156. デトロイト市は公立学校を半減しようとしている


杉田荘治


はじめに
   アメリカのデトロイト市は財源難や生徒減のためめに、ここ3年ないし5年のうちに現在ある
   252校から110校を閉鎖すると発表した。
   このことについてDetroit Free Pressが報じているので、これを要約し、その後デトロイト市
   教委がミシガン州の管理下(take-over)におかれているが、この州の管理とはどういうことな
   のか、また全米の関係州法などについても考察することにする。

T Detroit Free Press(1/21/2005)号から
   前述のようにデトロイト市教委はここ数年のうちに財源不足や生徒減のために110校を閉鎖
   すると発表した。 その生徒数は2008年には約10万人になるだろうが、これは1999年と比較
   するとその約2分の1強にすぎない。

   実は1999年にデトロイト市教委はミシガン州の直接管理の下に置かれたが、その後も生徒
   の減少は止まらず、ある者は私立学校へ行き、ある者は郊外の学校へ転校したりしているの
   である。 このようにこの水曜日に発表した計画は“この世の終わり”のようなことで、負債は
   増え生徒減が続くために学校予算も3分の1にまで削減される。 因みに110校の閉鎖によっ
   て3億8000万ドルの削減になる。

   Kilptrick市長は「人口そのものが減少するので来年の財源は2億3100万ドル不足する。サラ
   リーのカットやBelle Isle水族館の閉鎖、路線バスの廃止をさらに進めるなどしなければならな
   い」といっている。

   ところでデトロイト市教委への特別管理が州法で決まり、それに基づいて最高執行官に任命
   されたKenneth Burnleyさんはこの6月30日で任期が切れるが、彼はその後、暫定最高執行
   官として引き続き新しい教育委員会がきまるまで、その職に留まるかどうかははっきりしない。
   「私にとっては大いなるチャンスであり挑戦でもある」といっているが、質問にも適当にはぐらか
   しかしたりしている。 なおこのことについて翌1月26日の報道によれば、彼は決心し教委も
   2006年6月までの暫定支配権を認めたとのことである。

   しかし市教員組合Janna Garrison委員長は「彼が支配権をもち続けようがそうでなかろうが
   財政難は深刻な段階に入り“残飯モード”のような状態である」と語っている。 またMike
   Griffith政策分析官は「差し当たり来年の閉校は40校となろう。 今の状態は丁度、ボートか
   ら水を掻き出すような仕事で、掻き出しても掻き出しても追っ付かない。 到底、穴を埋めるよ
   うな余裕もない。 抜本的な改革をやるより他の方策はない」、「そのためには市教委そのもの
   をチャータースクール化したり、より小さな地方教委に分割するか、それとも教委がもっと多く
   チャータースクールを認める方策に転換する必要があろう」と語っている。

   ところで最近、Jennifer Granhoim州知事は120名からなる臨時チームを指名して、市教委の
   財政的健全プランを作ってもらうことにしたが、このチームはヒスパニック協会も協力することに
   なろう。

 U 州によるデトロイト市教委の直接管理
   今まで述べたように1999年、ミシガン州は特別法を制定してデトロイト市教委を直接管理(Take
   -over)することにした。 Michigan Senate Bill 297(1999 Regular Session)
   その方法は市教委のいろいろ困難な問題を処理するために、公選の教委の権限を剥奪して
   デトロイト市長に権限を委ね、市長が7名の委員のうち6名を指名し、他の1名は州知事が指名
   する特別立法であった。 その結果Burnleyさんが最高執行官(Chief Executive Officer)に
   指名されたのである。
   これを補足するとFreep/News/Education 2000年5月5日号には次のようなことが書かれてい 
   る。 すなわち、何とか問題の多い市教委は今日、新しいリーダーを迎えた。
   Kenneth Burnleyさんは58才、コロラド州スプリング教委教育長を1987年からしておられが、
   本日新しい改革教委で全員一致をもって最高執行官に選任された。  これまで氏を含めて
   10名の候補者があったがその後、3名にしぼられ最終的にBurnleyさんに決定したのである。


                州による直接管理とは

   アメリカの教育的諸問題の記述にはよくState take-overとかtake over by the stateという
   ことが出てくる。 それは既述のように問題の多い地方教委を州政府が直接的に管理すること、
   “取り込む”、“接収する”ことであるが、このことについては既に第132編などで述べたが、具
   体的にはどのような手続きや方法とられるのかについて全米教委委員会の公式文書によって
   以下、説明しておこう。
    Policy Brief: Accountability-Reward/Sanctions, State Takeovers and Reconstitions
    2002年4月改訂 http://www.ecs.org/clearinghouse/13/59/1359.htm
      概観 現在24州が学力低下や財政難などの理由で州による直接管理が行なわれている。

 理由
  ・学力低下など    ・財政悪化のため   ・問題の多い不適切な教育行政
  ・破壊してしまったような統治の基礎構造を再構築するため

 方法  そのための特別法を州が制定すること
  ・州教育省が直接計画に参画するケース  ・裁判所が計画に参画するケース
  ・地方教委の権限を全面的に剥奪して他の者にその権限を委ねるケース
  ・地方教委は残しておいてアドバイス程度の権限に限定するケース
  ・カリキュラムや学習指導については権限があるが財政・人事などは剥奪する
   ケース
  ・一定期間(5年など)を定める。 もっとも延長もあるし改善されれば現状回復
   する

      具体例

   州と地方教委    理由   根拠州法   備考
 Mississippi
  North Panola教
  委に
1996年から
 財政悪化  Miss.Code
 Ann.

 §37-17-6
 改善されたので
 1998年に現状
 回復
 Arkansas
  Altheimer教委に
  2002年から
 6年間も低い
 学力
 Ark.State,
 Ann
 §
6-15-403
 特記事項なし
 Kentucky
  Letcher教委に
  1994年から
 財政悪化と
 管理上の問題
 K.R.S.
 §158.6455
 改善されたので
  1997年に現状
 回復 
 Maryland
  Baltimor市教委に
  1997年から
 困難な諸問題  Senate Bill
 795
[Baltimor
 City
Public   Schools]
 教委の権限を全
 面的に剥奪。知
 事と
市長によって
 新しい委員と最
 高執行官
を指名
 Massachusetts
  Chelsa教委に
  1989年から
 学力問題と
 財政悪化
 Mass.Ann
. Law
 ch.69
 §1J-1k
 ボストン大學と
 連携して日常的
 業務の見直しと
 技術的な
援助
 West Virginia
  Lincoln郡教委に
  2000年から

  McDowell郡教委に
  2001年から
 管理上の問題
 財政悪化
 学力低下


 学力上の問題
 不健康・不
 安全・危険
 W.Va.Code
 §18-2E-5
 特記事項なし
 Texas
  Wilmer-Hutchins
  教委に1996年から
 財政悪化
 学力低下
 Tex.Educ.
 Code 
 §39.131
 
 1998年に現状
 回復


   【参考】 この具体例から「直接管理」の形態も種々あることが理解されよう。
        なお第85編第132編も参照してほしいが、その一部を下記しておこう。
         州政府の管理下におくとは
     新任のWardさんに、オークランド市教委の決定について、リースすること、契約すること、交渉、
     カリキュラムや法の執行のすべてについて十分な権限が与えられ、またその責任を負うことになる。
     このようにして州政府が財政的に健全になったと認めるまで州政府から直接監督を受けることになる。

     従って十名の教育委員は投票権を失うことになる。地方教委に対して占領軍司令官のような役割を
     果たすように思われる。従って地方自治の教委制度を残しながら実質的に州が管理する方式である


     なお、.I N S T ITU T E  ON  E D U C A T I O N  L A W  A N D  P O LIC Y .
      50-STATE REPORT ON ACCOUNTABILITY, STATE INTERVENTION AND TAKEOVER
      Table of Contentsも参照してください。


 【コメント】
   ご覧のとおりデトロイト市の最近の動き、また全米的な『州による直接管理』の方法や形態に
   ついても理解を深めることができよう。

 2005.1.29記             無断転載禁止


 追記
   Detroit Free Press(2/4/2005)号によればデトロイト市教委は、その管内の21,000名の
   職員の大部分の者について給料を5-10%カットすると発表した。
 これは2億ドルの予算削
   減に対応するプランである。 時間給7ドル〜12ドルという最も低い賃金ベースにある者につ
   いてさえカットをしようとしている。
   このことは今、市教委は州の直接管理におかれていて、州が要求している財政の再建に応
   えるためであるが教員組合委員長は抵抗している。 しかし「もっと大きなカットになるより早
   めに受け入れよう」とする声も強い。 また一時解雇も始まっている。すなわち昨年、クリスマ
   ス・イブに372名についてその通知がなされた。  技術者についても給料5%カットと手当ての
   削減が提示されたが、彼らはこれを受け入れることに決定したし、500名に及ぶ教育関係行
   政職と校長など管理職については10%カットの案が出ている。 しかしその交渉は未だ行な
   われていないが州の直接管理下にあっては交渉はできないであろう。
   このような給料や手当てのカットが実施されれば有能な校長や職員はデトロイト市から去っ
   ていくであろう。