X−CON2−Final レポート

シャトルミッション

「すみません! 遅れました!!」
 私は、ミッション・コントロール・ルームに駆け込んだ。この部屋のボス、FlightDirectorの鋭い視線に首をすくめながら、正面のメイン・スクリーンに向けて段差を付けた床を、最前列に向かって駆け降りる。既に照明は落とされ、薄暗い室内には、かすかな緊張と次第に高まる興奮が上げ潮のように満ち始めている。
 自分の席に付き、ヘッドセットを被ると、私はもうPublicAffairsOfficer……
地上側の広報管制官、だ。私の使命は、このミッションの進捗状況を把握し、正確に報告する事。今後、ミッション終了まで、私の報告を元に全世界への報道・広報活動が行われる事になる。ミッションそのものの成否には影響しないものの、今後の予算獲得を考えれば無視できない影響がある……かもしれない部署である。
 私の耳に、FDがマイクの音量を確認し、各員を点呼する声が聞こえてくる。「PAO、聞こえるか?」「はい、感度良好です!」いよいよ、ミッションの始まりだ。
「こちら、PAO。打ち上げまでの残り時間が、3分を切りました。カウントダウンが再開されます……」
 各部署の担当から、次々と報告が入り始める。地上の気温、風速、機体の状況……
各担当が機器をチェックし、モニタ画面の表示を確認し読み上げる。
 そして、発射15秒前。再び私の出番だ。カウント・ダウンは、私の特権。私の声が、打ち上げへの号砲になるこの瞬間。何度味わってもたまらない。
「発射10秒前、9、8、7、6……」腹に響く轟音が次第に高まって行く。
「5、4、3、2、1、……」巨大なノズルの下に吹き付ける炎、吹き上がる蒸気。
「……Fire!!」そして、一際輝かしい光と火!!
 スペース・シャトル「スティングレー」は、炎と蒸気の柱に乗って馳せ登る。力強くゆっくりと……しだいに速度を増しながら、高く、遠く、ついに人の領域となったあの星々の世界へと……。
 しかし感動に浸ってばかりはいられない。仕事は、まだ始まったばかりなのだ。次々と、TrackingOfficerの報告が入り始める。この報告を一般向けに噛み砕いて解説するのが私の仕事なのだ。
 TOが報告する。「オービター・ノーリターン」
 それを受け、私は解説を始める。「こちらPAO。オービター・ノーリターンとは、オービターが軌道速度に達し、地上への帰還が不可能になった事を意味します……」
 これからスティングレーは、軌道上でのミッションをこなしたミッション・スペシャリスト達を回収して還ってくる。彼らが無事、地上に降り立つまで、我々マリンビルのスタッフは、一人一人の職分を果たしつつ、スティングレーを見守り続けるのだ。
 スティングレーの車輪が再び大地を踏みしめるその時まで、我々に休息の時はない。

 こうして我々のミッションはスタートしたが、ここに至るまでの道のりは平坦ではなかった。
まずは、訓練機器を使用し体力と身体適正が試される。
マルチアクシス マルチアクシス画像

宇宙空間に体一つで投げ出されジンバルロックが起こったような、そんな回転を加えられる
自分がどの方向を向いているのか、どちら方向に回転しているのか、それをつかまなければ、シャトルに、ステーションに戻る術は無い
5DF 5DF画像
無重量空間では、重心移動では体の向きは変わらない。その代わり、地上では無視できる「反動」でいとも簡単に体の向きが変わる。地上のように床を走ることはできない。
不安定に揺れ動く体をこの2本の腕でしっかりホールドして動作しなければ、簡単に宇宙の孤児だ。必ず体のどこかで壁面に掴まって動く、そんなトレーニングだ
ムーンウォーカー ムーンウォーカー画像


月面では重力は地表の1/6。当然体重も1/6だ。歩こうと思っても、体は飛んでしまう。二本の足での移動は思うようにならない。だが、我々もいつの日か月面へ降り立つ、そのための訓練だ
アームMMU
最近実用化された、宇宙空間を自由に移動する機械、それがMMUだ。
エァを噴射して移動や回転をする、それを地上で再現するのがこの機械。もっとも、最近はプールでトレーニングするのでNASAでは使っていない代物だが・・


この訓練を乗り越え、晴れて乗員となった我々には一つ特権が与えられる。シャトルの”命名”だ。今回のミッションでは4機のシャトルを使う。それぞれに名を付けよう。
更に今回の我々にはミッションコントロールとスペースステーションにも名を付けられる特権が与えられた。
では、それを紹介しよう。
チーム名 オービター スペースステーション ミッションコントロール
オネアミス1 ヤマト イスカンダル −−−−−−
オネアミス2 はりぼて どんがら 貝塚
ダイダロス1 スティングレイ −−−−− −−−−−−
ダイダロス2 ノーチラス −−−−− −−−−−−
はりぼて”が”貝塚”の指示のもと宇宙へ飛び立ち、”どんがら”を経由して地球に戻る、
なんて我々にふさわしい命名なのだろう・・・

我々のメンバーは
地上班 宇宙班
FD フライトディレクター CMDR コマンダー
GCO グランドコントロールオフィサー PLT パイロット
LD ローンチ/ランディングディレクター MS1 ミッションスペシャリスト
WO ウェザーオフィサー MS2
TO トラッキングオフィサー MS3
OSO オービターシステムズオフィサー MS4
PAO パブリックアフェアーズオフィサー MS5
PL/EVA ペイロード/EVAオフィサー MS6
MST ミッションサイエンティスト MS7
SS/PI スペースステーション/プリンシパルインベスティゲーター MS8
この20人がフルメンバーだ。  最も今回は多少欠員がいるのだが。

さあ、新しい機体のもと、宇宙へ旅立ちだ−−−−バックに流れる”真っ赤なスカーフ”−−−−

更に我々には、新たな訓練も待ちかまえていた。   机上シュミレーションである。
チーム全員参加でミッションプログラム台本の読み合わせを行い、本番に備えるのである。
これは、ミッションの流れやスイッチの操作タイミングなどを身にしみこませる、大切な儀式なのだ。
台本にはシャトルは”オービター”となっているが、これを”ヤマト””はりぼて””スティングレイ””ノーチラス”と言い換えるためにも、全て体にしみこませなければならない。  訓練は深夜0時まで続いた。皆、熱いのだ。

更にその合間を縫って、我々にはこなさなければならぬ課題が一つ与えられた。レクチャーである。
X−CON2では、我々のチームに主催者から、困難な課題が毎回一つ与えられる。今回の課題はかなりきつい。では、それを紹介しよう。
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レクチャー課題
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これで一日目は終了した。
ブリーフィングルームでは愉快な話題で盛り上がっているようだが、私には大切なミッションが控えている。
今宵は体を休めることにしよう。

さあ、今日は宇宙へ旅立つ日だ。我々は一日のうちに2ミッションをこなさなければならない。

やっとここで訓練機器でなく、実物のシャトルとコントロールルームへの立ち入りが許可される。
オービターのコクピットはとても狭い。そこに隙間無く並んでいるスイッチ類。それらは全てミスタッチしないようにガードされている。それほどシビアな世界なのだ。ここが棺桶とならぬよう、細心の注意をもってミッションに望もう!
コントロールルームの正面には巨大なスクリーンが有り、そこには我々の乗り組むオービターが写されている。すでに燃料を満たされ、後は我々が乗り組むだけだ。
FD席に軽く挨拶をして、私はそこを離れた。

そして、冒頭の打ち上げへと続くのである。


打ち上げに成功した後も、我々には休む暇は無い。

最初のEVA、スペーステレスコープの修理に取りかかる。不調となったユニットを取り替えるのだ。
ミッションスペシャリスト達の活躍の場である。このミッションはMS2・3・4が担当する。
カーゴベイに固定したテレスコープにとりつき、ハッチを開け、ユニットを取り出し、交換する。
言葉にすればそれだけだが、かなり苦戦しているようだ。がんばれ!MS達よ!

少々事故も有ったようだが、何とか無事終了した様だ。さあ、ステーションに向かうぞ。
ここでステーション勤務のMS達と勤務交代が行われる。そのためにも無事ドッキングしなければならない。
パイロットの責は重い。距離が5000mを切った。さあ、頼むぞ!

その間、ステーションのMS達は最後のEVAを行っている。テトラへドロンの組立だ。ステーションが完成した後も、補修や技術の劣化を防ぐため、このEVAは継続されている。がんばれよ!時間をオーバーしたら置いていかれるぞ!

そして我々は帰途に着いた。  だが!最後の難関、”大気圏突入”が控えている。
何度おこなっても、この瞬間は緊張する。角度を0.5度間違えるだけで、火の玉か宇宙の孤児だ。この回廊は紙よりも薄い。  さあ、行くぞ!

コングラチュレーション!私は叫んだ。拍手が聞こえる、指笛が聞こえる。地上の私たちもやっと休暇がもらえるのだ。いま、コンボイがオービターへ向かっている。もうすぐ彼らもこのビルへ戻ってくるだろう。

では私もPAOとして最後の仕事をするとしよう。私は呼びかける、
「ミッション・コントロール及びヤマトの諸君・・・」
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