41. アメリカのチャーター・スクール訪問記
         ー提言とともにー


Shoji Sugita:杉田 荘治

はじめに
 今年(2001) 5月末、アメリカのサクラメント市近郊のYuba郡にあるチャーター・スクール
を数校、訪問し、またそこでのEDUCATION: 2001 SUMMITにも参加した。 なお、高校教頭
の亘 明彦さんが同行することを希望されたので、相手方の了解を得て、そのようにした。
訪問については後述するが、まず、わが国の教育について次のよう に提言したい。
T 提言
 将来新設されるであろうチャーター・スクールの生徒も『標準テスト』 または『共通
  テスト』を受けること。
 具体的には


 @ 国や都道府県において統一した『学力標準テスト』を実施されること。
 A 当面、それが困難であるならば、市町村において、『学力標準テスト』を実施さ
   れること。
 B 前記のテストを実施できないときは、
   3校以上の学校が組んで『学力共通テスト』を実施されること。
   ・ 組み合わせは各校の自由とする。 通常の学校とチャーター・スクールとの
     組み合わせでもよい。その組み合わせは変えないほうが望ましいが、場合に
     よっては変更も認める。
   ・ 国語・数学・理科・社会・英語の基礎教科とする。 事情によっては、その一部
     でもよい。 難易度も自由。 ただし通年、同じ難易度が望ましい。
   ・ 年、一回以上
   ・ 問題は公表されること。 その方法は生徒を通じて親に配布するなど、一般的
    に、知ることができる方法であれば自由。
 C 前記のように、チャーター・スクールの生徒も受検するものとする
   極めて例外的の場合は、第三者機関の判断に因る。
 
【註】 これによって、無学年制をとるチャーター・スクールも一人ひとりの生徒やス
    クール全体の学力の推移を知ることができる。ただし、チャーター・スクールに
    あっては、それはかなり大幅に弾力的に評価すること。
2 音楽、美術、ダンス、絵画、彫刻、コンピューターなど、特色あるチャーター・スクール
  [認可要件]にあっては、展示会、発表会などは必ず実施し、その専門家の講評、
  評価を受けること。
3 通常の学校への不適応生徒などのチャーター・スクールについては、親の満足度、
  生徒の満足度、旧担任教員など教育専門家による観察など、できるだけ生徒の向
  上を客観的に計れる方法によること。スクールの評価についても同様である。
  また、[おおむね、このような結果である]と公表されること。 その方法は自由でか
  なり大幅な弾力性を認めること。
4 スクールの統治・管理
  都道府県教委または市町村教委が認可する。 都道府県または市町村も考えら
  れるが、前述のほうが現実的、効果的と考える。
  また、スクールは前記教委の管理下におく。 しかし一旦、認可した以上は、日常
  的なコントロールや教委諸規則・方針の励行などを求めず、スクール委員会の自
  治に委ねる。 反面、前述のような責任を負わせる。
    例  委員 その教委管内の教員 2名     親の代表 2名
            教委から        1名     事業主・地域から 2名
5 生徒
   原則としては、その教委管内の生徒。 しかしそれ以外についても広く受け入
  れること。 広く才能のある生徒を伸ばすためのスクールで゛は、定員・優先順
  位考慮すること。 また、親の協力については誓約させるなど。いわゆる[スクー
  ルへ預け放っし]は受け入れない。 この意味ではある種の『契約学校』といえ
  よう。 しかし、いかに学力が劣っていても、誓約を守る限り、退学にはしない。
U Yuba郡の教育とTeagarden教育長
 この5月に訪問したCalifornia州のYuba郡は、Sacramento市の北約 80kmにあ
 る数万の人口と、五つの地区教委と14.000人の生徒をもつ郡(County)である。 
 しかし、広さは、わが国の小さな県の半分ほどもあり、従って地区教委や学校は散
 在している。
○ 郡の教育長であるRichard Teagardenさんは、直接Yuba郡全体の住民から
  選挙によって選ばれている点が、わが国の場合と異なる。現在2期目。 2期目
  のさいは対立候補なし。  (Teagardenさんについては、後で補足説明する)
○ その教育長のもとで、郡全体が、例えば、2月の第一週は『効率をたかめるた
  めに、『自分たちの周辺をきちんと整理しよう』という行動目標を定め、そのため
  に家族としての行動、すなわち、『子供に、おもちゃやゲームを取り払って、自分
  たちの部屋をきれいさせなさい』、また学校では、『自分たちの教室を清掃しなさ
  い。 机もきちんと整頓させる』などの目標を掲げ、また高校生には、『自由と秩
  序について討論しなさい』などと取り決めている。 そしてその結果をチャーター・カ
  ウント: Charter Counts してお互いに励ましあっている。 従って、このYuba郡
 全体の教育は、チャーター・スクール的といってよかろう。   
○ しかし、ここでもチャーター・スクールはある。それはある種の『契約学校』といえる。
  すなわち、生徒本人も入学することを強く望み、学校の指示に従うことを誓約し、
  親も[学校に協力する]ことを約束した場合にのみ、入学が許されるからである。
○ また農業が主なる産業であり、アメリカ原住民の先祖をもつ住民、失業した家庭、
  [契約]してまで勉強したくない生徒など多様であり、そのような生徒、親の教育選
  択を尊重しながら、その一つとしてチャーター・スクールがあることは他の地方などと
  同じである。
○ 一方で、非常に能力の優れた生徒などに対するチャーター・スクールも当然に意図
  されているが、なにせ人口は少なく、しかも生徒も分散しているような環境から、
  それらに対して一つのチャーター・スクールを創るとなると実際には困難であろう。 
  そのなかにあって次のCharter Academy for the Arts が、その理念を生かした
  良い例といえよう。
V Marysville 芸術・技術チャーター・スクール: Marysville Joint Unified
              School District; Charter Academy for the Arts
1 このスクールは、7年生から12年生( 中・高校生)に対して、創造的な芸術・技術
 を発達させることを目的とする。
  2000年4月18日に認可された新しいスクール
 である。現在、100人在籍。 来年は、150人に、更に300人まで増やす計画である
 と聞いた。
2 特色
 ・音楽、ダンス、ドラマ、絵画、彫刻、文字表現、マルチィ・メディアの重視
  そのために、コンピューターの操作や利用、デジタルカメラの利用など、技術教育も
  重視している。
3 評価の方法
  次の三領域の総合とする。
 ・ 国・社・数・理・外国語の標準テストの成績...... 生徒は標準テストを受けなけれ
                              ばならない。
 ・ 発表、展示した作品や演技の評判と査定....... また、地方の劇場で音楽、ダンス、
                             ドラマの演技をおこなうことも期待
                             される。
 ・ “いつでも、どこでも学ぶ”という生涯を通
じて学ぶ姿勢..... また、地域社会で、
                     それらの仕事に協力することも必要である。

 ○ 標準テストの目標
   ・ California州標準テスト: SAT9 ( Standard and Testing-9 )
     リーディングと数学では、90%以上の生徒が、これをクリアすることを目標と
     する。
   ・ 郡の書き取り統一テストでは、90%以上の生徒が、スコア4以上をとることを
     目標とする。
 その他、出席率、代数T、地区生徒の模範行為でも、すぐれていること。
 州のGolde State Exam.でも期待される。
4 入学の要件
  California州の住民であれば、誰にでも開かれている。現に今、Yuba郡以外の
  生徒が、25人在籍している。 ただし、入試には、オーディションを受けること、演
  技や作品を示すこと、また強い意志や能力がチェックされる。
5 管理
  Marysville 連合教育区教委の管轄下にあり、施設・設備の共通利用や事務の委
  託、教員人事などについて密接な関係を保つ。 しかし、できるだけスクールの自治
  を認めて、日常的なこまごましたことには干渉しない。

【コメント】 ご覧のとおり。優れた才能の子を伸ばし、しかも基礎教科、技術も重視し
  ながらバランスのとれた人物をそだてようとしている。広く門戸を開いていることにも
  注目したい。 生徒は優秀で生徒指導上の問題も皆無とのことであった。
W Yuba郡職業予備訓練チャーター・スクール: Yuba County Career Preparatory
                           Charter School
 このスクールは通常の学校で停学や退学[実質的には長期の停学]になった生徒に対
して、職業訓練を施し、再教育[矯正]する役割を果たしているある種のオールタナティブ・
スクールでもある。 このようなチャーター・スクールもある。

1 生徒
   9年生(中3)から 12,年生(高3)
 ○ 1998年度の生徒数 ...... 912名   しかし、生徒は常に入れ替わるので、この数は
                  一年間に在籍したことのある数である。
  高校生の大部分は元の学校での落第生等である。また生徒の大部分はYuba郡の者
  でおるが、35名は他の郡の出身者であった。

 ○ 生徒一人平均の在籍日数...... 75日
   (参考) 160日以上 在籍した生徒 .... 120名
         140- 160日 ...........................  46名
         最短 20日以下...................... 265名
2 人種・性別
  アメリカ原住民 ..... 9 %        アジア系..... 1%以下     太平洋諸島.... 1%
  ヒスパニック............. 13%        黒人........... 3%         白人................73%
    また男女別では、女子 54%   男子 46%
 と女子の多いことが意外であった。
3 終了後
 ○ 元の学校で落第した生徒のうち、この一年間で、39名がここで卒業証書を手にした。
   彼らは、その後、さらに職業訓練を受けたり、短大や州立大学へと進学したが、親も
   大変喜んでいるとのことである。
4 契約学校
  ここも(契約学校)といってよかろう。 というのは入学時、本人にも親にも、しっかり誓
 約させる。学習の目標をきめ、親も家庭での責任を果たすことを誓約する。
 生徒は州や地区の標準テストであるSTAR, WRATを必ず受ける。
【註】 このような誓約をできない生徒は、きめられたオールタナティブ・スクールへ送られ
    るのであろう。 通りかかった時、そのような施設を見た。
5 スクールの財政
  州から生徒数に応じて支給される。 年間( 1997 - 98 ) 125万ドル
 その半分は教員の給料に当てられる。 その他、教科書、備品、使用料など。
 会計監査を受けることは当然である。

6 学校委員会
    親 4名、 教員 2名、 事業主 2名、 郡長によって選ばれた者 1名
7 また成果が挙がっていないと判断された場合はYuba郡教育長によって、チャーターを
  取り消される。

【コメント】 懲戒を目的としたオータナ・スクールではなく、このように職業教育によって自
      信をつけさせ再教育する方法は、わが国にとっては参考になろう。
 しかも、
      Yuba郡以外の徒も受け入れているなど、他との協力関係にも注目したい。
Wー2  建設チャーター・スクール: Charter Construction Academy
 前述の職業予備訓練チャーター・スクールの卒業生の進路の一つとして、このチャーター・ス
クールが青少年のために設けられている。

○ ここでも親が、子供の教育に責任をもつことが強く求められている。 また、教育専
  門家がサポートする仕組みになっている。 そしてここでは実習や実技に重点をおく。  
  そのために毎月、作品の展示や発表をし、教育専門家の観察、評価を受けることが
  義務とされる。
 従って、このスクールの認定証書には次のように具体的に記載してあった。
 【例】 [あなたは、屋根葺きとSwansoのスピード正方形を使って、上手い角度で作
     り上げる技術を習得しました]   [床のフレーミングの技術を習得しました]  
     [建物の表装技術を習得しました]   [大工の諸道具の使い方を習得しました]、 
     [建物の壁のレイアウト・フレーミング]、 [水準器の設置と使い方]、[建物の安全
     性についての技術]など。

○ スクールの統治方法
  前述の職業予備訓練スクールと同じ。
【コメント】 ご覧のとおり。チャーター・スクールの特色を生かしながら進められている。 
       しかし、Carol Holtz校長によれば[10%ぐらいの生徒は脱落していく]とのこと
       であった。
  2001年6月上旬 記       無断転載禁止

           続く .. Yuber Riverスクール、教育サミット(Yuba郡)など

                         

           English version, here