37. アメリカのチャータースクール:Charter Schools





はじめに
 今( 2000年12月), アメリカ (U.S.A.) て゛は、チャータースクール、すなわち特別に認可
された公立学校が広く普及してきている。 その数、2000を超え、いずれ 3000にもなろう
といわれている。  現に多くの教育委員会規則にも shool district or charter shools
と併記することが普通になっていることからも理解できよう。

 既存の公立学校が、親たちの望むような教育をしなかった場合に、チャータースクール
を創って、認可され、学校予算や教員などの支援を受け、また既存の学校関係規則には
とらわれないで、可成り自由に運営できる教育制度である。 しかし、成果が挙がらなけれ
ば、例えば 5年後に閉鎖されるという制約も課せられる。

 わが国でも先に読売新聞が提言したり、またこの 12月下旬、教育改革国民会議が最
終報告書で、新しいタイプの公立学校 : コミュニティスクール を提言した。 文部省の考
えは今ひとつはっきりりしないが、しかし不登校の生徒が 13万人ともいわれ、また[ エ
リートか平等か]と論議される中で問題視されているるように、わが国の教育は 生徒の
意欲や能力を十分に伸ばすことに応えていないのではないかとの懸念も強い。

 なるほど[皆で仲良く力を合わせて]という、わが国特有の手法やその教育的効果は大き
い、またそのような特別な学校を多く創ることによって、既存の公立学校に空洞化現象が
起こる懸念もあろう。また,わが国では、学習塾が補完している面も無視することができな
い。しかし前述のような懸念に対応すべく、いずれ、このようなタイプの公立学校をつくっ
たほうがよいと考えている。
 その際、参考になると思うので 、アメリカのチャータースクールについて概観することに
する。資料は アメリカで権威のある機関とされる 首都 Washington にある『教育改革セン
ター』 : The Charter for Education Reform のそれによる。

概要
 チャータースクールを創るためには、先ず州がそのことを州法で制定する必要がある。
現在、37州が制定しているが、そのなかで前述『センター』が最も進んでいると評価して
いるのは Arizona州で、また最も遅れているとしているのは Mississippi 州である。
従って最初 に、この二州の州法を述べる。 次いで、その中間的な州について触れる。
その後、同『センター』の説明を要約する。


なお、次回 (2001年 1月下旬頃)には、杉田の質問に応えてくれたアメリカの チャーター
スクールの校長その他関係者からの回答などを述べる予定である。
T 各州法の要点
1 Arizona 州
 1994年に制定され 1999年に改正された。 前述のとおり 37州のうちで最も進んでいると
 される。

○ 最大 1年に 25校を州教委が認可することができる。 現に 25校づつ認定されてきた。
  また、地方教委が認可できる校数には制限が設けられていない。
  従って、2000年 春 現在で 352校。
 【註】 しかし、別の資料では 2000年 12.21日現在で 408校、 生徒数 94.759 となっ
     ている。
○ チャータースクールを認可する機関 ....... 地方教委、州教委 および州チャーター
  スクール委員会 ( これは州法で新たに制定された委員会 ) のいずれもが認定する
  権限がある。

○ 設立を申し出る者 ...... 公共の団体、私人 、私的な組織のいずれでもよい。
○ チャータースクールのタイプ ..... 公立学校からの転換校、私立学校からの転換校
                     および 新設校。 しかしホームスクールはできない。

○ 設立を拒否された場合 ..... 他の認可権限のある当局に請願することができる。( 例
                   えば、地方教委から拒否された時は チャータースクール
                   委員会に請願するなど)
○ 設立の請願のさい ..............こまごました公の証拠資料を整える必要はない。

○ 設立母体 ............................チャータースクールの設立を申し出た者
○ チャーター評価の最初の期間 ... 15年
      【 コメント 】 このように非常に長い。気長にその評価を見ようという姿勢か 。
○ 多くの州法、地方教育関係法、規則 や政策には拘束されない。

○ 法的自治 .... 有り。そのチャータースクール実体の統治による。
           【 コメント 】このように可成り自由な裁量が認められる 。
○  しかし、そのチャータースクールの規則や主題は広く世間に公表されていること。

○ チャータースクールは会社など利益追求の団体でも設立することができる。
          【 コメント 】いわゆる帰国子女の受入などに有利か 。
○ 生徒の通学の輸送手段
        地方教委が認定したチャータースクールについては、その教育区に輸送の
        責任がある。その他のスクールについては州が、その輸送を助けるものとする。  
○ 施設・設備の援助
        州教育局は チャータースクールに適していると考える州の建物で空いてい
        るもののリストを公表しなければならない。 また利益を求めない団体のチャー
        タースクールは産業開発公社から財政的援助を求めることができる。
○  技術的援助 .............. 州教育局より援助する。
○ 必要とされる報告.... 他の公立学校と同様に年間の報告書を親と州教育局に提出する
               ものとする。会計検査も受けなければならない。
○ 財源
     地方教委が認可したスクールは交渉によって、またそのスクールの特殊性によっ
    て金額が決定される。
    その他のスクールは、それと同じようなレベルの公立学校に準じて決定されるが、年
    間 生徒一人あたり約4.000ドルである。
    その交付の経路は地方教委の認定校は郡を通じて、その他については郡財務局か
    ら交付する。
○ 財政の運営については自治であ。
○ 設立資金 ....... 州では 年間、100万ドルを予算する。
○ 教員
    教員は既存の教員交渉団体に残るか゛、その独立した組織として当局と交渉した
    り、活動したりすることができる。
○ 教員免許
    チャータースクールの教員については必須要件ではない。
    【 コメント 】相当な自由度というべきであろう 。
○ 教員は地方教委から 最長 3年間の休暇をとることができる。 退職時の優遇措置につい
  ては他と同じである。
○ 生徒.... 州内のすべての生徒は誰でも申し込むことができる。
       地方教委の認可校の場合は、その教育区の生徒を優先する。その次はその兄
       弟姉妹。
○ 入学資格 ... 特にはない。
○ 定員オーバーの際は くじ引きなど、公平な方法による。
○ 危険負担条項 ............ 特には規定しない。
○ 人種バランス条項...... 特には規定しない。
○ 生徒のテストを受ける義務
       州全般について実施されるテストを チャータースクールの生徒は受けなければ
       ならない。また、全米で実施される標準テストについても同様である。
     【 コメント 】このように学習成績についての客観的評価がなされる。わが国でも
             何らかの客観性のあるテストが必要であろう 。
○ 設立の場所
       教育区から少し離れた場所であっても適当なところがあれば、地方教委は設立
       を認可することができる。
○ この法律は州議会のみが改正することができる。

 【 コメント 】 幾つかの項目について個々にコメントしてきたが、非常な“自由度”というべ
         きであ ろう。次に述べるMississippi州のそれと比較されるとよい。
2 Mississippi州
実施している 37州のなかで最も遅れているとされる。 州法は 1997年に制定された。
○ 州法では毎年 6校まで認可してもよい、としている。 しかし、2000年 春 現在で認可された
  スクールは 1校のみである。
○ 設立を認可できる機関 ...... 州教委のみ。 しかも設立の請願はまず、地方教委の承認を
  受けなければならない。
               
○ 設立を申し出ることの出来る者 .... 現存の公立学校のみ。
○ チャータースクールのタイプ ........... 公立学校からの転換校のみ。
○ 設立を拒否された場合 ..................... 訴えはできない。
○ 設立の請願について ....................その教委職員、教員の過半数の賛成が必要である。
                       また親たちがスクールの必要性を十分、説明できなけ
                       ればならない。 更に地方教委の承認につ いては前述
                       のとおり。 
○ 設立の母体 .............. 公立学校のみ。
○ 最初の評価期間 .... 4年
○ 多くの州法、地方教育関係法、規則や政策には拘束されない。但し、このチャーター法に
  抵触しない限りである。
       【 コメント 】 一旦、認可してしまえば、その関係法に従うように配慮されている 。
○ 法的自治 ..... 認めない。
○ チャータースクールの規則や主題は広く世間に公表されていること。
○ 会社など利益追求の団体からの設立請願は受け付けない。
○ 生徒の通学の輸送手段 ....... 特に規定しない。
       【 コメント 】そのスクールで考えよ、との意味 。
○ 施設・設備の補助 ..................なし
○  技術的援助 ............................ 請願の主旨によって援助する。
○ 必要とされる報告 ..........毎年、親、コミュニティ、地方教委、州教委に進歩した旨を報告し
                 なければならない。 その後、州教委は議会へ報告すること。
○ 財源 ...............................基礎財源については特に規定しない。 追加財源についても同様。
○ 財政の運営 ................... 自治はない。
○ 設立資金 ........................ なし
○ 教員 ...................................チャータースクールの教員は地教委の教員である。
○ 教員免許 ....................... 他の公立学校の場合と同様である。
○ 教員の休暇 ...................申し出ることはできない。
         【 コメント 】従って派遣する方法をとるのか 。 退職時の優遇措置は他と同じ。
○ 生徒 ............教育区の生徒と学校職員の子弟。 優先順位は、在校生、学校職員の子弟、
          他の教育区 の生徒の順序とする。 定員オーバーのさいは別途、規定する。
○ 危険負担条項 ............................. なし
○ 人種バランス条項...................... 特には規定しない。
○ 生徒のテストを受ける責任 ... 他の公立学校の生徒と同じ。
       【 コメント 】 見てのとおり。かなり制約の強い州法である。 
次に中間的な州について見てみよう。

3 California州
 前述『センター』の評価では可成り進んだ州とされるが、州法は 1992年に制定され、 1999年
に改正された。
○ 350校まで設立できる、また毎年 100校が限度とされている。  2000年 春現在 239校。
 『註』 しかし、他の資料によれば 261校、生徒数 121.598とあり、さらに州当局の回答によれば
 400校となっているので法改正があったものと思われる。なおその回答については次回に述べ
 る予定。

○ 設立を認可できる機関 ............ 地方教委のみ。
○ 設立を申し出れる者....................一人または複数の人
○ チャータースクールのタイプ......公立学校からの転換校、新設校、ホームスクールからの
                     転換校、但し 私立からの転換は認めない。
○ 設立を拒否された場合...............地方教委によって拒否された時は郡教委へ訴えることが
                     できる。さらに州教委へ訴え出ることができる。

○  設立のさいの公的資料...........公立学校からの転換のさいは、その学校の 50%以上の教
                     員の賛成が必要である。
○  設立母体.......................................... 請願に書かれた者
○  チャーター評価の最初の期間... 5年
○ 教委の法令・規則を原則としては守らなければならないが、チャーターに規定された事項
  により交渉によって決める。
○ 法的自治...........有り。 教委とは独立した、利益を追求しない機関とみなされる。
            その統治は チャーター [憲章 または特別な趣旨・目的] によってきめら
            れる。 親の参加が必須である。
            また、スクールの規則や主題は広く公表されていること。
            【 コメント】 統治に親の参加を明記しているのが特徴的である。

○ チャータースクールは会社などの利益追求の団体でも設立することができる。
○ 生徒の通学の輸送手段......チャーターで規定すること。 但し、教委は輸送を保証すること。
○ 施設・設備の援助................特には規定しない。
○ 技術的援助.........................特には規定しない。
○ 財源..................................その教委の生徒一人あたりの平均額と同じ。 年間 約 4000ドル
                  財政の運営も自治
○ 設立のさいの資金 ........... 25万ドル の回転信用ローンを利用する。またスクール独自で
                    5年後返済のローンを組むことができる。
○ 教員   チャータースクールの教員は独立した組合を作ることができる。 そのさいは 州の
        教育労働法に従う。 また従来の組合に残って独立した分会として チャータース
        クールの統治体と交渉するこもできる。
○ 教員免許  教員免許 またはそのスクールに必要な資格保持者であること。
         【 コメント 】チャータースクールらしい要件といえよう。

○ 教員の教委からの休暇........ チャーターで規定されたところに拠る。
○ 退職時の優遇措置.................そのスクールが [州教員退職制度]を選べば、それに拠る。
○ 生徒............... 州内の生徒は誰でもよい。 優先順位は兄弟姉妹、住民の順序にしてもよい。
○ 入学資格 ....... 希望する生徒は受け入れなければならない。
           定員オーバーのさいは、くじ引きその他。

○ 危険負担条項........................成績の悪い生徒を受け入れる学校の認可を優先させる。
○ 人種バランス条項...................教育区の一般的な人口比率を参照する。
○ 生徒のテストを受ける責任.....州全般について実施されるテストと一般の公立学校で実施さ
                    れるテストを受けなければならない。 議会の分析担当者は
                    2003年 7月までに チャータースクールの学習成績を調査す
                    るため、中立的な評定員を任命する。
               【 コメント 】このような客観的なチェックが重要なポイトである。
○ 出席率の評価...........出席率の監査も受けなければならない。 インターネットを基本にする
               学校については [独自学習]の概念に一致した方法による。
               【 コメント 】 Arizona州などには、この項目はない。厳しい例である。

○ 教育区の全域にわたるチャータースクール
               一つの教育区(教委)内の、すべての公立学校をチャータースクール
               に転換しようとする場合は、その教委内の 50%以上の教員が請願書
               に署名し、州教委と教育長が承認しなければならない。
         【 コメント 】小さい教委のことを想定した場合であろうが、思い切った策である。
               
4. Virginia州
Virginia州は " 最低に近い " とされている州であるが、その要点のみを列記しておこう。
○ 1998年に州法が制定され、教委ごとに 2校まで認可できる、とされているが 2000年 春 現
  在では一校もない。
○ 認定できる機関は地方教委のみ。 申し出れる者は、いかなる人、グループ、組織でもよい。
○ 新設校、転換校のいずれでもよいが、私立からの転換はできない。
○ 設立を却下された場合は、訴えでることはできない。
○ 設立の請願には、親、教員などの適当な人数が必要とされているが、その数は示されず、
   教委の意見による。

○ チャーター評価の最初の期間は 3年。
○ 州法や教委規則からの 自由は認めない。 また法的自治も認めない。
○ 会社などの利益追求の団体でも設立の請願はできる。
  【 コメント】 この点だけは緩い。

○ 生徒の通学の輸送手段は スクールでやること。
○ 施設・設備の援助については、借り賃は免除する。
○ 財政の自治は認めない。 設立のさいの資金も準備されていない。

○ すべての教員に教員免許が必要である。
○ 生徒はその教育区の生徒に限る。 しかし、不登校など危機に瀕している生徒を優先させる。
○ その他、人種条項や生徒のテストを受ける責任など、他と同じ。

【 コメント 】 以上 4州について州法を概観したが、微妙に違い、また強弱があることが理解さ
       れよう。

    U アメリカ『教育改革センター』説明の要約 追記: The Charter for Education Reform
                                 charter schools 2002 : Results

 2000年12月記      元公立・私立高校長 教育評論家     無断転載禁止