33 わが国の[不適格教員]

                  教員解雇について
はじめに
 2000年 (平成 12) 9月現在、メディアは教育改革国民会議や文部省では、優秀な教員を、
手当て、人事、表彰などで優遇するとともに、[不適格教員] については、教壇に立たせな
いようにするために、役割変更、転職、免職などの措置を講ずる改革案を近く提示すると、
報じている。結構なことである。

 そこで、ここでは[不適格教員] 、すなわち [その意に反して] 免職、休職などの分限処分
を受けた教員の最近の実態を各種の資料や判例などから概観することにするが、まず、こ
の問題について提言する。
T 提言
1 分限処分にするハードルは、現行では高すぎるので、これを適当なものにされること。
  すなわち、現行では明確な基準がないために、[ 義務不履行があり、公務員たるに相応
 しくない顕著な特性が存在して、公務員たるに適さない色彩 ないし 『 しみ 』が付着して、
 簡単に矯正できない持続性をもった場合 ]とされることが普通であるが、これではハードル
 が高すぎる。
  そのために、文部省や都道府県教委によって、[ 生徒にとって有害な教員 ]という基準
 を定め、その具体的なガイドラインを策定されること。
 【参考】 アメリカ California 州の規定でも、教委は無能教員の処分について、" beyond
      remediation" を証明する必要はなく、" not meeting established standards of
      performance " ということを証明すれはよい、と改正されている。
2 その基準やガイドラインは公表されること
3 それによって判例の変化を期待したい。
4 [学校の秩序 ]、[クラスの秩序] について、生徒懲戒の方法を改善されること
  すなわち、現行の生徒指導についての施策は極めて不十分で、教員は自信がもてない。
 [理由のある力の行使]は駄目、体罰も駄目、校内停学も駄目... などでは、それこそ駄目
 である。
 従って [理由の有る力の行使]は正当であることを確認するなど、具体的なガイドライン
 を作って、正当な学校の権威、クラス担任の権威についても、十分、配慮されることを期待
 したい
5  保護者、地域、生徒などからの [不適格教員]と指摘する要望とその対応についてガイド
 ラインを作り、これを公表されること。


 すなわち、彼らの要望は当を得ているものが多いと思われるが、なかには彼らのエゴ や
 その教員にたいする " 好き嫌い " が強く反映する虞もあろう。ガイドラインを作り、これを
 公表することは、その抑止にもなると考える。
6  すべての教員の現職教育を強化されること。しかも “ 外部” での研修を多くされること。
  これまでは、校内研修、教育センターでの研修、地域教科研究会 など、いわゆる “ 内輪”
 での研修が大部分であった。 これでは不十分で、IT 革命などの進歩に対応できない。思い
 切った教員自身の教育休暇や一定期間または、ある日数の“ 外部 ”での研修制度とその
 活用により、校内に多くの分野に精通した教員をつくっていただきたい。
7  教員勤務の在り方を改善されること。
  これまでは、優良教員といわれる教員は、勤務時間後も長く校内に留まり帰宅時間が遅 
 い。 校長や地域も暗にそれを期待するむきもある。
確かに一面、長所であるが、他面、そ
 れを過信する弊害も多い。 前述の合理性、“外部からの知識や技術 ”の伝達・交流などが
 実際にできるように、勤務の在り方を改善する必要がある。 これは主として、校長の責任
 である。
8  優秀な教員の評価に、[不適格教員]ないし、それに近い教員に対する協力や指導に大き
  くポイントを与えること。
 現在の学校の環境を変えることなく、[不適格教員]と評定されることは酷であり、教育の萎
 縮も生もう。各級が具体的な基準、ガイドラインの提示、改善、実際の運用を進めながら、
 公平で「 成る程 」と多くの人が認めるような分限処分であることを望みたい。
U 平成 10年度 ( 1998 ) 分限処分の実態
 地方公務員法 28条は、[ その意に反して ]として分限免職、降任、休職を規定している。
 ・ 勤務成績が良くない場合   ・ 心身の故障    ・ 適格性を欠く場合   ・過員・廃職によ
  る場合  ・刑事休職

 これらのうち、 勤務成績が良くない場合と適格性を欠く場合の教員については、広く[ 不適
 格教員 ]といってよかろう。 以下、文部省『 教育委員会月報 』 平成11年 12月号によれば、  
全国公立小・中・高校教員で分限処分を受けた教員 ( 病気を除く )  ...... 60 人 
    内訳
                          処分理由
     降任   2 人  ........勤務成績不良、 適格性欠如
    免職  15 人 ............行方不明、 心身の故障、 無断欠勤、 勤務成績不良
                     適格性欠如
    起訴休職   8 人 ........収賄、 道路交通法違反、 窃盗、 わいせつ、 業務上過失致死
    その他 35 人 ............ 配偶者の海外派遣に同行、 研究休職 
   (参考)   全国本務教員数   948.350 人
          うち  病気による休職 ......4.395 人  うち 精神性疾患 ...  1.707 人
【 コメント 】
  しかし、この数字と実態とは、かなり違っているとの見方が非常に強い。 というのは、
 [勤務成績が良くない]とか[適格性を欠く]とかを立証する ハードル が校長・教委には高す
 ぎるので、なかなか処分に踏み切れない実情があるとされるからである。

 従って、前述 『提言』で述べたように、このハードル を適切なものにされることを望みたい。
V [不適格教員] の判例
 ここ数年の 『判例時報』、『判例タイムズ』 および 『教育委員会月報』 文部省 に記載され
た分限免職、すなわち [ 不適格教員 ]の免職事例を要約して述べる。

 全般的にいえることは、前述 『提言』 で述べたように、「しみが付着し、簡単に矯正できな
い」とか「顕著な特性が存在する」 などと、そのハードル は依然として高いということである。

さらに教員については、協調性に乏しい、新しい教科に適応できない、生徒の心理把握も殆
ど不可能、生徒指導、学習指導が極めて低い、などとされている。
 したがって、 [判例時報』 と『判例タイムズ』に記載された例は少ない。 このことは具体的な
事例そのものが少ないこともあり、また上記のハードルに変化がないので、実際に判例とな
りうるものが少ないことも意味しよう。
すなわち、分限免職の例は、平成 3年度以降で次の一件しか載せられていない。 しかもそ
れは、条件付採用期間中の教員の件であるが、要約しておこう。
1 条件付き採用期間中の公立中学校教員の分限免職
                   京都地裁 平成 3. 2. 12 判決     『 判例タイムズ』 752号
1概要
   条件付き採用期間中の公立中学校の教員 (音楽)が出席簿の整理を怠り、教科書や
  学習指導要領の軽視、上司の命令無視、研修への反抗的態度などのため、9月 30日を
  もって分限免職になったが、これを適法とされたもの。   
2 事実
 ○ 教頭や整理係から再三、出席簿の提出を求められたが、提出しなかった。
 ○ 通知票の出欠欄の記入が不正確。
 ○ 指導主事らに対して、「教科書は使わない」、「学習指導要領に定められた音楽教育
   はしない」などと言った。
 ○ 校長の指示した年間指導計画書も出さなかった。
 ○ 通知票に生徒の出席番号もなく、押印もない。
 ○ 5段階評価法も、職員会議で確認された後も、無視する。
 ○ 男子生徒の授業妨害を理由に、5分で授業 打ち切り、「 ドアホー お前ら人間か 」と
   いった。  また 特定の生徒を非難することが多い。
 ○ 学級通信も 6月 10日から作成せず、また誤字も多い。
 ○ 学級日誌も 5月 8日以降 検印せず、6月 28日 からは閲読もしなかった。
 ○ 入学式、始業式でもピアノ演奏に失敗、中断したまま。
 ○ 研修ノート不提出、新規採用教諭のレポートも不提出。
 ○ 宣誓書の不提出
 ○ 4月当初を除き、出勤簿への押印の怠り、ある時は 約 2月間も押印せず。
 ○ わき見運転で追突事故を起こした。 そのために 口頭訓告処分をうけたが、その後、
   職員室で 「教育長のバカヤロー、ドアホー」などといった。
 ○ 職員室で バレーボールを床についたり、他の職員の机に腰をおろして電話をしたり、
   雑談したりした。
 ○ 複数の女性教員の体に触ったこともある。
 ○ Tシャツ、ポロシャツ の上着にトレパンをはいて授業、それについての校長の指示に
   も従わなかった。
 ○ その中学校で育英会役員会が開かれているのを知りながら、午後 10時頃、音楽室
   でピアノを演奏し、大声で歌った。 午前 1時頃まで続く。  
3 判決    9月 30日付けの分限免職処分を支持する。
【コメント】 条件付き採用教員についてさえ、このようにハードルが高いと痛感する
次に、文部省『教育委員会月報』 にある事例を挙げておこう。
2 大阪地裁  平成 11. 1. 20 判決   請求棄却 ( 分限免職を認める )
                       本人 控訴中       『同月報』 平 11. 12 月号
  X 中学校教諭は、平成 8年度には無断で欠勤または退勤を繰り返し、平成 9年度に
 は 5月 6日以降すべて無断欠勤するなど、勤務成績は著しく不良であった。
 処分辞令・通知書も突き返しているが、口頭でも告げられていたので通知は適法で
 あった。
【コメント】 具体的な欠勤日数はわからないが、その状態によっては、むしろ遅きに失
       したともいえよう。 従って『提言』 でも述べたように、基準やガイドラインな
       どで例示されることを期待したい。
3 秋田地裁  平成 5. 9. 24 判決    請求棄却 ( 分限免職を認める )
                             『同月報』 平 6. 7月号
 Y 高校教諭について、
 ○ 授業の指導能力に欠ける    ○ 生徒の人格を損なうなどの発言が多い。
 ○ 上司の命令に従わない      ○ 同僚の反抗的で暴言を吐くなど
 ○ 生徒との信頼関係に著しく欠ける

判決理由の骨子  [簡単に矯正できない]、[適性に著しく欠ける]
【コメント】 今後、つくられる基準やガイドライン では、授業の指導能力に欠ける例、
       生徒の人格を損なう発言の例、同僚との協調性や生徒との信頼関係を
       著しく欠く例などを、その頻度も含めて例示されることを期待したい。
4 東京高裁   平成 7. 11. 29 判決     請求棄却 ( 分限免職を認める )
                            『同月報』 平 8. 8月号
Z工業高校教諭について、
 ○ 板書のみの授業      ○ 実習指導でも実技を行わず、安全指導も怠った。
 ○ 生徒指導でも適切な対応ができない。    ○ 教科指導力が著しく劣る。
 ○ 校長の指示に従わない。  ○ 担任をもつことを拒否する。

判決理由の骨子   [容易に矯正できない性質のもの]
【コメント】 前述のコメントと同様、『基準』 やガイドラインでは、その頻度も含めて
       例示されることを望みたい。
 2000年9月記   続く ..クラス担任はずし 転任 ( 転職 )の判例.    
                
無断転載禁止