容認されている例(イリノイ州)

   イリノイ州では教員のストライキは容認されている。 ただし10日前までに予告すること、また仲
   裁には従うことが要件である。 例えば2000年度以降についてみても、
   ○ 2001年にはGrante市教員組合が4週間のストライキを実施した。
   ○ 2003-04年度にはEast St. Louis, Freeburg and Smithton教祖がストライキ(期間不明)など
     3件あり。 しかも13件が未解決のまま残されている。すなわち、
   School Board News Bulletin December, 2003 によれば次の地方教委ではストライキが
   未解決だと報告されている。
    Freeburg
Community High School Dist. 77; Round Lake Dist. 116; Naperville C.U. Dist. 203
     (Nov. 13); Edinburg C.U. Dist. 4 (Nov. 10); Carbondale Dist. 95 (Oct. 30); Brussels C.U. Dist.
     42 (Oct. 29); Sandridge Dist. 172 (Oct. 27); Pickneyville C.H.S.D. 101 (Oct. 24); Flora C.U.
     Dist. 35 (Oct. 24); Amboy C.U. Dist. 272 (Oct.16); Rantoul Dist. 137 (Oct. 10); West Prairie
     C.U. Dist. 103, Colchester (Oct. 7); and Nashville C.H.S.D. 99 (Oct. 3).

   またOttawa教員組合は2003年12月3日〜12月12日ストライキを実施した。 これらの中で一番
   長いものは3週間、その間フットボールの試合もなく、また一部の親は子供を転校させたとも報じ
   ている。

   その他、約33,000名の教員と3,000名の助手、事務職員を擁するシカゴ教員組合が2003年11月
   5日に健康保険ブランと年間4%の昇給を求めてストライキを計画したが、11月5日に解決した。

         参考U 州別教員組合のストライキ容認・禁止一覧
    資料 : State Collective Bargaining Policies for Teachers   State Notes June 2002

 ストライキを認めている州
     9州
  Alaska  Illinois  Montana  Ohio  Oregon  Pennsylvania
  Rode Irland  Vermont   Wisconsin
 ストライキを禁止している州 

 しかしペナルティの規定なし
     12州
  California  Connecticut  Delaware  Hawaii  Idaho  
  kansas
  Maine  Nebraska  New Hampshire  New Jersey
  Tennessee 
Washington
 ストライキ禁止、しかも
 ペナルティの規定(罰金、
 解雇、時には刑罰)もある州
     12州
  Florida  Indiana  Iowa  Maryland  Massachusetts
  Michigan  Minnesota  Nevada  New York  
  North Dakota
  Oklahama  South Dakota
 州法には全く規定なし
     
  上記以外の州 (本文で記載したMissouriもこのなかに含まれる)

    【註】州法には仲裁・調停が規定されている。 そのうちMediationは拘束力がなく、
       Arbitrationは拘束力があることが多い。
 
   なお最近以外の分については53. アメリカの教員のストライキを参照してください。
 コメント
   ご覧のようにアメリカの教員のストライキについての最近の動きや州法の一覧を理解すること
   がてぎよう。

 2005. 1. 17記           無断転載禁止


      追記    ストライキは開始直前の交渉で回避された
        最終合意の内容

       ○ 大学卒(学士)の現職教員については今後4年間で11.3%〜26.3%昇給させる。
       ○ その他の教職経験の長い教員については今年とその後の3年間にそれぞれ
          2,000ドル支給する。
       ○ 教職員はもっと健康保険料を支払うこととする。
       ○ 授業日の勤務時間は28分長くする。 また来年には授業日を4日増やす。
         またその後の2年間にそれぞれ3日増やす。  など
       (資料:St. Louis Post-Dispatch 1/18/2005号)